南 郁夫の野球観察日記(58) 甲子園の夏。西宮の夏。

2018年8月17日(文・写真/南 郁夫)

「軍隊まがい」で時代錯誤という意見が聞かれる中、それでも大人の事情ゆるぎなく?甲子園球場では第100回全国高校野球選手権記念大会が絶賛酷暑開催中である。選手の健康を考えれば「ドームで」みたいな声もあるようだが、そ、それって高校野球? 汗と青空と土埃の高校野球こそ「日本の夏の風物詩でしょ~」と、エアコン効いた部屋で麦茶飲んでテレビ眺めて言ってるのは、単なる旧世代のノスタルジーか。確かに、暑すぎる。

ちょっと前までは、日本中が甲子園に夢中だった(ドカベン、桑田・清原、松井、松坂…)。が、正直、今は個人的にはテレビやってれば横目で眺めるくらい。それでも今年の猛暑の中、朝テレビをつけるとすでに結構な人が甲子園球場に詰めかけているではないか。「夏の甲子園、かあ…」せっかく原チャリで30分の場所でやってるんだから、久しぶりに様子を観察してみるのもよいかと突然思い立ち、出動することに。無料の外野席でちょっとだけ眺めるのもいいかな、とペットボトルに水詰めて。

で。到着してみると… あ!外野席が有料になってるやんか!と大人気なく動揺。いつからですか? 無料でダルビッシュ(東北高)見た覚えあるけど… てそれ、何年前?無料の頃は、私が「甲子園原人」とよぶ真っ黒に日焼けした観客たちが外野席に文字どおり「棲息」しており、それレポートしようと思ったのに…。500円が惜しいわけではないが(ないが)、試合が見たいわけでなし、周辺レポートに軌道修正、と。

朝の10時というのに、球場周辺の熱気はすごい。ちょうど第一試合が終わったところで、アルプススタンドの応援団入れ替え作業中なのである。炎天下で待つのも大変と思うが、三塁側では揃いのシャツを着た老若男女の応援団(近江高校)がみっしり詰めて並ばされており、見ているだけでこちらも暑くなる。しかし、これから晴れ舞台という高揚感で皆さん元気一杯! 一種の同窓会みたいになっているのであろうか、あちこちで歓声が上がったりして、にぎやかなこと、にぎやかなことー。

正面の方に回ってみると、駅から続々と人が殺到しており、入場券売場は長蛇の列。が、各ブースには「売り切れ」表示が出されて「発売の見込みは不明です」と意味不明のアナウンス。まだ盆休み前ド平日の1回戦が満員とは…。大会第3日のこの日は、第2試合に智弁和歌山vs近江、第3試合に前橋育英vs近大付と、近畿勢が続々登場するから? やはり甲子園人気はすごいと言わざるをえない。男の子2人を連れた汗だくのお父さんが「売り切れ」表示で途方に暮れて「ごめんな、ごめんな」と子どもに謝る姿を見ているだけで、こちらも暑くなる。

給水タイム

グッズ売り場にも人だかり。100回記念大会ということで様々なグッズが発売されており、記念タオルなどが飛ぶように売れていた。しかし… 歴代優勝校が小さい字で写経のように全面にプリントされているのって嬉しいのだろうか? そのタオルを頭からかぶっている人が、耳なし芳一に見えるが。それにしてもグッズの種類が豊富で、それに時代を感じる。「ビオフェルミン」の整備カー・フィギュアが欲しい。プルバック機能付き(笑)。

人混みかき分けて一塁側に回り込むと、まさに第一試合で敗戦した佐賀商の生徒や応援団が退場中。声もなく無表情に撤収していく様子が、トーナメント制の無情感満点である。「立ち止まらないでください」「速やかに退場してください」と叫ぶ係員に思いっきり急がされているのが、気の毒。その言い方は「負けたらとっとと…」て感じに受け取れてしまう。今から佐賀まで帰るのか… と同情。生徒たちにはUSJにでも寄って思い出作りをしてほしいが無理か。お年寄りたちが死にそうな顔で汗をぬぐうのを見ていると、こちらも暑くなってくる。

給水タイム

というわけで、球場周囲を一周。それだけで汗だくだが、夏に汗だくになるのは、気持ちよいなと思った。体で夏を感じた。が、これくらいが限界。野球は見なかったが、球児たちでなく応援する人々の熱気と汗を感じるのもまた甲子園、と適当な結論をつけて退散することにする。

で。バイクを止めたのが球場の南の方で、応援団バスの駐車場も同じ方向である。ので、歩道で「帰る生徒」と「これから球場に向かう生徒」の集団にどっぷりはまり込んでしまった。「帰る」のは第1試合で勝利した高岡商(富山)の生徒、「これから向かう」のは智弁和歌山の生徒である。「なんやこのおっさん」な視線を浴びながらも彼らの話を盗み聞きしていると、ごく普通に音楽の話や遊びの話ばっかし。野球の話は1ミリも聞こえてこない。ま、みんな「動員」やからね。野球、興味ない子もおるやろし。

それにしても、みんな若いしおぼこい。高校の夏休みかあ… と、遠い目に。

その歩道沿いには、昔から「独自の」おみやげ売ってるお店が並んでおり「お祭り」あるいは「観光地」的で楽しいのだが、こういうのライセンス関係、どうなっとんのですかね?「元祖」てどういうこと?

地元の私にとっては、甲子園の夏は「西宮の夏」の風情であった。久しぶりに思い出させてもらった。で、西宮の夏のイメージといえば、「火垂るの墓」(戦争体験者でもないのに)。「火垂るの墓」といえば「香櫨園の浜」(まだ被災前の家族が海水浴するシーン)ということで、どうせなので足(原チャリ)を伸ばして行ってみた。甲子園球場から、ほんの10分である。

映画でも描かれていた西宮回生病院は建て替わっており、風情が消えていた。がしかし、夏真っ盛りの光景。
まだまだ夏はこれから、である。給水タイム!

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」

著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
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