南 郁夫の野球観察日記(161-1)暴挙?日シリ甲子園全戦観察・顛末記

2023年11月3日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

チケット抽選全滅という方も多い中、専属秘書の秘術(エクセルによるタスク管理!)により、なんと3日連続甲子園レフト一般外野席(オリッ応援席にあらず)で観察できることとなった、日本シリーズ2023。大盛り上がりの関西ダービー、いろいろあったこの3試合の展開あれこれや分析などは皆さんにお任せすることとして、野球観察者として私の目に映った甲子園光景をレポートすることにしよう。

甲子園駅前はもう、明らかに選手より戦闘体制のファンの群れに混じって「チケット譲ってください」看板掲げる人、あからさまなダフ屋(体を斜めにして寄ってくる)、各種応援団の仁義挨拶などでカオス状態。記念グッズを売るショップは長蛇の列で、皆さんの財布の紐もガッバガバのお祭り騒ぎ。そら日本シリーズやもんね。ただ、球場周辺は普段と同じでシリーズのための特別なしつらえとかはなく、意外と質素。

それでええのんか?というスイートな荷物チェックを通過してレフトスタンド席にたどり着いてみれば、さすがそこは野球の聖地。夕暮れに映える球場と借景の六甲の山並みが美しすぎる。甲子園球場は野球の古代遺跡だ。

んが。すぐに私は国連人権規約抵触レベルのこの球場の外野席レイアウトに音を上げることになる。人踏んづけて移動しろてか?ちう狭小な座席スペースに加えて、iPadより小さい座面っ。膝に前席の人の背中が当たり、両肘に感じる他人の感触。うぅ。ただでさえ協調性のない私にこの人口密度は厳しい。ここで3日間やと!避難所か。せめて面白い試合を見たい。

とか言いながらも3日間、夜な夜なグラウンドを見つめ続けてレフト・ノイジーのお尻の形が網膜に焼き付いたわけ。みなさんご存知のように連日試合は荒々しい(やや雑な)波瀾万丈の展開で、飽きることはなかった。これを書いてる段階でシリーズの結末はわからないが、各方面ウハウハのすごいシリーズになったことは間違いなく、関西人として嬉しい気持ち。

阪神にドッと流れが行くときの、まるで球場全体が「黄色い蛇」になったかのような「大きなうねり」は現場で感じると、ただただ恐ろしい。あまりの声の大きさに耳がおかしくなる。一般席の少数民族オリッ・ファンとしては、たびたび逃げたくなるようなスリルも感じれてホラー。オリッが得点したときの不気味な静寂も逆に恐ろしく、裏路地に迷い込んだように思わず自分の荷物を胸に手繰り寄せてしまう。

とはいえ、日本は立派な法治国家(のはず)。スタンドの一角にチベット少数民族のように無害なオリッファンが混じっていたとて、ボコられるわけではない(私が見た範囲では)。そこは、うん十年前とは違うのだ。阪神ファンの応援も「う’’ら’’う’’ら’’」濁音感はなく、楽しそうで真っ当ではある。イニング間に人をかき分けトイレに行くときなども両軍ファンが譲りあって、そこはもちろんちゃんと常識人・社会人としてのマナーがある。応援はレジャーという、きっちりした認識が。野球は戦争ではない(球場で配布していた「応援メッセージポスター」によると、阪神球団はファンを「戦闘員」ていうてるけど!)。

多様化を認め合う世の中のはずだが、取り残された方々も若干いる。昔ながらの応援団(*虎会)の雰囲気をことさら濃厚に漂わせ、特攻服に身を包み球場の先住民のような顔をして「ややこしい」自己主張をする人々が!他人に影響ない範囲ならいいのだが、なぜだかこの方々にはよくわからない自己主張があり、試合中、絶対に「席につかない」という厄介な特徴を持つ。狭い席に座っていられないのか、それが応援団の矜持なのか。

喫煙所前とかでクダを巻いてるのはいつもの光景だが、一部が通路や人が出入りするところに眼光鋭くたむろしてるのは、邪魔でしょうがない。カラスのように鉄柵に腰をかけてる奴もいたり。それを注意する警備員とのイタチごっこを趣味にしている節もあり、マジで「ややこしい」し、意味わからん。が、表立ってはそれ以上の面倒を起こすわけでもなく、これもまあ「甲子園ならでわ」絶滅危惧種と面白がればいいのかな?とも。

そういう方々(ばかりではないが)が着てる、例の「特攻服」は面白い。「生涯虎命」「讀賣粉砕」とかの定型大文字と演歌みたいなポエムが縫い付けられて桜吹雪いてる、あれね。作成サイト見たらちゃんとテンプレートあるのが笑う。「全部盛り」で刺繍代が5万円以上!という気合の入りよう。ポエムは自由文らしいが、私が観察したところでは「見せろ奮わせろ」「我らの夢のせスタンドへ」「美しく輝け」「勝利に燃る栄冠の」とかまあ、時代がかった陳腐な(ごめん)いわゆる「応援歌」と同じノリのカルチャー。もうちょい独創性はないものか。

■観察者考案・オリッ特攻服例(無断転用歓迎)
・「地味上等」と背中に大きく刺繍
・坊主頭のおどろおどろしいイラスト
・ポエム刺繍は以下の通り
「走者出すのは当たり前 最後に勝てばいいんでしょ
上げて上げて落とすんで めっちゃ盛り上がったやろ?
我らが永遠の守護神 平野佳寿」

みたいな! 私はよう着ないけど!

というわけで、十分に楽しんどるやないかの、甲子園観察3連投。勝った負けたではなく、あれだけの人が大騒ぎできたんだから素晴らしいエンタメやないかと、ひしひし実感した次第。でもさすがに腰がしんどいし、当分甲子園の外野席は遠慮したい。
来シーズンは「快適観察」に主眼を置いた球場巡りをしたいなあとか考えながら…。
次ページは、専属カメラマンの「日シリ・オリッ甲子園写真集(外野アングル)」をどうぞ。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

Twitter でK!SPOをフォローしよう!