南 郁夫の野球観察日記(148-1)甲子園球場でAREしてきました!

2023年6月16日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

2年ぶり甲子園球場での、阪神vsオリックス交流戦。地元だし、屋根なし球場原理主義の私らが見逃すわけはない。てことで、2試合参戦。2年前は「絶賛コロナ騒ぎ中」で、人数制限あり・声出し応援なし「ここわどこ?」な静かな甲子園だったので、満員御礼フルスロットル応援付の甲子園は久しぶりなのである。

やっぱ… 虎ファンの応援って凄いというか常軌を逸しているというか。特に今年は岡田監督になって「ARE」を予感させる成績だからか、えらいことになっていた。他球団なら、応援団ってライトスタンドのみで大部分の観客はおとなしく座って見てるもんだが、甲子園ではほぼ球場全域に応援団(定義:贔屓チーム攻撃時にメガホン叩いて声出しする人)が分布してるから、これが。

阪神攻撃のときの応援音量が「大丈夫なのか?」というほど凄まじい。この凄さはテレビでは絶対に伝わらない。テレビ解説の糸井も「地響き」と表現していたが、体感はほんとそんな感じ。ほぼ4万人の虎ファンが一糸乱れず合唱し、8万本のメガホン音が炸裂する異空間。メガホンどんだけ売れるねん。慣れない人は「気は確かか?」と思うだろう。

例えば、山本由伸が四球一つ出しただけで「うっうおおおおおりゃあああーっ」とほんまかいな?ちう泣き叫ばんばかりの大騒ぎ。まさに「地獄の咆哮」…KISSのアルバムタイトルか。神戸の球場なら敵投手が四球を一つ出したくらいなら、チキンスティック食べながら数名が「うぇーい」とつぶやくだけ。

応援歌詞がわざわざスコアボードに表示され、球場全体の老若男女が身をよじらせて大合唱。そこには躊躇や留保が微塵もない。「そこに阪神の攻撃があるなら応援するんや。応援以外はビール飲むんや、それが何や?」である。まっすぐで真っ当。ただ、他球団の応援と違うのは、虎ファンの体って常に斜め前のめりで「前後左右」に揺れがち。他球団の応援団は前後には揺れても「左右」には揺れない、と思う。

もちろん。もちろん虎ファンを否定しているのではないよ。単純に面白いし「壮観だなあ」と思うだけ。見慣れていないから毎回びっくりするだけで。みなさん応援が楽しそうだから、全然いいのだ。昔と違って負けたら球場前の高架下で暴徒化ということも(ほぼ)ないし、自粛で「しーん」としてる甲子園よりよほど健全だ。

6月13日(火)1戦目
そのよな虎ファンのいかなる大応援にも微塵もひるまないのが、日本のエース・山本由伸。静かにギヤを上げながら数少ないピンチを難なく脱していく山本に虎ファンも次第に音を上げ、「山本は何回まで投げるんでっか?」と隣のおっさんが泣き顔で聞いてくる。「8回まで… かなあ」と言うと落胆。オリッはなんとかこちらも好投の村上から2点絞り取り、2-0で終盤へ。

8回まで零封した山本に代わり、レフトスタンドから黄色い歓声を浴びながら山﨑颯一郎が9回のマウンドへ。しかし颯一郎の方は大応援にひるんだのか、球が暴れまくり。いきなり四球を出した後、次の大山のバットに快音を許し、打球はぐんぐんバックスクリーン左へ!あかん!と思ったが脱兎のごとく背走したセンター中川圭太がフェンス激突しながら、ジャンプ一発大好捕っ。大歓声が大悲鳴に変わり、4万人の「嘆き」の叫びが「おんおんおん」としばらく止まらない。

ピンチを脱したかと思いきや、颯一郎はさらに四球を出して(いちばんあかんやつ)ホームラン出れば逆転サヨナラの状況で、出てきた代打が、佐藤輝明。甲子園のボルテージが「革命前夜」レベルに跳ね上がり、ホームラン出たら球場爆発するなら見てみたいと思ったが、ここから颯一郎様がようやく立ち直り、結局後続を抑え切るのであったー。

スリリングな、まことにスペクタクルな颯一郎劇場。久しぶりにドキドキの現地観察であった。虎ファンに騒ぎどころ(ガス抜き)があって、良かった。ただ、エラーを2個した渡邉諒に「江越返してくれー」というヤジは気の毒だった。

<この日の野球場の人々観察>
貴重なホームランを放った、ゴンザレス。ゴンザレスが打席に入るたびにレフトスタンドから「マーゴ」コールが起こるのだが、後ろの阪神ファンは最初から最後までこれを聞くたびに「マートン?」と素っ頓狂な声を上げていた。誰か教えてやって。
でも人のことは言えない。阪神のノイジーが打席に入るたびに起こる「シェルドン」コールで、私は「しぇ、シェルドン?」と素っ頓狂な声をあげるのだ。コールのたびにスコット・シェルドン(2002~2003 オリックス・ブルーウェーブ)を思い出している球場で唯一の男。山下舜平太の背番号を見るたびに、私はシェルドンを思い出している。

 

6月15日(木)3戦目
1-2で1点ビハインドの、9回表。完全覚醒した頓宮裕真の同点弾に続き、ラオウ杉本の一撃がとんでもない軌道を描いて、私がいるレフトスタンドに向かってくる。まごうことなき、勝ち越しホームラン。日本人打者でこんなストロングスタイルの逆転ができるなんて!そんなチームに、オリックスはなったのだ。

今年は私がレフトスタンドに座れば、すごいことが起こるらしい。神戸での紅林君の逆転サヨナラホームラン(スカパー!月間サヨナラ賞おめでとう!パチパチ)に続き、すごいものを見た。

不得意の貧打戦で白目をむいていた私は(外野席から見る低得点の試合は辛い)、この9回のドラマで叩き起こされた。9回裏は平野佳寿が「抑えとはなんぞや」を教示して、見事なオリッの逆転勝ち。それにしても、先制タイムリーも放っていた頓宮の活躍ぶりもすごいが、私は甲子園でのラオウの見事なヒーローぶりに目を細めていたのである。

2016年6月14日。ここ甲子園球場の交流戦で公式戦デビューを果たした杉本を、私はちゃんと同じレフトスタンドで見ていた。明らかにビビっていた彼は1回にいきなり能見から空振り三振を奪われ、結果3三振デビュー。もちろん本人は覚えているだろうから、ヒロインでの「甲子園でずっと打ちたいと思っていた」発言になったのだ。苦いデビューから7年、主力打者に成長した彼はついにこの聖地でヒーローになったのだ。そういえば岩鬼を彷彿させるホームランだったなあ。

というわけで、オリッのシビれる勝利「だけ」を観察できた、今年の甲子園。甲子園球場は何もかもスケールが大きく、やはりいつ行っても畏敬の念にかられる野球の聖地である。勝ったから言うわけだが、もちろん。

多くの阪神ファンに紛れて大混雑の甲子園駅でオリッ・ユニのまま電車に乗り込んでも敵意の目で見られないのは時代なのか、同じ関西チームからなのか。私の見た目が怖いのか。

3戦を通して、阪神タイガースはすごく投手力のいいチームだなとは思った。このまま好調を維持してAREしてオリッもAREすれば、ここで秋にアレも夢ではないなあと感じる。まあAREはそんなに簡単なものじゃないのでお互いアレがアレすればだが。

<この日の野球場の人々観察>
カッコいい演出で9回のマウンドに上がる湯浅京己に熱狂する、勝利を確信した若い虎ファンたち。口々に「湯浅カッコええ」「湯浅、カッコえええええ」と大興奮。んが数分後、2本もホームランを打たれて降板する湯浅に「どこがカッコええじゃ!」「誰や湯浅をカッコええ言うたんわ!」「最初から浜地でええんじゃ」とセルフ突っ込みするセンスが、関西人。敗戦後憔悴しながらも「また来たいな~」と話し合う彼らに幸あれ。

さて。 次ページはオリックス選手@甲子園、専属カメラマンの写真集でーす。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
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