センバツ21世紀枠・長田高校の応援に行ってきた フツーの公立高校が甲子園に出るってこんな感じ

2016年4月10日(文/嘉納 泉、写真/南山 宏之、長田高校野球部)

第88回センバツ高校野球大会に21世紀枠で地元・長田高校が出場した。私の母校である。
母校が甲子園に出場!なんて、フツーに部活動やってる公立高校にとっては「一生に一度」のビッグニュースだ。長田高校野球部も近年力をつけてきて夏の地方予選ではベスト8まで勝ち進んだこともあるが、そこから先の壁は高く、強豪校がひしめく兵庫で「甲子園」は夢でしかなかった。がしかし!後輩たちが選抜されたのだ!

1月29日にセンバツ出場校が発表されると、在校生、教職員、野球部OBはもちろん、大学生からおじいちゃん世代の卒業生、そしてご近所さんから地元の高校野球ファンまで「ホンマに甲子園に出るんか?!」と驚きを持って喜びに沸いたのである。
旧制中学から数えて今年創立96周年の長田高校、その卒業生は相当な人数である。卒業生でなくとも神戸市内には「知り合いのお子さんが長田高」「上司が長田OB」なんて、身近に知り合いがいたりする。出場が決まった当日から翌日のTwitterだけでも「甲子園、応援行くで!」と下から上まで大変な盛り上がりであった。そして、卒業生たちは「仕事を休める日でありますように」と祈りながら、組み合わせ抽選日を心待ちにしてわくわくした2月・3月を過ごしたのである。

この間、学校では初の甲子園出場にてんやわんやであった。3年生の大学受験シーズン真っ只中、卒業式、新1年生の入学試験と合格発表…三学期の一番忙しい時期である。高野連への提出書類やスケジュール管理、アルプス応援席の段取り、大会用の新ユニフォームの製作、応援グッズの作成、寄付金の募集、メディアの取材対応などなど、先生方、事務局、同窓会組織である神撫会(しんぶかい)、野球部後援会の皆さんは嬉しいながらも、それは大変な毎日であったと思われる。高野連の細かい規定があり、対外練習試合の制限から応援グッズに入れる文言まで、とにかく初めてのことばかりでそのご苦労は推して知るべし、である。

在校生たちは野球部と吹奏楽部、生徒会を中心に応援団を結成、ダンス部を中心としたチアリーダーもできて応援に力が入る。その応援歌がYouTubeにアップされると、さらにテンションが上がってく。吹奏楽部はOB・OGに呼びかけ100人のブラバン部隊に。「一生に一度」と想いからか、寄付金も順調に集まっているようである。

野球以外の要素も含めて選抜する「21世紀枠の意義」とか、高校生の部活動なのに「野球部だけ特別扱い」の是非とか、論議はあるだろうが、それはまたの機会に。

なんにしても、多くの日本人にとって、ふだん野球を観ない人も含めて、ふるさとの高校が「甲子園に出場」となると特別な想いで応援したくなるのだ。ましてや、母校の初出場となるといやがうえにも気持ちが入る。恐るべし、甲子園の魔力だ。3月11日に組み合せ抽選会が行われ、第5日の第三試合、相手は長崎海星高校に決まった。テレビや新聞などの紹介報道も増え、わくわく感はさらに高まっていく。神撫会東京支部では、都内の店でパブリックビューイングの企画が進められた。

3月20日、いよいよ第88回センバツ高校野球大会が開幕。開会式の入場行進を見ただけで「ああ、本当に甲子園に出場したんやなあ」とうるうる感動してしまう。
そして、待ちに待った3月24日試合当日。やや肌寒いながらも、春の陽光が眩しい野球日和だ。現地甲子園で、東京のパブリックビューイングで、テレビで、ラジオで、仕事中にこっそりスマホで、海外からパソコン中継で…この試合をどれほどの卒業生たちが見守ったことだろう。
アルプススタンドの応援席は全6,000席のうち、入れ替え制の学校団体席が3,500席、入れ替えなしの一般席が2,500席となっている。野球部後援会では、約2,500席を全校生徒・教職員・野球部OB・吹奏楽部に割り当て、残りの1,000席を卒業生向けとした。同時に応援グッズのスクールカラーの紺色の帽子、メガホン、ウィンドブレーカーを各5,000個作成、半分の2,500セットを学校分、残りを卒業生向けにチケットとともに試合当日に無料配布することにした。チケットの事前配布は禁止、当日の甲子園球場・駅近辺での配布も禁止となっているため、西宮東高校のグラウンドを借りて配布され、瞬く間に品切れとなった。

甲子園球場に続々と観客が集まり、一般アルプス席も1試合目が終わった時点で既に売り切れ、再販なし。アルプス席チケットをゲットできなかった人たちは1塁内野席、レフト外野席へ。この日、甲子園球場を埋め尽くした紺色の大応援団は、こうして出来上がったのだ。

ほとんど多くの卒業生は「出場できただけで充分素晴らしい」「ワンサイドで大敗は避けてほしい」「応援だけは負けないように頑張ろう」といった気持ちだったと思う。しかし、選手たちは「絶対に勝つ!」という強い気持ちで、青空の下、緑の芝と黒土が美しい甲子園のグラウンドに飛び出していった。

試合は、2回裏にエラー絡みで先制を許すも、直後の3回表、3番吉田君の左中間を破る二塁打で逆転。球場全体に大きな拍手と歓声が沸き起こる。しかしその裏同点にされ、4回にエラーが絡み1点を追う展開に。5回6回7回と回が進むと、長田の攻撃は三者凡退であっさり終わり、守備の時間が長くなってくる。打球が飛ぶたびに「しっかり捕れよ~」と祈るような気持ちに。もはや少年野球を見守る保護者の気分だ。
1点ビハインドのまま9回表。エースで4番の園田君が打席へ。初球を弾き返した内野への打球をこれまで完璧な守りをみせていた海星がエラー。続く遠藤君が犠打で送り、6番赤木君がライト前にしぶとく運び1アウト1、3塁。最大のチャンスを作り、球場内の応援は最高潮に。ブラスバンドの応援歌がさらに大きく響き、打ち鳴らすメガホンと拍手が怒涛のように球場をつつむ。7番吉川君が粘りに粘るもキャッチャーフライに打ち取られ、8番富田君の2球目。「抜けた!」ライト頭上を越えていく打球に応援席全員が立ち上がる。しかし、海星の好守備でゲームセット。ため息ともなんとも言えない声にならない声がもれる。

長田 | 0 0 2 0 0 0 0 0 0 | 2
海星 | 0 1 1 1 0 0 0 0 0 | 3

グランドに整列する選手たち。そして、沸き起こる大きな大きな拍手。

それにしても。グラウンドで、ベンチで、アルプススタンドで見せた後輩たちの「最後まで諦めない強い気持ち」は、なんて素晴らしいのだろう。この日、自分の子どもほど年の離れた高校生たちと一緒に、立ち上がり声を枯らして応援した我々もまた「不可能などない、と挑戦する高校生」だった。明日からはまたいつもの日常に戻る。でも、甲子園の熱い余韻に浸りながら、昨日とは違う新しい日を迎えるのだ。そんな前向きな気持ちにさせてくれた後輩たちと監督、部長に感謝したい。

さて、最後に野球好きの私の個人的感想を。スコアを見れば接戦だったが、完全アウェーの雰囲気の中、堅い守備を見せた海星高校は強豪と言うに相応しい、鍛えられた良いチームだった。そんな夢舞台で9回を堂々と投げ抜いた園田君のピッチングは素晴らしかった。チーム打率3割7部の強打の海星相手に被安打3、自責点0。投手推しの私には、見ていて惚れ惚れするピッチングスタイルだ。何よりピンチにも動じない落ち着いたマウンドさばきがいい。後輩捕手のサインにときおり首を振りつつ、低めにコントロールされた球を緩急使い分けて投げ込んでいく。たぶん自分の投げた配球を全部覚えているタイプだ。このまま大学でも怪我をせずに野球を続けてほしいと思う。
…って、その前に夏の高校野球だ。めざせ!もう一度甲子園!

長田高校野球部HP
http://nagata-baseballclub.net

 

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