スポーツイラストレーターT.ANDOHの「OUTSIDER’s ReCALL」(145)西宮市の大谷記念美術館「野球とデザイン」展を見てきた!
2025年6月16日(イラスト・文/T.ANDOH)
こんにちは!スポーツイラストレーターのT.ANDOHです。
今回は野球の話題です。
しかも「野球とアート」という展示会が西宮市の大谷記念美術館で開催されているということで、スポーツのイラストを描いている僕としては”一見の価値あり”と思い、行ってきました。
大谷記念美術館は阪神電車「香櫨園」から徒歩で10分弱。
国道43号からひと筋ほど南下した閑静な住宅街にあります。
こちらの美術館は昭和電極(現在のSECカーボン)創業者、故大谷竹次郎氏が邸宅に近代美術を蒐集した展示館を作ったもの。
香櫨園といえば夙川沿いの、兵庫県内でも高級住宅街のひとつですよね。
中に入ると目の前に大きな日本庭園を眺められるロビーが広がっていて、その邸宅の面影を残していました。
個人の美術館としてはなかなかの規模感で、ゆったりと見学ができる建物です。
今回の「野球とアート」展には「デザインで辿る阪神タイガース」という副題もついています。
阪神電鉄開業120周年、そして阪神タイガース創設90周年、西宮市市制100周年という3つの大きな節目が重なったことを記念して開催されました。
なるほど香櫨園も阪神電車によって現在の高級住宅地として広がった街です。
この展示会も、阪神タイガース球団の歴史をデザインの視点で追うことで、阪神電車の歴史と、甲子園周辺の開発と文化の軌跡を追ったものとなっていました。
最初の展示室には野球伝来から職業野球として広がったプロ野球の歴史が展示されていました。
この展示室には戦前から最近までの野球チケットがずらりと並ぶスペースが。
数十点にも及ぶチケットの数々は、「野球チケット博物館」というホームページを主宰されている野球チケット蒐集家の山岸茂幸氏が個人で蒐集されたチケットで、じつはこの山岸さんは名古屋在住で僕も20年来のお付き合いがある野球ファン仲間の方。
僕もチケットを寄贈(笑)させていただいたこともありますが、神田の古書街を漁っては古い本に挟まれた戦前の古いチケットを発見するなどの強者でして、今やこうして美術館から出展依頼が来るほどの野球チケットの大家となっておられます。
最近ではすっかりチケットレスの時代になってしまいました。
しかしチケットにはとてもデザイン性に富んだものがあったり、それだけでも試合観戦の記念品としての価値があるものや、掲載されている広告などから世相をうかがえたりと、野球の歴史として十分な資料であり、美術品としても頷ける品物も数々あります。
僕も「オリチケ」は球場発券派でして。
良い試合になれば記念にとっておきますし、どうでも良い試合のチケットは、文庫本の栞となります。
チケットレスになって久しい皆さんも、ぜひあらためて紙チケットを手にしてみてはいかがでしょうか。
続いて第2展示室にいきますと、阪神電鉄の社内デザイナーだった故早川源一氏の手がけた阪神タイガースの試合ポスターから、甲子園球場で開催されたイベント、周辺観光地のポスターや観光マップなどの作品が展示されております。
この早川源一氏という方は、阪神タイガースのこの「虎のマーク」を描かれた方です。
TigersやHANSHINというロゴを作られたのもこの方。
球団創設以来、90年間変わらないこの虎マークは、当時アメリカ帰りの関係者がペットマークの制作を提案して誕生したもの。
長いプロ野球の歴史の中で一貫して球団マークが変わっていないのは阪神タイガースだけ。
これは早川氏のデザイン力と、社内デザイナーとしてポスターからあらゆるものに至るまでをほぼお一人で手がけられたことで、早川氏自身が阪神のコンセプトワーカーとして成り立っていたからなのですね。
いわゆるブランディングがちゃんとできているからこそ、歴史を超えて愛され、古臭さも感じないわけです。早川氏のスケッチも展示されていましたが、描写力は圧倒的なものがありましたし、ポスターに描かれた絵もとてもダイナミックで印象的な作品がたくさんありました。
レイアウトも配色も含めて1枚の”作品”ですし、レタリングや広告に至るまで全てが「手描き」なわけです。
ひとつ目を引いたのが、1942年ごろの甲子園浜の海水浴場のポスター。
プロパガンダを匂わせるポスターも見られるなかで、真っ赤な水着でこの当時としてはかなり露出的だと思う、ちょっと西洋人のような表情をもった女性のイラストのもので、とても印象に残りました。
当時としてもけっこう攻めた作品だったのではないかと思います。
一方で、原画が手描きならその当時のポスターなどはその都度手描きだったわけで、ときどき“ブサイク”な虎もあって、それが「負け虎」と言われたりしているのも面白かった。
デザイナーとしては、不本意な作品が一生(いや、自分が死んでも後世に)残るというほど後味の悪いものはないわけで…(苦笑)。
当時の人たちの創意工夫と試行錯誤が、またその作品に込めた想いというものを感じる展示品もありました。
ツールが発達して表現の幅が広がった昨今に比べて、人の手がかかっているこの時代の作品には、逆に現代人が学ぶべき知恵や工夫をふんだんに感じるものがあります。
最後の展示室にはタイガースのユニフォームの歴史と、大森正樹氏というアーティストが手がけたタイガースをモチーフにしたアート作品が並んでいます。
タイガースの歴代ユニフォームの変遷に加え、2013年シーズンから続く「ウル虎の夏」の歴代ユニフォームがずらりと並び、ユニフォームの芸術性を物語る展示となっています。
毎年出てくるこの企画ユニフォーム。
オリックスはじめ各チームにもありますが、「かっこいい」と思うものもあれば「なんじゃこりゃ?」と思ってしまうユニフォームもありますよね。
皆さんにそれぞれの思い出に残るユニフォームもあるはずです。
工夫を凝らしたデザインが毎年変わる一方で、虎マークとともに90年にわたって受け継がれている「縦縞」という阪神タイガースの強大な伝統とポリシーが一貫して受け継がれている。
僕は野球ユニフォームが大好きなので、「伝統」と、時代の風を背に受けた「工夫」の、そんなデザインの対比を楽しむこともできました。
この部屋は写真撮影が可能なので、お気に入りの展示品を写真に撮ることができます。
先の早川源一氏が描いた「虎マーク」の原画もここで見られますよ。
昨年は甲子園球場が100周年ということもあって、僕もこのコラムで甲子園球場の歴史にも触れたのですが、その歴史を学ぶおさらいにもなりました。
先の甲子園浜のポスターをはじめとした甲子園周辺のテーマパークを紹介したもの。
甲子園周辺に広がったテニスコートや陸上競技場など、甲子園を中心にスポーツの啓発を促進したこの展開は、甲子園球場を作った故三崎省三氏の思いが受け継がれているわけですよね。
甲子園周辺に広がっていた景色とその歴史にも触れることで、鉄道の発達とともに成長した街の景色を、今の世にこうして一堂に見ることができるというのは意義深かったです。
そしてタイガースが90年残っていることで、この地域の文化になっていること。
この土地と共に発達した球団と、その歴史を確固たる地域の“誇り”に仕立て上げた先人の作り上げたデザインの数々。
あらためて、この阪神電車沿線の大谷記念美術館でこの作品たちが集ったことに感動でした。
7月27日まで開催されているので、皆さんもぜひ観に行ってみてください。
大谷記念美術館「野球とデザイン―デザインで辿る阪神タイガース―」
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スポーツイラストレーターT.ANDOH
おもにスポーツを題材にしたイラストやデザインの創作で、スポーツ界の活性に寄与した活動を展開中。 |
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