南 郁夫の野球観察日記(182-1) 真夏の野球観戦、理想型

2024年8月9日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

真夏にプロ野球を観察したい。もちろん夜に。でもドームは好きくないし、混雑は嫌いだし、できれば静かな環境で楽しみたい。そんな望みを叶える試合はあるのか? … ありますっ。近年、夏休みにオリッ二軍は神戸でナイターをしてくれる。今年は広島と阪神相手に5試合。二軍とはいえ阪神戦はそれなりに賑わうので、理想は広島戦(笑)。というわけで、8月6日(火)のファーム試合を観察してきた。

真夏の夜の夢。大好きな球場で手足伸ばしてコーラ飲みながら(子供か!)のんびり眺めるプロ野球は最高である。まあ暑いには暑いけど。人気球団になりあがってから神戸での一軍公式戦は常に満員なので、これくらいの人口密度があまりに快適で、郷愁を誘う。ああ、まるで、2001年あたりの日本ハム戦のようではないか!

・応援団がいない
・勝敗にこだわる観客がいない

それだけで野球場は極上の癒しのエンタメ空間に変わる。誰の賛同も得られないだろうが。ファームの試合はどっちのピッチャーもがんばれ!どっちのバッターもがんばれ!みんながんばれ!の世界。もちろん選手たちは必死なので(特に背番号3桁の選手)、素晴らしいレベルのプレイを見せてくれる。勝敗など単なる結果。この日は地元オリッが惜敗したがその瞬間、試合後のグラウンド解放だけを待っていたスタンドのファンはみんな笑顔&笑顔。これ以上の野球光景があるだろうか。

この日の結末は、最終回に池田のツーベスで6-7の1点差に追い上げたオリッが、さらに横山のライト前ヒットを畳みかけたものの代走・河野(育成ルーキー)が本塁で憤死!という、なかなかに劇的なもの。野球で一番面白いと言われる7-6の試合が見れてハッピーだ。

オリッで目立ったのは、さすが日本シリーズ出場者・池田の鋭いバッティング、ドラ3ルーキー東松(トーマツ)の宮城ばりの快投とトーマスの激走三塁打あたりか。

6回には平野佳寿と福田が登場し、場内をわかせる。平野はいきなり先頭打者に四球を出すも後続は抑えるという「劇場予行演習」を披露したが、復帰は近いのかどうなのか。福田は1安打。セカンド守備は新鮮だった。

それと、福永って異様に低く構えるね。

んが。1106名の入場者に一番の印象を残したのは、カープの中村奨成であろう。3回に3ラン、5回にソロの2ホームラン。いずれも湿度たっぷりの夜空を鋭利に切り裂く、まさに目の覚めるようなカッコいい弾道で!無人のレフトスタンドに突き刺さる「コーン」という音が場内に響き渡り、カープに疎いオリッファンたちが名鑑をめくる音があちこちで湧き起こる。

7年目の25歳。広陵高で甲子園のスター→ドラ1でカープ入りという輝かしいプロ入り前の経歴ながら、「私生活」に問題があるとかで二軍暮らしなんだとか。私生活て… 。今季ファームですでに8ホームラン。面構えも実にいいので(辰巳カテゴリー)埋もれさせとくにはまことに惜しい逸材である。カープのコンプラ厳しいなら、どこぞのチームで出直すとかできないか。

中村はじめ、カープの二軍はめちゃ声が出てたくましい。フライ時の野手の「ガリガリガリガリ」なんて、総合運動公園の駅前にいても聞こえそうなほど。で。気になった選手を背番号頼りで名鑑で調べたいのだが、ビジターユニの「ステルス背番号」では無理。マジ、番号見えへん。「赤字に赤」って、何かの抵抗運動?デザインの革命?このユニになってから時間が経過しているので、球団は失敗を認めていないということ。敵地で背番号をわからせたくない理由でもあるのだろうか?

さて。私的にこの試合で一番楽しめたのは、マーゴ(ゴンザレス)の一挙手一投足。元MLBスターが酷暑の日本で二軍暮らし。その気持ちはいかばかりか?と邪推してしまうが、当人は相変わらず遊んでいるようにしか見えない。

イニング間の内野のボール回しには参加せず、それでも一塁の内藤がゴロを投げると巧みに足で蹴り上げてグラブに入れてみせたり、打席ではファーストストライクをフェアゾーンに転がし、それでもヒットを打ちランナーに出ると(たぶん)暑いのでインプレーになるまではヘルメットを小脇に抱える・・などなど、夏を乗り切る「省エネ」工夫が満載で見ていて笑える。もちろんプレイには一切影響しないプロフェッショナルな態度で、だが。

5回でお役御免になって福田に交代したのだが、たぶんそこからすぐ帰宅したはず。試合終了時の全員挨拶にマーゴいなかったので(笑)。私はそんな、自分勝手で憎めない実力者が大好きだ。ちなみに、翌日7日に一軍復帰、京セラドームの西武戦にスタメン出場して、ちゃんと仕事していた。

試合終了後はグラウンドが解放され、誰でもベースランニングとキャッチボールができるという伝統の企画が催され、多くの人が参加していた。野球ファンなら誰にとってもドリーム企画。子供はもう嬉しくてしょうがないだろうし、私のようなへそ曲りは「この土と芝生の切れ目でエラーするのか」など意地悪な観察もできる。BWの頃はみんなライトフェンスに集まってイチローの真似してたなあ、と感傷的になったりも。

とにかくゆったり静かな環境で集中して野球観察できる、グリーンスタジアムでのファーム・ナイター試合。月末には「みんな大好き」阪神戦もあるので、皆さんもぜひ体験されてはいかがだろうか。

そこには「ちょうどいい」野球が待っているから。

次ページは、専属カメラマンによるオリッ試合前練習の模様をお楽しみください。写真取材者は彼一人だったそうです(笑)。

 

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
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