南 郁夫の野球観察日記(103) 西浦颯大さんにインタビュー!「これまで」と「これから」

2022年2月25日 (文/南 郁夫、写真/編集部)

昨年、22歳の若さでプロ野球引退を決断された、元オリックス・バファローズの西浦颯大さんにお話を伺ってきました!

国指定の難病(突発性大腿骨頭壊死症)という思いもよらぬ原因でプロ野球選手を諦めた彼の無念はいかばかりか?と身構えていましたが、約束したカフェに現れた西浦さんは自らデザインしたファッションに身を包んだ、カッコいい若者です。あえて病気のことは深堀りせず(他メディアでいろいろと語られているし)「これまで」と「これから」について、ざっくばらんに聞いてみましょう。

 

ー野球選手ではない生活に、戸惑いはありますか?

「リハビリですでに慣れていましたんで、今はもうありませんね。キャンプ中継とか見てたら野球やりたいなあとは思いますけど」

 

ー神戸でのプロ初ホームラン(2019年5月10日)をスタンドから拝見してました。あの試合は4人でお立ち台でしたね。

「あの初ホームランは感触がないほど真っ芯に当たりました。完璧でしたね。お立ち台には4回立ってますけど、実は一人でヒーローインタビューしたことないんですよ。一度は単独でしたかったですね(笑)」

ー京セラでのミラクルキャッチ(*)など、数々のファインプレーにファンは湧きました。

「外野のファインプレーはでかいですからね。あのキャッチのときは、ボールは一度もグローブに当たってないんです(笑)体がフェンスにぶつかってからすべてがスローモーションで見えて「こう」取ったんですよ(と身振りで説明)」

*2020年9月20日 オリックスvs埼玉西武 パ・リーグTV  西浦颯大 “年に1度レベル”の『ミラクルど根性捕球』

 

ー西浦さんといえばイチローばりの補殺です。補殺は気持ちいい?

「いいっす(笑)ホームランより快感ですね。2019年は77試合の出場で捕殺が7ありましたから、なかなかのペースですよね」

 

ーオリックスでの野球生活で一番印象に残ったことといいますと?

「このプレイとかいうことよりも、昨年終盤に僕が円陣で声出しをしてからチームが8連勝したことですね。そんなことあるんだなと」

(オリックス・バファローズ公式Instagramより)

ーその結果リーグ優勝です。日本シリーズではヤクルトに負けちゃいましたけど…

「らしいというか…(笑) でも、極寒の神戸での試合は選手たちには可哀想でした。ドームで試合をさせてあげたかったですね」

 

ーファン目線でチームを見るってどんな感じですか?

「自分がプレイしてるときはスタンドから「打てよー」とか野次られたら嫌だったんですが、いざスタンドで野球見てたら… 野次りたくなる気持ちがわかりました(笑)」

 

ーTwitterでも発信していますが、現役時代はプレイに対するSNSの反応はどうでした?

「めちゃ反応きますよ(笑)ひどいメッセージも毎日のように。僕はそういうの好きなんで(笑)あえて返信したり「いいね」したりして、そうすると手のひら返して「本当は応援してます」とかね(笑)」

 

ーメ、メンタル強いですね。

「小さいときは父親がめちゃくちゃ怖くて、高校でもしごかれて、ある程度のことはどうもないんです」

 

ー育成契約で治療に専念すると発表した記者会見も、引退表明のときもメンタル強いなと思って見てました。

「病気になってしまったことをああだこうだ考えてもしょうがないですからね。両親は僕がけろっとしてるんで、すごい心配してましたけど」

 

ーそもそも野球を始めたきっかけは?

「物心ついた時からバットとグローブ持って、やってましたね。高校まで野球をやってた父親の影響もあると思います」

 

ーその頃からの憧れの選手といえば?

「イチローさんですね」

ーだから守備位置はライトで?

「右投げ左打ちの外野手ということは意識してましたけど、守備位置はその時点でのチームの状況なので。小学校ではピッチャーやってましたし、6年生で選ばれたソフトバンク・ジュニアにはショートで入ったんですけど、ショートの子がめちゃくちゃうまかったんで「自分外野行きます」て言って、そこからずっと外野です」

 

ー同郷の村上選手(ヤクルト)とはその頃から一緒にプレイを?

「中学生のときに一緒に侍ジャパン(*)の選考を受けに行きました。もちろん今でも交流はあります」

*2014年 第2回15U野球W杯の日本代表

 

ー熊本から高知の明徳義塾高校に進んだのはご自分の意思ですか?

「3歳で野球を始めたときから絶対プロに行くつもりだったんで、プロにどうやったらなれるかと考えたときに、甲子園(*)に出て目立つのが一番かなと。で、僕なら1年から出れるなということで明徳を選んで… 入ってみたら上下関係が厳しくて大変でした。少し前に訪問して聞いたら、今はそんなことないそうですけど。野球部が以前より弱くなっちゃって(笑)母校の応援に甲子園に行きたいんですけどね」

*甲子園には4大会出場して33打数12安打6打点1ホームラン(満塁)。十分目立ってオリックスにドラフトで指名される

(西浦颯大公式Instagramより)

ープロ入りしてどう感じました?

「けっこう、浮かれながら入団したんですけど(笑)練習はめちゃきついし、投手のレベルがすごくて、こんなにプロとアマで差があるんだなと驚きました。球のキレすごいなと。まあでも、徐々に慣れて一軍に上がってからは二軍の試合は楽になりましたね。二軍では3割近く打ってるんです」

 

ーすごいなと思った選手はいますか?

「打者なら(吉田)正尚さん、投手なら(山本)由伸さん。別次元ですね。二人とも練習のクセがすごいんです。首脳陣に何を言われても自分の考えを押し通す実力がありますからね。僕なんか数字が出てないのもありますけど、何か言われたら変えちゃうんで(笑)コーチに「へこへこ」しちゃうんですよ」

 

ー監督・コーチからいろいろと言われていた?

「質より量の昭和式の「やらされる練習」を毎日やってました。意味ないんですけどね(笑)足りないものがあるから練習させられるんでしょうけど…。ナイターの日でいうと、朝10時球場入りで早出練習、クタクタになったところで全体練習が始まって、そのあと試合。試合が終わったら室内練習場でまた練習。その合間に筋トレ。寮の部屋に帰るのは深夜12時すぎ。このくり返しが毎日です」

 

ーそんな長時間練習、西浦さんだけですか?

「そんときは僕だけですね。なんか僕は…言わないと練習やらないと思われちゃってたみたいで(笑)」

 

ー守備には自信ありますよね?

「あります。最初はクッションボールの処理なんかで凡ミスやらかしてたんですけど、田口さんに指導されて練習してからは自信がつきました。でも、ちょっとの差でボールが取れなければ叱られるし、取れたらファインプレーじゃないですか。そこが難しいです」

 

ーとか言いながら結局はボールに飛び込んでいく、と。

「むやみやたらにチャージするんで(笑)取ればいいんでしょ?て思いなんです。取れなければどうしよう、とかはあんまり考えないんですよ。怒られてもいいやと思ってるんで(笑)」

*自身のTwitterで「外野手で大事なのは突っ込む勇気と引くセンス」(2021.3.27)と発言。これ、深いですね。

 

ーまとめ動画を拝見してもいろいろ名シーンあるし、短くも濃密なプロ生活でしたね?

「確かにいろいろやってますね。でももう少し打てるようになりたかったです。あと僕、バントできそうキャラなんですけど… 高校時代は僕だけノーサインで打ってましたからバントやったことなくて。苦労しました」

 

ー送りバントは…いちファンとしてはあんまり見たくないです。

「1アウト1塁でもバントですから(笑)」

 

ーウィンターリーグで海外遠征にも行かれましたよね。

「オーストラリア(*)はよかったです。三振しても「オッケー!次は打てる」と監督が言ってくれる雰囲気で、叱られませんし(笑)感情を素直に出せて本当に楽しく野球ができました。結果もついてきましたしね。通訳なしで交流もできたし「やらされる」練習ないし(笑)ほんと自分に向いてましたね」

*2019年シーズン終了後に派遣されたメルボルン・エイシズでの成績は打率.326、3本塁打、11打点。2週連続で週間MVPも獲得

 

ー引退が決まったとき、球団職員しませんか?というお話はなかった?

「ないです。しませんオーラ、出してましたので(笑)次やりたいことあるの?て聞かれたら「あります」と答えてました。僕は、決まったことを淡々とこなすよりはやった分返ってくる仕事をしたいんですよ。プロ野球時代の給料を越したいという思いがありますから」

 

ーYouTubeを始められましたが、やりたいことは見えてきましたか?

「おぼろげながらですけど。YouTubeは、野球・自分の病気・挑戦、という3つのテーマで発信しています。今は失敗してもいろいろなことをやりたいなという気持ちです。安定とかは先でいいなと。すでにファッションブランドを立ち上げてネット販売を始めましたし、あと、楽しく野球を観れるスポーツバーをやりたいなと思ってます」

 

ースポーツバー!いいですね!

「コアな野球ファンだけじゃなくて、一般の人も来てくれるようなおしゃれなバーにしたいんです。まだ自分の名前が覚えられている間に始めたいなあと。そこでは僕のように退団した選手にも一緒に働いてもらって、彼らがセカンドキャリアを考える場になったらいいなとも思うんです」

 

ーおー、具体的ですね。楽しみです。

「あと、地元の熊本で始まる遺伝子検査事業のアンバサダー就任のオファーをいただきまして、お受けしました。まだ日本では普及していませんが、遺伝子検査によっていろいろな病気を未然に防ぐことができるそうなんです。検査をしていれば早期発見できて、ひょっとしたら自分もまだ野球をやれていたかもしれませんし、適任だなと思いました。こういう検査を12球団にやってもらえば病気で引退する選手は減るかなと」

西浦さんプロディースの新ブランド「Liveldade(レベルダージ)」自由という意味が込められている

ー新しいことが始まりますね。引退はもちろん残念ですが、したいことができる開放感もある?

「高校時代もプロに入っても寮生活で縛られてたんで、やっと自由にできる!という気持ちがすごく強いんですよ。実は僕、二十歳超えても(当時監督の)西村さんから外出禁止令が出てたんです。お前は野球に集中しろ!と。で、解除前に辞めたのでまだ外出禁止令は続いているんですよ(爆笑)みんな飲みに行くのに、寮の部屋で一人でお酒飲んでました。時々、宗さんが部屋に来てくれてましたけど」

 

ー舞洲から出れないのは辛いですね。抜け出すとバレますか?

「バレますね。寮長怖かったし。1回だけ監視カメラの死角を利用して抜け出して(笑)まるで脱獄ですよ。朝6時にこっそり戻って筋トレしてたら、バレませんでしたけど。明徳時代も山の中で365日休みなしの厳しい環境だったんで、都会に来たら街の魅力に負けちゃうんですよね。実は高校時代のチームメートで今も野球やってる奴、一人もいないです。大学の野球部入っても辞めちゃうし(笑)」

 

ー遊んじゃうんだ(笑)今は夢の自由な一人暮らしですね。

「でもいざ一人暮らししてみたら、寮はご飯は出るしお風呂は湧いてるし楽だったなとも思います(笑)」

 

ー今後の自由な活動を楽しみにしています。「野球好き」というスタンスは変わりませんよね?

「もちろん野球は大好きです。やらされる野球は嫌いですけど(笑)今年はいろいろ外から野球を見て、選手とファン両方の気持ちがわかる発信をしていければなと思っています!」

 

ーとにかくお身体に気をつけながら頑張ってください!応援しています!

西浦さんは礼儀正しい中にもいたずらっぽい目がキラキラ光る、ユーモアがある魅力的な青年でした。野球談義をしていると病気のことを忘れてしまって、なんとも言えない気持ちになります。

しかし、彼の目はすでにこれから先の人生に力強く向いていました。22歳にしてすでに濃密な経験をしている彼の可能性は無限です。彼の今後の自由な活動に注目していきたいと思います。

 

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オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

 

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