南 郁夫の野球観察日記(179-1)2024年プロ野球交流戦「最後の」1試合を観察
2024年6月19日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)
今年の交流戦は今江新監督もびっくり・楽天イーグルスの「まさかの」優勝で幕を閉じた… かのように見えたが、実は1試合残ってた。雨天振替となった甲子園球場の「阪神ー日本ハム」が6月18日(火)に交流戦唯一の振替試合として「ぽちりん」と開催されたのである。
もちろん、甲子園。「ぽちりん」というわけにはいかない。平日ナイターなのに当然満員札止めとなり、阪神電車各駅に「当日券ありません」表示が出る騒ぎ。しかし、我が専属カメラマンは日シリのチケットでも全戦入手してしまうチケットハッカー。なぜかこの試合のチケットが「取れた」ちうのんで、喜んで甲子園へ松本GO!。「パ・リーグ応援」という名目で。
かき集めたハム応援アイテムを身につけた、観察者の勇姿を見よ!
タミヤ模型のTシャツ(昨年の草薙球場遠征時に静岡駅でゲット)がわからん人には、きっぱり意味不明で不審者。わかったところで、これは田宮裕涼の応援着では、断じてない。
で。試合の方は、今年のプロ野球トレンド「投高打低」そのものの息詰まる(行き詰まる)系進行の上、延長11回裏に日本ハムが守備のミスでサヨナラ負けを喫するという「とほほ」結末。んが。それがなんだというのでせうか。昨年の日シリ時のようなヒリヒリ感もなく、ワンオブ公式戦の興味本位観察という気楽な状況で訪れた甲子園球場は、楽しい楽しい野球の聖地なのであった。
なんと言っても開放的な、スコーン!と声が抜けるこの球場特有の空気。ええ球場やほんま。シャケも喜びにピチピチ打ち震えている。
この日座った3塁アルプス席は、昨年の日シリで3日連続座って尻が貼り付いた外野席のタブレットほどしかない座面と比べれば、大型ディスプレイくらいの面積はあって、快適。まあ、多少体をねじらないとホームベースが見えないのはアルプスの伝統(ローレイヒー)。
3塁側とはいえ99%を占める阪神ファンの皆さんは、貧打戦なのに賑やかで爆発的に楽しそうでフランク。アルプスには外野の「ああいう雰囲気」はないので居心地良し。例の「阪神にしょぼいヒットが出ただけで逆転満塁ホームランが出たような大騒ぎ」も、今日はとても可愛く思える。
そして。言わずもがな、阪神ファンにとって相手チーム攻撃は休憩時間でしかない。打席に万波が入っとるのに、そばにいた#66万波ユニを着た見知らぬ兄ちゃんに友達との記念写真撮影をお願いする阪神ファンがいたのだ。驚いたが、観戦をあきらめて快くそれに応じる万波ファンがステキだった。たぶんその阪神ファンは単に「日本ハムのファンがこの世に存在する」ということを知らなかっただけなのだ。そういう顔をしていた。
後ろの席からはこんな会話が…
「あのマルチネスっていうの、どっかで見たことあるわあ。 他のチームから来た人?」
「マルチネス? ああ、マルチネスって各チームに一人はいるねん」
「そうなんや」
嘘こけ。ていうか、答えになってないのに納得すな。
ハムファンのおばちゃんが、そばにいた初見のハムファンの若者に「すみませんけど」もなく質問を浴びせかけるのも「関西人」ってかんじで風情があった。
「渡邉諒って日本ハムからトレードされた人やろ? 代わりに誰が来たんやったっけ?」
「江越っす」
「野村って最近打たへんねえ。なんで?」
「それは… 調子っす」
そんな甲子園球場の雰囲気を満喫しているうちに、延長11回裏に「事件」が起こる。売り子のお姉さんが、階段にけつまずいたか何かして酎ハイの缶をかなりの本数、四方八方にぶちまけてしまったのだ。タイガースはランナー貯めてサヨナラ勝ち直前で、ファンはお祭り騒ぎの真っ最中。「うわ。タイミング悪っ…」と思いきや、直後に信じられない光景が繰り広げられた。
周囲のファンは事態を察するや「さっ」と応援を中断し、かなり下まで転がり落ちたり誰かの椅子の下に転がり込んでしまった缶を協力して回収し始めたのだ。ごく当たり前のことのように。恐縮がるお姉さんの元には瞬く間に20本以上の缶が戻り、ファンたちは何事もなかったかのようにまた応援に戻る。そして、その直後に阪神がサヨナラ勝ちを収めるという、なんだか寓話的な展開。
甲子園球場で思いもかけず「名シーン」を見た思いである。グラウンドじゃないところで。ちょっとほっこりして、阪神ファンが喜ぶ姿を、私もなんだか嬉しく背中に感じていた。え?背中?すんません。その瞬間、駅へダッシュしとりました。
感情の切り替えは、早い。それが生きるコツ。おかげでスムーズに帰りの電車に飛び乗れたちう、交流戦・最終戦のエンディング。
選手もファンも、お疲れ様でした。また通常レギュラーシーズンでえ!
次ページは、専属カメラマンによるハムズ写真集「アルプスからの光景」をどうぞー。
南 郁夫 (野球観察者・ライター) 通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」 |
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