スポーツイラストレーターT.ANDOHの「OUTSIDER’s ReCALL」(125)それぞれの街への思いを背負ってプレーする、ふたつの震災を経験した神戸ストークス・中西良太

2025年1月17日(イラスト・文/T.ANDOH)

 

こんにちは!スポーツイラストレーターのT.ANDOHです。
今年も1.17がやってきました。
阪神・淡路大震災から30年、名古屋に住む僕にとっても、震災から復興してきた神戸の街と人にふれて育てられてきました。
あらためて被災に遭われた方々へのお見舞いと、犠牲となられた方々へお悔やみを申し上げたいと思います。

今回は、震災被害の思いを背負って戦う、神戸ストークスの中西良太選手をご紹介したいと思います。
1月15日、全国の新聞誌面に、阪神・淡路大震災の記憶を辿る話題として中西良太選手の記事が掲載されました。
中西選手は兵庫ストークスでプレーする若手時代から応援をさせてもらっていて、彼の結婚記念のウエルカムボードを描かせてもらうなど、公私で仲良くさせてもらっているのですが、震災のことにふれることはなく、新聞記事を見て驚くこともありました。

中西選手はクリスマスイヴが誕生日。6歳の誕生日を迎え、お正月を経て、楽しく過ごしていたであろう1995年1月17日に、東灘区の自宅で震災に遭いました。
仲良くさせてもらっていても、震災の話を聞くことにはなかなか遠慮が起きてしまいます。
そこは、僕自身がやはり震災を経験したわけではないOUTSIDERだから… かもしれません。

東灘区といえば被害も大きかった地域。
家族に被害はなかったが、幼稚園の友達が亡くなり、避難所生活も経験した。
子供心に「生と死は隣り合わせ」という意識が芽生えたんだそうです。
そんな憔悴した神戸の街と中西少年のなかで希望の光となったのが、「がんばろう神戸」を掲げて大躍進したオリックス・ブルーウェーブだったそうです。
そんなオリックスの影響もあったのか、中西少年は野球を始めました。

現在、中西選手は、昨季で引退をした松崎賢人氏、そしてチーム最古参の谷直樹選手と同い年の「ストークス三銃士」としてチームを牽引しています。
しかし、兵庫ストークス立ち上げの時には中西選手は別のチームでキャリアを始めました。

それは、中西少年がプロ野球選手を目指していた経歴からうかがえます。
同年代には今年巨人に移籍する田中将大選手をはじめとした「ハンカチ王子世代」の野球選手たちがいます。
中西少年は野球を続け、中学時代には実際に田中投手や前田健太投手とも対戦し、全国大会にも行った実力の持ち主でした。
プロを目指して高知中央高校に入学しますが、高校1年の時に肩を痛めたことで野球の道を断念。
2年生からバスケットボールを始めて努力を重ね、日本体育大学に入学。
そして兵庫ストークスが立ち上がった同じ年、いまの宇都宮ブレックスの下部チームとして活動していたTGI D-RISEにてプロ選手として入りました。

身長2メートルという恵まれた身体とゆるぎない努力が中西少年をプロバスケ選手に引き立てたのですが、その原点には震災復興に励むオリックスと、野球が関わっていたのですね。
D-RISEもまた、当時のブレックスをはじめとしたトップチームには及ばなかったものの、個性的で面白い選手をたくさん起用したチームでした。
のちに西宮ストークスで活躍した細谷将司選手をはじめ、ストークスに移籍した選手もたくさんいましたね。

中西選手もストークス2シーズン目で加入すると、JBL2リーグ初優勝に貢献します。
その後、2014年シーズンからは松崎健人選手とともに熊本ヴォルターズへ移籍しますが、その熊本で中西選手を襲ったのが、2016年4月の熊本地震でした。
当時、チームは川崎へ遠征していたのですが、たまたま怪我で留守番をしていた中での被災となりました。
チームも活動ができない中、小林慎太郎キャプテンをはじめとして選手会が立ち上がり、復興活動に励むことになります。

「神戸の震災の時は自分は何もできなかった」
「いまは自分が誰かの力になりたいと思った」

神戸の被災を経験した身から言える復興の思いを、日々の炊き出しや募金活動に向けました。
翌シーズンはBリーグの開幕年。
B2リーグから始まった熊本ヴォルターズでしたが、復興への希望と選手会のがんばりを見ていた地元熊本のファン4千人が埋め尽くした地元開幕戦での感動は今でも忘れられない光景なんだそうです。

震災復興の熱はあつく、熊本ヴォルターズは大健闘!
中西選手もそんなヴォルターズの中心選手として活躍すると、日本代表候補にも選出されて注目が集まります。
そんな中西選手が次に目指した目標は「熊本ヴォルターズ」のB1昇格でした。
2016シーズンはB2リーグ3位で終わったものの、翌2017-18シーズンから3シーズンにわたってB1昇格をあと一歩で逃す健闘を見せました。 

B2での戦いぶりと日本代表にも選ばれる体躯から、他チームからの移籍話も多く寄せられたのですが、「熊本でB1を戦いたい」という地元ブースターへの感謝の思いで熊本ヴォルターズでプレーをし続けたのでした。
しかし、熊本ヴォルターズでB1昇格は逃し、佐賀バルーナーズを経て2021-22シーズンから、地元神戸に戻ってきました。
結局、中西選手は熊本、佐賀、そして神戸(西宮)と、B1でのプレーを経験できずにいまに至ります。
それでも、ふたつの被災から得た人や街への感謝の思いを背負って戦う中西良太の中には、いまでも変わらぬ望郷の思いと挑戦の気持ちのみです。

来シーズンには神戸港にG-LIONアリーナが開業し、いよいよ神戸ストークスがBプレミアに昇格することが決まりました。
「僕の分も、谷や中西はトップリーグで、神戸の人の期待に応えて頑張ってほしい」
引退した戦友の松崎賢人さんも夢を預けます。

中西良太本人も、「あの時のオリックスのような、地域を盛り上げる存在になりたい」と、新アリーナでの躍進を意気込んでいます。
神戸をB1リーグに昇格し、胸を張ってプレミア元年を迎えたい。
ベテランながら、いま神戸のヒーローに成長した中西良太は、この30年を懸命に戦い抜いて、次なるステージを見据えています。

僕もまだまだ、チームを牽引する中西良太のその大きな背中を追い続けたいです。

 

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スポーツイラストレーターT.ANDOH

おもにスポーツを題材にしたイラストやデザインの創作で、スポーツ界の活性に寄与した活動を展開中。
プロ野球やプロバスケBリーグのチーム、選手にイラスト提供。
プロ野球選手には、伏見寅威選手(北海道日本ハムファイターズ)、中川圭太選手(オリックス・バファローズ)にロゴデザイン、イラスト提供中。
名古屋在住にも関わらず20年来のオリックスファンであり、その由来とイラストレーターの起源は神戸にある…!?

 

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