南 郁夫の野球観察日記(166)ドジャース移籍、惜別コラム・山本由伸の141球

2023年12月24日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

2021年11月27日。日本シリーズ第6戦。極寒のグリーンスタジアム神戸で見た「山本由伸の141球」を、私は永遠に忘れないだろう。オリックス25年ぶりのリーグ優勝、そして著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」発売直前ということで脳内インジケーターは振り切れ状態。そんな私の眼前でくり広げられた、神戸で開催されたこと自体が奇跡のような日本シリーズ最終戦

ヤクルトに王手をかけられたオリックスにとって、絶対に負けられない試合。パリパリと音がする緊張感と寒さの中、白い息で激しく叫びながら9回を投げ切った、山本由伸の141球。鋭利な刃物のようにボールを操り、回を追うごとになぜか球威が増していくその鬼気迫る快投を、私は「芸術作品」と称した。1-1の同点のまま最終回のマウンドに登る由伸には明らかに後光が差しており、その神々しい姿に私は、おののいた。彼がマウンドを降りた延長の末にチームは負けたが、やり切った由伸の表情は、深い湖のように穏やかだったのである。

NPB通算70勝29敗、なんと通算防御率1.82。2016年ドラ4、年俸500万からスタートした無名投手の恐るべき成長は、ずばりオリックス低迷期からの脱出→V3とリンクしており、私たちはそのすべてを間近で目撃することができた。完全覚醒は2020年あたりで、彼の投げるボールだけ「砲丸」なの?というくらいに相手打者を完全に圧倒し始めた。打球を前に飛ばさせない。18勝、15勝、16勝を挙げた直近の3年は無双も無双、「絶対的エース」を絵に描いたら山本由伸なのである。

私の野球観察は、由伸と縁深い。たまたまの遠征観察で彼のノーノーをなんと2回とも目撃したし、パーソル パ・リーグTVのYouTubeチャンネルに今も残る2020年の「超保存版 語り継ぎたい「山本由伸の11球」」を目撃できた上、中継カメラに一瞬映り込んだ。無観客試合の取材でカメラマン席付近にいたからなのだが、このとき至近距離で聞いた若月のミットの叫び音と、1球ごとに相手楽天ベンチから聞こえた「おおぉ」という呻き声が耳から離れない。恐ろしいくらいすごい投球だったのである。

そんな稀代の大投手がオリックスを去ってしまうわけだが、寂しさはあるものの、悲しみはない。より多くの人にMade in ORIXの山本由伸を見てほしいから。そして、ワールドシリーズで吉田正尚との対決を見たい。たった7年で、山本由伸はNPBでやれることは全部やり切ったのだ。あとは後輩に任せて、新しい地平を切り拓くしかないだろう。もう十分過ぎるほどファンにも球団にも(球団にはいろんな意味で)恩返しをしてくれたのだから。

とりあえずさようなら、山本由伸。素晴らしいシーンを何度も何度もありがとう。いつも短い試合時間もありがとう。あ、でも。「和牛」に続いて「おとなりさん」も解散かあ。それは寂しいな、頓宮。

でわ。専属カメラマンの写真集で山本由伸を送り出そう。

・力強くも洗練された投球フォーム

・懐かしの背番号43時代 初々しい~

・平井コーチの説教中 隣は?あの!

・阪急ブレーブスにいてそうな風貌やん

・一躍スター街道を爆進!

・ベルーナでのノーノー達成の瞬間!

・甲子園球場にて

・念願の日本シリーズ初勝利投手の瞬間!

・いつだって相棒は若月ケンケン

・二人ともチームを去るんだなあ

・試合前の遠投カッコよかったねえ

・練習キャップも似合います

・サングラスも似合います

・元気でねえ、由伸

 

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

 

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