南 郁夫の野球観察日記(121)オリックス・ドラ1ルーキー 椋木蓮、ノーノー未遂事件

2022年7月21日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

いやあ焦ったあ。何も私が焦ることはないのだが。先日のベルーナドームでの山本由伸ノーノーに続いて、1年に2回もノーノーを球場で見ちゃうんだ!私わ!とほぼ覚悟していたのだ。

7月20日の日本ハムズ戦@京セラドーム。二階席で見つめる私の前で、試合はすでに9回裏2アウト2ストライク。スコアは2-0。ルーキーの椋木蓮は、まだ1本もヒットを打たれていない。まさか?まじで?

最後の1球を椋木が投げた瞬間、「あ!」と思った。この日初めて見た、いちばん「しょうもない球」だったから。誰からも簡単に空振りを奪っていたスピンのかかった地面に叩きつけるような変化球ではなく、最後に限って、ふわっと高めに投げた… なんというか「しょうもない球」だったのだ!

カッキーンというより「ペチン」という音を残し、日本ハム・代打の佐藤龍世が放った打球は、無情にもセンター前に。球場全体に「あらぁぁぁ」という長い長いどよめきが渦巻き、日本ハムのベンチだけが「きゃあきゃあ」大騒ぎ。

それでも! ルーキー投手が2度目の先発で、ここまでの快投をやってのけたのである。すぐに場内は暖かい拍手に変わり、降板する椋木を称えたのであるが、本人は絵に描いたような「とほほ」顔でベンチへ。そらそうやわー。最後の最後の詰め、詰めだけをしくじったんやからなあ。うーん、それが野球。

後処理は、もちろん今シーズン「神」のワーニン平野。緊迫していた場内がざわつく中、あっさり近藤健を打ち取り、可愛い新人に2勝目をプレゼントである。なんせまだ2先発で2勝なんだから、すごいルーキーだ。

さて。ノーノーを最後に阻止したのが、コロナ陽性者&怪我人大量発生の非常事態で急遽、木田・二軍監督とともに昇格直後で代打に出た佐藤龍星やったちうんが、なかなか良かった。昨年、西武から出身地である北海道のチームに移籍してきて、今度こそ一軍定着を狙う25歳。BIG BOSSにキャンプで指導されて実践していた「2ストライクに追い込まれたらペッパーのように打て」をこの大事な場面で実現しての「ペチン」ヒットだったのである。

BOSSはキャンプで指導通りに結果を残す佐藤を指して「登録名、ペッパー師匠にしようかな」と言ってたので、本当にやるかもしんない。本人は嫌やろうけど、関係ない。PEPPER SISHOU。

そんなことより、椋木蓮である! 初めて実際に見たが、素晴らしい投手である。スリークォーターで豪快さのないフォームなので、ちと球場で遠目に見たらわかりづらい素晴らしさなのだが、何よりテンポが小気味良くてリズムが気持ちいい。生き生きとしたボールを投げる。ルーキーなのに、すでにゲームを支配している。昨年の新人選手入団発表のときはそれほどオーラを感じなかったけど… 本当にオリッのスカウトの目は高いな。またまた有望な若手投手の誕生である。

今夜は悔しくて寝れないだろうが、ルーキーで一気に「ノーノー」を達成して由伸と肩を並べちゃうより、「あと一人で…」の方が良かった。そう思う。そんな記憶の方がエッジが効いて、ファンの心に残るもん。最後の最後まで、相手の打者も生活を賭けて全力で戦っているのだ。そこが身にしみた方が、ルーキーとしては今後のためだろう。それにしても… これで完全にローテに入るな。

ところで、相変わらず「味方投手に緊張感を与えるため」最小限の得点しか取らないオリッの貴重な2点をもたらしたのは、吉田正尚の美しい2ランホームラン。二階席から見てると、本当にその弾道は上品で優雅だった。

京セラの二階席も、野球の動きが俯瞰できてまあ悪くないな、とも思ったこの夜、なかなかええもんが観れたわい、とホクホク球場をあとにしたのである。

 

PS1:日本ハムに「柿木蓮」て投手いるけど、異様に「椋木蓮」と字面似てる!と一人で興奮。めっちゃ似てません?

PS2:駿太のグッズが安売りされてたー。新天地での活躍を祈る。

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
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