南 郁夫の野球観察日記(78) 祝・2020シーズン開幕!オリックス無観客試合レポート!
2020年6月23日(文/南 郁夫、写真/K!SPO編集部)
幾多の苦難を乗り越えてえ~♪ プロ野球がようやく、ようやく開幕しました。無観客で。
さっそく各地で熱戦が繰り広げられています。画面を通してとはいえ、プロ野球ファンはようやく戻ってきた「日常」を楽しんでいることでしょう。
「でもな~、野球観察者は現場主義だからな~」とか言ってたら… ありがとうございます、オリックス・バファローズ様。開幕シリーズの3戦目の取材をさせていただくことになりましたっ。すべてのオリックスファンを代表して謹んで観戦してまいりました、のレポートです。
6月21日(日)のお昼過ぎ。京セラドーム前はイオンの買い物客ちらほらの、普通の日曜日の光景です。思い思いの応援ユニに身を包んだファンたちは、そこにはいません。とてもこれからここでプロ野球公式戦が行われようとしてるとは思えず、なんともシュール。
関係者入口からドーム内に入ると、そこにはフェイスシールドを着けた受付の方と、ずらり並んだ検温機材が。取材者にはマスク着用が義務付けられており、動線を分けて選手のエリアには入れないなど、きちんとした対策が取られています。こちらも緊張感を持って、いよいよ取材開始。
ちょうどグラウンドでは楽天イーグルスが打撃練習中で、久しぶりに聞くナマの打球音や野球選手たちの声に、思わず頬が緩みます。もちろんグラウンド上での取材はNG。ベンチ横のカメラ席は「選手待機場所」として使用されており、各メディアのカメラマンはいわゆるフィールド席(大商大シート)に望遠レンズをずらりと並べています。
K!SPO取材班は、その邪魔にならない端っこの方に陣取りました(右の山本投手が先発なので三塁側に)。
この日は公式戦初の新サードユニの着用日ということで、その斬新なレトロフューチャー感を目撃できました。上下ネイビーって好みの分かれるところでしょうが、なかなか強そうに見えました。監督・コーチ陣はネイビーのマスクもしてるので完全に「忍びの者」ですが。
至近距離で両軍の守備練習を見て(オリックスの内野では20歳の廣澤くんがでっかい声出してました)、いよいよ試合開始が近づきます。あ、グラウンド上ではベルちゃんが手を振ってくれてます。手のひらには「エアー・ハイタッチ」の文字が! 今年はそこらあたり、よろしくということですね。(ブルくん見かけなかったけど、この日はテレワーク中?)
スタンドの一部が選手のパネルなどで飾られている演出は映像で見る他球場と同じでしたが、京セラドームで秀逸なのが、多数のポンタやブルくん・ベルちゃんがソーシャルディスタンスを保って座っているエリア!これが異様に可愛い! できればスタンド全体に1万ポンタ並べてほしいですね。
さて、肝心の試合の方ですが。ご存知の通り「若武者」山本投手の8回無失点の快投で、我がオリックス・バファローズの2020年シーズン初勝利の瞬間を目撃できました。特に初回の挨拶がわりのあっという間の「三者三振」の衝撃は凄まじく、山本くんの今シーズンにかける思いがビシビシ伝わってくる圧巻の光景でした。
両軍ベンチの声がよく聞こえるのですが、彼のストレートが「びしっ」(というより「びちっ」)と若月捕手のミットを響かせるたび、楽天ベンチからは「むぅ…」という声にならない声が伝わってきました。まともな当たりは一つもないという、完璧な内容。いやはや、すごいもんを観せてもらいましたね。
攻撃陣の方では、個人的に一押しの「1番・T-岡田」選手が3安打2打点、本塁に、ヘッドスライディングを敢行するなど大活躍。開幕1・2戦はヒットがなかったのでホッとしました。やはり愛すべき先輩の彼が打つと、ベンチが明らかに盛り上がります。この日はどんどん盗塁も決めるなどいい形が作れたオリックス、シーズンに期待が持てる素晴らしい試合内容でした。
楽天ではドラ3のルーキー・津留崎投手が中継ぎで登板し、吉田正尚選手とのマッチョ対決を鋭いカットボールで三振に切って取るなど、鮮烈のデビューを飾りました。敵味方関係なく、若い選手が出てくるのは気持ちの良いものですね。
さて、ここからは野球観察者として「無観客試合」のリアルな感想を。
いつも通り音響は流れるし、両軍ベンチの声は予想をはるかに超える音量で聞こえるし、プレイが動いているときは、無観客ということを忘れるのですが…。野球って、結構「間」のあるスポーツですよね? それらの動きが「ぱたっ」と止まった瞬間の「サウンド・オブ・サイレンス」ぶりったら、ありません。文字で表すと「しーん」じゃなくて「・・・・・」です。「他球場の経過」がアナウンスされても「・・・・・」。信じられないかもしれませんが、空調の「ブーン」というかすかな音が、聞こえます。一瞬、閉店してBGMの消えた店に取り残されたような、いたたまれない気分になります。
が、そんなとき。静寂を打ち破るべく大きな声を出していたのが、伏見選手です。昨年後半を怪我で棒に振ってしまった彼ですが、ちゃんと今シーズン開幕に間に合ってくれました。「この状況で」伏見選手がベンチにいて本当に良かった、とおそらくチーム・関係者全員が思っていることでしょう。全イニングを通して甲高い大声でベンチから味方を鼓舞するその姿勢には、頭が下がります。もちろん試合にも出場して活躍してほしい。彼のこの日一番の掛け声といえば、「渋いよ渋いよ、駿太!」でしたね。
とはいえ。やはり静寂の中でグラウンドに響く「野球音」は心地よいものです。バットやグラブの放つ音はもちろん、ボールの「シュルシュル」音、内野手がグラブをこぶしでポンポン叩く音と「よしいこー」という掛け声まで聞こえる幸せったら、ありません。ショートの安達選手がなんども山本投手に向かってつぶやいた、けっこう普通のテンションでの「ナイスボー(ル)」という右肩下がりのフレーズが、耳について離れません。
で。巷で考察されている「無観客はプレイに影響するのか?」に関する観察結果ですが…。誤解を恐れずにいうと「まったく影響がない」と感じました。当たり前といえば当たり前ですが、一軍レベルのプロ野球選手のプレイの真剣味と凄みは、観客がいるいないとかいう次元を超えたものです。それに吸い寄せられてファンがスタンドに集まって、あくまで「後押し」するわけですからね。グラウンドの選手たちは、公式戦ならではの緊張感の中、目の前の野球に集中していました。そして、野球を楽しんでいるように見えました。ひしひしとそれを感じましたね。
でも、もちろん!無観客ではプロ野球という興行は成立いたしません。1日も早く観戦可能となり、山本投手の圧倒的な投球を、切込隊長のT-岡田選手を、遠目に見たらヒゲがマスクみたいに見える新外国人ロドリー(ロドリゲス)選手を、バリバリのメジャーリーガーのジョーンズ選手を、チームのみんなが躍動する姿を、球場に行ってナマで観たいものです。
ところで、今年の京セラドームの電光掲示板はとても見やすくなっていますよ。ポップで鮮やかなビジュアル効果もさることながら、必要な試合状況(投手・打者だけでなく走者や守備情報)が一目でわかるなど、視認性や利便性がぐんと向上しています。若月選手の好きな食べ物が「しゃぶしゃぶ(ポンズ)」ということまでわかるんです。(わざわざポンズて…)
そしてそして。忘れてはいけません。我らがボイス・ナビゲーター神戸さんの美声が、今年も場内に響き渡っておりました。オリックスから楽天に移籍したロメロ選手を紹介するときに、「ロメーロゥ!」と絶叫するのではないかとハラハラしましたが、思いとどまってちゃんとテンション低めで「ロメロ」とアナウンスしていました(笑)。
というわけで。
無観客の公式戦を取材させていただくという貴重な体験を、ありがとうございました。最後に、いつもお世話になっているオリックス・バファローズ広報、サトタツさんこと佐藤さんからのコメントです。
「まずは開幕を迎えられたこと、そして、チームの今季初勝利を挙げられたことに、ほっとしています。無観客ということでいつもと違う形にはなりますが、テレビの前で観戦しているファンの方々に喜んでいただけるように、これからもチームが勝利を重ねていって欲しいと思います」
ホント、勝利を重ねていってほしいですね!
<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。
南 郁夫 (野球観察者・ライター) 通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」
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