南 郁夫の野球観察日記(241-1)平野劇場、ついに終幕
2026年9月27日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

「もうドキドキしないですみます」
ファンへ向けた、最後の言葉がこの変化球(フォーク)である。なんとも彼らしい、クールでウィットに飛んだ去り際ではないか。でも。こちらとしては、「そっか。もうドキドキせんでええのか」とはならない。もうあの「感情のジェットコースター」は味わえないのだ。
平野佳寿については、すでに語り尽くしている。(「平野劇場、今夜も上演中」2023年8月)今はもう、この長い長いロングラン上演が本当に終わったことを、しみじみと噛み締めるのみである。ブロードウェイで「オペラ座の怪人」が終わるようなものだから。み、観たことないけど。

さて。記念すべきその引退試合は…。

どっ。初回からホークスにボコボコにされて、3回までに9点取られて、「せっかくのセレモニー、明日になるぞ。加古川のやつ、泊まりやど」ちう、長い長いホークスの攻撃時間。でもそこから気を遣ってくれたのか?淡々と(両軍)0行進で時短に協力。ちょうどいいかんじの9時前、9回に最後のワーニンコールで、平野がいつも通りの表情で登場。


最後の相手が、同じく今年で引退のホークスの功労者・中村晃という劇場的展開に多いに湧き、フォークで空振り三振に取る理想的演出に、大喝采。


さすが平野佳寿、しっかりこの日に向けて「地味な準備」をしてきたからこその、この結末。そのことにじーんとするし、地上すれすれのフォークを「大切な宝物」のようにミットに収めた(この回から交代の)若月健矢の姿にも、じーん。平野のフォークで、若月は鍛えられたもん。
試合後は、彼らしいさっぱりした質感の、簡潔な引退セレモニーだった。昨今のいささかウェットすぎるセレモニーを見慣れた目には、とても新鮮に映った。彼の著書『地味を笑うな』にあるとおり、平野には野球に対して妙なロマンチシズムや虚栄心は、一切ない(笑)。それが彼の独特の魅力であり、カッコ良さなのである。


もう、あのフォークの軌道を、見ることはない。こぶしを握るだけのガッツポーズを、見ることはない。
平野は、永遠に劇場の舞台から消えてしまった。
確かに、平野劇場は心臓に悪かった。
でも、私はすでにあの「ドキドキ」が、懐かしい。

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南 郁夫 (野球観察者・ライター) 通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」 |
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