南 郁夫の野球観察日記(20)女子野球から目が離せないっ!ジャパンカップ観察日記
2016年11月1日(文・写真/南 郁夫、K!SPO編集部)
先日の兵庫ディオーネの取材がきっかけで、なんだか気なる「女子野球」。10月28~31日に、ほっともっとフィールド神戸で開催されたジャパンカップを観戦してきた。高校、大学、クラブチーム、プロ野球チームの上位チームがトーナメントを行い、2016年の女子野球日本一を決定する大会だ。
秋晴れの空の下、グリーンスタジアム神戸(この、かつての名称の方がしっくりくる)は、いつだって美しい。絶好の野球日和だ。
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10月29日(土)
1回戦
埼玉アストライア 12-0 アサヒトラスト
アサヒトラストといえば、今年の女子野球ワールドカップにも4名の選手が選ばれたクラブチームのパイオニア。相手の埼玉アストライアのスタメンにもこのチームの出身選手が2名いるという興味深い対戦であったのだが、結果的にはプロチーム・埼玉の圧勝。
しかしワールドカップで柵越えホームランを放ったアサヒトラストの有坂選手の「怪物ぶり」の片鱗は見ることはできた。179cmという恵まれた体格(女子の場合、体重は非公開なのね)から放たれる打球は、ちと目を疑うほど女子でないのだ。打球が、ね。この選手が昼間は会社で事務仕事をしているというのだから、女子野球の裾野も広いなと思う。
投打ともクラブチームを圧倒した埼玉アストライアであるが、立役者は3塁打2本を含む3安打3打点の川端選手。実兄がヤクルト・スワローズの3割打者であることでも有名な川端選手のスイング・走塁・守備は、その全てがエレガントでうっとり。ほんとプロだなあ、と思わせるスター選手である。話題のルーキー・加藤優選手も初めて観戦できて満足。そのルックスで話題先行の加藤選手であるが、この試合で2安打したそのバッティングはシャープでしなやか。身のこなしも軽快で、見ていて楽しい選手であった。ちなみにこの加藤はアサヒトラスト出身。
両チームの何が違ったかというと、やはり守備力ではなかろうか。特に外野手の「最後の一歩のチャージ」が、やはりプロは違う。ポトリと前に落ちるかギリギリでキャッチするかの差が、この試合では明暗を分けていた。飛球の距離が短い女子野球はけっこう、そこがポイントではないだろうか。ポジショニングも含めて、プロはさすがであった(アサヒトラストのセンター・志村選手の背走キャッチは見事でしたが)。あと、やっぱりプロのユニフォームはカッコいいね。というわけで、埼玉アストライアがプロの実力を見せつけたこの試合だった。
準々決勝
神戸弘陵高校 4-0 尚美学園大学
女子高校野球ナンバーワンと女子大学野球ナンバーワンの激突。特に事前情報で「注目です」と聞いていた神戸弘陵高校に注目していたのだが、まずはグラウンドに全速力で飛び出してきた彼女たちのあまりの元気の良さにびっくり。試合前の練習時からぴょんぴょん飛び跳ねて「きゃっきゃ、きゃっきゃ」と大声をあげているのだ。それに呼応してスタンドにいる大勢の控え選手たちも黄色い声で飛び跳ねて、途中からはブラスバンドまで加わっての大騒ぎ…ていうか、神戸弘陵高校フェスティバルっ!
そのあまりのハイテンションに驚きつつも「青春やなあ」と微笑ましく、「女子高校野球がえらいことになっとるぞ」とつぶやいてしまった。試合前から。
そのハイテンションは試合が始まってからもトーンダウンすることはなく、プロに多くの人材を輩出している名門・尚美学園大学のお姉さん達を圧倒していく。どの選手も大声を出し、リズミカルな投球と守備で小気味よく守り、的確な攻撃で着々と点を加える。試合中も元気で笑顔・笑顔の各選手なのだが、プレイは緻密で冷静。「や。やりおるなあ」と驚いている間に、なんとシャットアウトで大学に勝ってしまったのだ。女子高校野球が、というか、神戸弘陵高校・女子硬式野球部はえらいことになっている。
エラーをしたって、神戸弘陵の選手は「てへっ」と笑顔だ。なんかその「全く湿っぽくない」高校野球は、ともすれば時代の旧弊を引きずりがちな男子高校野球の世界よりもカラッとしていてたくましく見える。カルチャーショックである。指導方法もいいのだろうな。時代は変わっているのだ。明らかに。
尚美学園大学の選手たちも、負けはしたがプレイの質は高かった。体もひと回り大きくて、プレイスタイルはさすがに高校生たちよりも説得力があった。個人的には佐藤選手のキャッチャーぶりがびっくりするほどかっこよくて、見応えがある。非常に「絵になる」プロ向きの選手なのである。彼女はプロ志向なのだろうか?
とにかく、初めて学生同士の試合を観たのだが、改めて女子野球のレベルの高さに驚かされる。今回、高校生が大学生に勝ったのは、アップセットというよりは女子野球全体がどんどん成長している証しなのであろう。本当にこれからが楽しみな、女子野球。そんなことを実感できたこの試合であった。
そして、日本一の行方は?
高校、大学、クラブチーム、プロ野球チームの上位チームが出場。2016年の女子野球日本一を決定するジャパンカップ、プロ3チームに高校生チームがベスト4に勝ち残り、いよいよ最終日。
地元チームの兵庫ディオーネと神戸弘陵高校に注目だ!
10月31日(月)
準決勝
兵庫ディオーネ 8-1 神戸弘陵高校
プロ女王のディオーネに、高校ナンバーワンの神戸弘陵が挑む地元対決となり、スタンドの応援も力が入る。神戸弘陵高校は、この日もベンチも応援席も元気いっぱい。大きな声援と、声をそろえた応援歌、力強い太鼓のリズムが、球場に響く。
試合は、ディオーネの川口選手が2安打2打点の活躍、先発のエース里投手はエラーがらみの1点に抑え、村田投手が6、7回を締めた。
結果は、プロ女王のディオーネが圧勝したが、準々決勝で大学生相手に完封リレーを演じた谷川投手、龍田投手が踏んばり、最終回までしっかりプレーした神戸弘陵高校。3年生にとっては、これが最後の大会。プロチーム相手に善戦し、有終の美を飾った。試合後は「この時期までたくさん試合ができて、本当に良かった」と笑顔を見せていた。
準決勝
埼玉アストライア 3-3 京都フローラ
こちらはプロチームの対決となった。注目の埼玉アストライア・川端選手は、この日も3塁打を含む3安打2打点の活躍。両チーム一歩も譲らず、引き分けに。大会規定により、抽選の結果、埼玉アストライアが決勝へ進出となった。川端選手は抽選を引き当て、ここでも大活躍!
決勝
兵庫ディオーネ 8-0 埼玉アストライア
一塁側応援席には、先ほど試合を終えた神戸弘陵高校のメンバーが大応援団となって、声援と太鼓でディオーネを後押し。
ディオーネは左腕の泉投手が先発、5回無失点の好投。猛打賞の太田選手をはじめ、好調の打線が爆発、着実に点を重ねた。6、7回は、エースの里投手が締め、2年連続の日本一に輝いた。
ディオーネは、前後期シーズン優勝、年間女王、ジャパンカップ優勝と、完全制覇。女子野球を牽引する存在となっている。
今大会は順延のため4日間で10試合が行われた。最終日はダブルヘッダーという、なかなかハードな日程だが、どのチームも元気いっぱい。
プロ・アマを超えた試合は、先輩後輩対決など見所も多く、きびきびと活気溢れるプレーは見ていて楽しい。なにより、野球をめいっぱい楽しんでいる笑顔が素敵だ。
引退する選手や、卒業する選手は最後の大会となり、高校生・大学生からプロの道へ進む選手もいる。これから、新チームでそれぞれの頂点を目指してスタートする。来シーズンも楽しみな女子野球、これからも目が離せない。
記事に掲載できなかった、女子野球選手たちのフォトアルバムもぜひご覧ください。
<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。
南 郁夫 (野球観察者・ライター) 通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」 |
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著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中! https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/ |
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