南 郁夫の野球観察日記(143-1)新幹線と野球・ナゴヤ球場巡礼記

2023年4月30日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

その球場の三塁側スタンド後方の限られた画角に、いきなり新幹線N700系が「びゅわーん」と現れては、消える。左からも右からも、びっくりするほど頻繁に。とんでくようだな~走る♪

 空気を切り裂くようにN700系が横切るたび、私の視線はグラウンドから逸れて新幹線に移る。地元の人は慣れているのだろうけど。のんびりした野球のテンポと新幹線のスピードとの対比があまりにも鮮やかで、つい見てしまう。見ざるを得ない。西京極球場から見える阪急電車の「のどかな」光景とは、ぜんぜん違う。

4月27日(木)昼下がり。ついに私はナゴヤ球場のバックネット裏スタンドに座っている。ウエスタンリーグ・中日vsオリックス。「知らない球場に行ってみたい」シリーズ、今回は私にとって最後の大物?ナゴヤ球場である。「いつでもいける」という油断から後回しにしてきてしまった、このあまりにも有名な球場で。私には確かめたいことがあった。

数々の名シーンの舞台になってきたナゴヤ球場、ていうか中日球場。中でも私は、1973年10月20日に行われた中日-阪神戦のエピソードが好きだ。勝てば(引き分けでも)阪神がリーグ優勝、敗ければ2日後に甲子園で巨人と優勝決定戦という状況で。星野がど真ん中に投げてるのに阪神が不可解な敗戦。その試合中に甲子園に向かう巨人選手を乗せた新幹線(100系ですな)が通過したという、「侍ジャイアンツ」にも出てきたあまりにも有名なエピソード!球場から新幹線が見えるてどんな感じなの?を体験したかったのだ。

専属カメラマン兼秘書兼運転手にスケジュール組ませて高速道路をドイツ車で飛ばしてもらえば(自分で何にもできんのか!)阪神間から2時間ちょいでナゴヤ球場。名古屋中心部からちょっと外れたその地域はなにやら静かで、古びた工場や事業所、倉庫が住宅と雑然と立ち並ぶ、下町の風情。かつては高度成長を支えた人々でこの地もかつては賑やかで、その中心に我らがドラゴンズの球場があったのだろう。でも今は…。「役割を終えた」感がこの地域全体を支配している気がした。

むかしテレビで見た往年の威容は見る影もなく、外野席も照明設備も取り壊された現在のナゴヤ球場のスタンドからは、そんな球場周辺の風景もよく見える。のろのろチャリをこいでいるおっさんの姿も丸見えだ。その背景を未来的なN700系が「急いでますんで!」と「ビュッ」と横切る絵面は、実にシュール。古い球場でのんびりファーム試合を眺めながら不思議なレトロフューチャー感に浸れる、ナゴヤ球場はそんな場所であった。新幹線に乗っているのは巨人の選手じゃなくて、たぶんサラリーマンだけど。


(ハンバーグ師匠の方が目立ってるなあ)

往時は35000人の収容人員を誇ったナゴヤ球場も、「縮小」工事を経て今は9000人収容規模。それでも二軍球場としては立派だし、何より役目を終えた一軍本拠地が取り壊されずにそのまま二軍が使用しているという事実が、愛おしい。関西のパ・リーグファンなら、それがいかに幸福なことか身にしみてわかるだろう。この日のスタンドには「昔からここに通ってる」風のお年寄りもたくさんいて、温かい応援を孫のような選手に送っていた。

1948年、米軍空襲で焼失した軍需工場跡であるこの地に「中部日本スタヂアム」として誕生した球場の変遷は、戦後の世相とリンクしていて興味深い。1951年の「巨人戦中」に球場が全焼して多くの死傷者を出したという大事件(スタンドには少年・高木守道もいた)に言葉を失うとともに、すぐ翌年に規模を拡大して再建したという当時の日本の復興力にも驚かされる。栄枯盛衰を経て、地元の支援を受けながら同じ場所で綿々とまだプロ野球が行われている事実が、尊い。

そんな球場のスタンドに腰掛け、かつては存在した巨大なスタンドに熱狂的な名古屋の野球ファンが「だぎゃー」と詰めかけて。薄暗いカクテル光線のもとで星野や木俣、大島、谷沢を応援している光景… 私はそんな妄想にふけっていた。妄想を許すような目の前の「なんも起こらん」ファームの試合展開だったからでもあるが。観察の主体は球場、それが「知らない球場に行ってみたい」シリーズなのである。

そんなこんなで、球場を味わい尽くして試合も終わり外に出て振り返ってみれば!おや?小さな神社があるではないか。普段は近づけないらしいが、球場創設時代から場所を変えてずうっと存在するとのこと(この土地自体がむかし神社だったとする説もあり)。歴史浪漫やなあ。そんなも含めて、ナゴヤ球場はまさに現役の野球歴史遺産認定である。未体験のお方は、ぜひ味わってみることをお勧めする。

あ。球場名物・あんソースの「ナゴ球パスタ」もお忘れなく。

え?味ですかあ?あは。あははは。あははははは。名古屋の人、ごめん。

さて。
試合の模様などは、次ページ、専属カメラマン撮影の写真集で!

というわけで、ナゴヤ球場。ぜひ。お客さんは本当に野球好きという感じで雰囲気もよいし、加えて新幹線車両ファンなら、ナゴヤ球場で決まり。黄色い新幹線もいつか見れるかも。近隣駐車場も安いよ。
あ。航空機ファンには豊中ローズ球場がお勧めなので、そちらの紹介コラムもぜひ!

「知らない球場シリーズ」
次はどこかな?

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
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