南 郁夫の野球観察日記(142)大正区のヘブンズ・シート

2023年4月19日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

書籍版「野球観察日記」において、低めをつく田中将大のような異様なしつこさで表現しているように。私の野球観察の視点は「二階席から」であった。今でもこれまたしつこくグリーンスタジアム神戸と呼ぶあの球場の、天国に一番近い席「ヘブンズ・シート」が、かつての私の住所だ。

しかし京セラで見るときは、あの、とりとめもなく建造物周辺部を取り巻いている「上段席」はなるべく敬遠していた。夜空は見えないんだし、風情がなけりゃ意味ないわいと。しかし、4月18日(火)、ど平日の楽天戦をがらがらの「上段席」で観察してみればっ。あのヘブンズ・シートの日々を思い出すような、懐かしい感覚に陥ったのである。

まばらに座っているのは、大半が「どちらのファンかわからない人」「そもそも野球に興味あるのかすら不明の人」「いまだに伊藤#22のユニを着ているような人」「指定された席に座る気のない人」。人口密度が低いので、基本的に試合展開に関係なく平和。客層が雑多でそれぞれ勝手気まま。売り子さんも係員もほぼおらず、静か。周囲から聞こえてくるのは、こんな雑談。

「オリックスの選手て、みんな芦屋に住んでるんかな?」
「みんながみんなやないやろ」
「下っ端は、あかんか。でも「泉州」はおらんやろ」
「おらんおらん」(私もおらんと思う。知らんけど)

ファールボールを取ろうとしてすごい音を立てて下の席に転がり落ちる人、それを見て5分くらい笑いの止まらない人、ひたすらスマホゲームをしている人、どっちの応援団にも手拍子してる人、熱狂的に楽天の応援をしているのに楽天の得点シーンでは静かになってしまう人…。

あちこちでいろんな寸劇が起こっているが、誰も他人を構わない、試合展開すらも構わない、そんなのんびりした空気がこの日の「上段席」には流れていた。ひょいっとトイレに行っても並んでないし、ちゃんと上段席にも売店があってこちらも並んでいない。快適快適。

ええ感じやん。ヘブンズ・シートやん。楽しいやん。オリックスのセットアッパー陣が開幕から眠りこけていた浅村を「高めの絶好球連投」で叩き起こして2打席連続ホームランを浴びようが、私の楽しい気分は消えない。楽天にも頑張ってほしいし、実は誰のホームランでも見たいのだ私は。そんなフラットな気持ちに、ここならなれる… と夜空を見上げても、そこにあるのは「巨大なさざえのフタ」にしか見えない悪夢の造形(の天井)だけどもっ。

さて。試合の方は、山岡泰輔の意地の好投、今年のオリッを(今のところ)引っ張り損ねた野口智哉に代わってついに一軍に上がってきた紅林弘太郎のタイムリーと好守備、宇田川優希のナイスリリーフなど、オリッ的に見所はあるにはあったのだが…

んが、その後のブルペン陣に不安の残る逆転負けで、こんな結果に。

まあでも、浅村栄斗の1000打点達成の瞬間を見れたし(名選手やなあ。そら年俸5億や)、ルーキー伊藤茉央ちゃんの初勝利に立ち会えたし、生で野球が見れてよかったよかったと、やさしいきもちだ。これぞ、ヘブンズ・シート効果なのである。

あ、三塁側だったので楽天応援団もよく観察できて「相変わらず、ラッパうまいな」と感心していたら… 

あら!草薙球場にいたトロンボーンの女性いる!あの人、関西応援団やったのか!と大興奮。隣のトランペットも今日は女性や。

とにかく、彼らの管楽器演奏のレベルが非常に高く、絶対ふだん音楽やってる人だと思う。失礼ながら、違う方の応援団の「プヒ」とはレベルが違う。一度聞いたら忘れられないコード進行の「チャンステーマ」が秀逸すぎて、いつまでも耳から離れない。関西で楽天イーグルスを応援するなんて人生も楽しいかも、などと妄想してしまう。

大正区にも、ヘブンズ・シートがあったのかもしれない。阿部翔太も「地元にようこそ」と駅で出迎えてくれるているし。

そんな発見のあった「上段席」であった。で。で。そろそろ言わせてもらうが「上段席」と仕方なく書いてるけど、「二階席」やん。ドーム構造上、上段席は「5階」なのは知っているけど。でもそれって企業側の見解であり、ユーザー目線ではないよね(私はマニュアル・ライターでもあるので)。何度も言うが「5階席へのホームラン」は誤解を招く表現である。2階や、2階!あるいは、そういうときこそ「上段席」や!

「上段席」には入場ゲートのある「下段席」からエレベーターで行けるのだが、上段席への高齢者招待で初めて来た多くのお年寄りたちはエレベーターで「2」のボタンを押して、売店フロアに「降りて」いってしまった。気の毒である。「入場ゲート/下段席=3階」なんて、誰にもわからん。ここだけの話、実は1階で降りれば… やめておこう。建物の構造がややこしすぎるのである。

さて。最後に、専用カメラマンがプチバズらせた写真をご紹介。
触り、触られ、うふん💓野球選手って本当に仲良いのね。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

 

Twitter でK!SPOをフォローしよう!