南 郁夫の野球観察日記(127)計算合ってます?オリックス、2年連続リーグ優勝!

2022年10月4日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

Orix Buffaloes 公式Instagramより

オリックスが、最終戦で初めて首位に立つ!というユージュアルサスペクツ的「大どんでん返し映画」展開で、2年連続でリーグ優勝を決めた。あっけにとられた。たとえていえば、水泳の100メートル平泳ぎ決勝で一人だけ99.9メートル潜水してた奴が最後の最後だけ「ひょっこり」浮かび上がってトップより0.001秒早くゴールした感じといえば・・・伝わるだろうか?

この夜も8時までは逆転優勝の気配はなかったのだ。結果的にオリッが逆転勝ちを収めるのとほぼ同じタイミングでソフトバンクの逆転負けが決まるというのも、あまりにもできすぎていた。展開に・・・頭がついていかない。

Orix Buffaloes 公式Instagramより

なので。少なくとも私の場合「奇跡の逆転優勝で感涙にむせぶ」というよりは「え?いいの?」という思いで、胴上げを見ていた。胴上げに遠隔で「イグエスト」が発動されるのでは?とびくびくしながら(井口監督辞めちゃったけど)。計算間違えてました!とか。数字に弱いので星勘定はわからんが、感覚で生きてる野球観察者としては・・・シーズン最終盤まで今年のオリッに優勝できるような雰囲気を「まるで」感じていなかったのだ。申し訳ないことである。

確かに、前の試合で希望をつないだ福田周平のサヨナラバスターを現地観察したときは、何かしらドラマチックな予兆は感じた。でもそこからまさかソフトバンクが連敗するとは・・・。しかしそれは散々にやられた昔のソフバンのイメージだったかもしれない。今年は大きく勝ち越したのであり、それが最後に役に立ったのだ。現実にはソフバンは私が大好きな「山川穂高と山口航輝の山々コンビ」という「他藩の刺客」に次々と襲われてしまったのだ。野球は、というかペナントレースは、ありとあらゆる運命や偶然が折り重なって、最後の最後までわからないものだと痛感するばかり。スラッガーのフルスイングはロマンを呼ぶ。

大方の予想を裏切って優勝したオリッの監督・コーチ、そしてなにより最後まで優勝を信じて戦った選手たちに、とにかく敬意を表したい。農夫のように落ち着いた精神力とあきらめない全員の気持ち。これこそが昨年、日本シリーズまで戦ったチームが得た財産だったのだ。地味に地味いに勝てる試合をコツコツと拾っていった結果が、143試合目にして花開いたわけである。あれ?これって、めっちゃ「通好み」の本当に強いチームの特徴ですやん。阪急ブレーブスの域ですやん。ずうっと「勝ち方を知らない」と言われたチームがいきなりそうなるか!と感心するばかり。やはり中嶋監督の「勇者のDNA」?

それにしても・・・絶対的なエースと4番打者という核は持ちながらも、今年は目立った連勝や圧倒的な勝利というものが少なかった。派手な見出しになるような試合は、数えるほど。昨年の優勝に貢献した選手たちの伸び悩みや、Tー岡田などベテランの怪我、誰一人活躍しなかった外国人野手や最後まで固定できなかった打線など、けっこう見ていて「しんどい」シーズンだった。最小得点を最小失点で守りきる!まあ野球通にはたまらんチームかもしれないが、観察者に言わせれば爽快感はない。でもそれで優勝である!「全員で勝つ!」とは結果的に本当によくできたキャッチフレーズであったことよ。

今年の個人成績を総括するまでもない。総合的に投手が良ければ、やっぱり勝てるのである。山本由伸、宮城大弥、田嶋大樹、山岡泰輔といった先発陣のクォリティ、そしてなにより抑えの平野佳寿を筆頭にブルペンの頑張り!MVPは異次元のエース・山本であるが、投手陣全体が優勝の立役者だ。特筆すべきは、その時々で最高のセットアッパー陣を構築できた層の厚み。彼らが本当に点を取られないのだ。阿部翔太、本田仁海、ワゲスパック、山﨑颯一郎・・・昨年とはまるでメンバーの違うシーズン終盤のブルペンを見ていると、さながらオリッのブルペンは「中継ぎ投手養成所」のようである。

あと一人、忘れてはならないのが胴上げ後に泣きじゃくっていた中川圭太。堂々の打率リーグ5位。昨年からの「上積み」がほとんどなかった野手陣においては、中川の活躍は非常に貴重なポイントになった。この優勝が「奇跡」であるならば、中川は立派に奇跡の一部を担ったと言えるであろう。

さあ。今年も我々は秋まで野球を楽しめることとなった。ここからはまた「別物」の戦いが待っている。短期決戦である。コツコツ・・・よりも「勢い」が重要な要素にもなるかもしれない。でもそれも、わからない。なんにもわからない。それが野球の奥深いところなのである。とにかくここから先はファンへの「ボーナス」だ。

ただただ、彼らの真剣勝負を楽しめばいいのだ。


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
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