南 郁夫の野球観察日記(113-1)BIG BOSS 来神!オリックス神戸開幕レポート ゲーム1

2022年5月19日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

今年もこの日を迎えることができた。神戸開幕2連戦である。いつかこの日が来なくなる恐怖に怯えながら、シーズンオフに発表される次シーズンのスケジュールをドキドキしながら待つ、この気持ち。「グリーンスタジアム神戸のファン」という特殊野球愛好者にしか味わえないスリルなのである。

でも、今年も無事「私の居場所」で野球が行われている。「いろんな意味」でこれを当たり前と思ったらいかんなあと思う。

初夏のからっとした、神戸の夕暮れどき。球場を包み込む木々がこの季節特有のちょっとセクシーで濃厚な芳香を発する中、フィールド上には私の大好きな2チームが揃っている!そう。特殊野球愛好者へのご褒美なのか、今年の神戸開幕のお相手は、新庄ハムズ!(日本で私だけが日本ハム・ファイターズのことをこう呼んですんまへん)

野外球場でこそ映える、ユニフォーム。そして、生で見ないと本当には伝わらない選手たちの躍動感。野球を愛する者のDNAが喜ぶ、空にこだまする野球音。負けが混んでるオリッを中継(やドーム)で見すぎていたせいか、なんだか今年の選手たちに精彩がないように感じてたけど。実際に目の前で試合に備えている選手たちはやはり「今日こそは!」の気力に満ちていて、魅力的なのである。

5月17日 ゲーム1「オリッ・ナイト」

球場前に着いてみるれば、ここ最近ではあり得ないたくさんの人だかり。でもまあよく見てみれば「神戸市民招待」の受付を足りてないバイトがさばききれてないのが原因と、すぐ判明。京セラと違って神戸開催時の臨時バイトは年間数試合では熟練しようがないので、いつも大混乱である。

そのぶん、検温検査は流れ作業のように通り抜けて、証明の紙もらうだけ。ここで止められて、観戦できなかった人っているのだろうか? 荷物検査もカバンをチラッと見つつ「瓶、缶持ってませんよねえ?」と口頭試問の流れ作業。そうでもないと、さばけない。場内にも「マスク・大声警察」一人もおらず!そういうのん、大好きよん。連日2万人以上が詰めかけて「歓声をあげた」神戸開幕にふさわしい大盛況。よかった、よかった。

さて。この日は1塁側指定席で観戦。ハムズのベンチが見えるからか、多くの女性がスマホのカメラ画面拡大により必死にBIG BOSSを見ようとしており、やはり野球界の人間と違ってタレントの人気は桁違いやなあと実感。BIG BOSSがいるだけで、なにやらその場が賑やかで華やかで楽しくなる。世の中にそんな人は、なかなかおらん。

ほぼ埋まってる指定席や無料招待で花火を待ってるだけ?の人で埋まった2階席に比して、あららレフトスタンドは、がんらがら。伝統的に人材不足のハムズ応援団はいまだにオレンジ・ハッピのこ~んな感じ。リニューアルの必要、あるのでは?知らんけど。

さて試合内容は… 素晴らしい。素晴らしかったの一言。オリッ山岡、ハムズ加藤の高度な投げ合いと締まった両軍の守備によるプロフェッショナルな緊張感。でもそれは… 4回裏「ぱっかーん」というプラスチックな衝撃音で破られたのである。山岡のストレートが野村のヘルメットを直撃。何度か聞いたことのある、野球音の中でいちばん「聞きたくない」音。昏倒した野村はなんとか自力でベンチに下がり、当然、山岡は危険球退場。

き。緊急事態である。まだ4回で、今年一番調子のいい先発投手が退場したのだ。(もちろん)この日も打線は低調で、まだ無得点。んが。ここからなんだか今年初めてオリックス・バファローズに「スイッチ」が入った音がしたのである。ばちっと。

まさに緊急登板。ブルペンで軽く数球投げただけでマウンドに上がる羽目になった(コロナ陽性明けの)オールド・ルーキー阿部が「うりゃー」という声が聞こえてくるような気合いでこのピンチを救えば、遅れてきた真っ黒なパイセン・セカンド大城がゴロを横っ飛びの大ファインプレー。必死で回をまたいで投げ続けた阿部が6回に迎えたピンチを、復活・近藤大が「炎の火消し(言葉が矛盾)」で救い、ベンチを飛び出してきた阿部と抱擁!熱いぞ。

球場のオリッ・ファンもこのブルペンのパフォーマンスに興奮し、ピンチを切り抜けるたびに大盛りがりの一体感。7回表を育成から蘇った本田が圧倒的なストレートでピシャリと抑えたあと(プロ初勝利おめでとう)、ついについに攻撃陣が奮起し、地味な(すまん)クリーンアップ4番・頓宮、5番・中川の連続長打、代打・佐野コーダイのタイムリーで2点先制である。

このとき。盛り上がった球場の歓声が神戸の夜空にこだまして、私の胸中にはヤバイ至福感が込み上げてきた。チーム事情が悪い中、お世辞にも一流とはいえぬ選手たちが必死のプレイをくり広げ、ようやくオリッに躍動感が出てきたのだ。そんな刹那に目に飛び込んできたのは、レフトポール上でにこにこ笑う「フルムーン」!これが野球だ。野球場だ。完璧な夜、ではないか。

8回はビドル、9回を平野が魔法のように抑えて、ゲーム1 はB3-0Fでオリッの完勝。が、万波や松本GOなどの外野陣は見ていて楽しいし(この日はBIG BOSSの守備位置指示が裏目に出ているケースもあった)、ハムズの攻守にも見応えあり。この2チームの力が拮抗していることを肌で感じることができた。今夜はオリッのブルペンの気合がすごかっただけだ。

お立ち台はめちゃくちゃ微笑ましい、この3人で、もごもご何言ってるかほとんど聞き取れなかった。

オリッの心配事:もちろん紅林とラオウ。特にラオウはことごとくチャンスに打席が回ってきて空振り。彼が空振りするたびに場内が「ざわざわざわ…」三振して「しーーーん」、これが見ていて辛すぎる。後ろのファンの子はひと言「甲子園やったらヤジで殺されとるな」と。いや、確かに。

で。試合中ずうっと自分の席を探していた阪急キャップのおじいちゃんと「焼きそば」持ったおじいちゃん、席に帰れましたか? というか家に帰れましたか? 無理もない。グリーンスタジアムの座席表示の多くが経年劣化で消えてしまっており、それでも「なんとか読める表示」だけを頼りにみんなが自分の席を指差しで数えて探し当て、喧嘩もせずに座っているのだ。この日本人にしかできない芸当で、この興行は成立している。

そこまで球場の管理資金がないのか?はい。神戸市は行きすぎた三宮駅周辺再開発に「ない袖」を振っているので、お金ありませんの。知らんけど。

とにかく。なんとなくオリッが息を吹き返した感のあったゲーム1であった。果たしてこの勢いは明日へつながるのか!?

「オリックス神戸開幕レポート ゲーム2」へ続く

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

 

Twitter でK!SPOをフォローしよう!