南 郁夫の野球観察日記(34)東北楽天Koboパークに行ってきた!
2017年7月25日(文/南 郁夫、写真/Yasutomo)
私は野球ファンである前に「野球場」ファンである。理想を求めて日本中のたいがいの球場に足を運んできた。個人的にドーム球場はアウト!なので、「マツダ」や「ほっと神戸」が私的ランキング上位に来るわけだが、一つだけ「気になっている未体験」な球場があったのである。それが、今をときめく楽天イーグルスの本拠地「Koboパーク」。
ああ、行ってみたい。ならオリッ戦に合わせて行くしかない。行くのか、結局!
というわけで、今回は野球観察者・初の東北遠征旅行記である。
今回、遠征に踏み切った最大の理由は、この7月からのスカイマーク「神戸ー仙台」就航。今のところ、予約すれば何と片道5000円で、1時間ちょいで仙台に飛べちゃうのだ(朝夕2往復)。や、安っ。は、早っ。仙台遠いし交通費高いし、というこれまでの言い訳が吹っ飛んでしまった。で。ちゃっかり私は、7月21日(金)7:20神戸空港発のボーイング737-800の「機上の人」となっていたのである。
雲の上で眠い目をこすりながら隣の専属カメラマンに「ところで仙台て何県?」と聞くが、返事は「仙台県?」。二人とも東北の県の並びと県庁所在地すらわかっていないのである。(あとでちゃんと勉強しました)
飛行機は8:40に仙台国際空港に着陸。さっきまで神戸にいたのに、「っ」という間に自分が東北にいるなんて、実に変な感じだ。街の中心部までは、空港アクセス線(JR)で約20分。かなりの大都会なのに、仙台は清潔でゴミゴミしていない。街路樹がめちゃでかい。で。仙台といえば「牛タン」しかないっしょ!(他に何も知らないだけ)ということで、適当なお店に入ったが…「牛タン、うまっ」「牛のベロ、うまっ」である。結局滞在中、こればかり食べることに。
さて。腹も満たしたし、野球観察者にとって「観光地とは野球場」。名所旧跡には目もくれず(伊達政宗公、すんまそん) 開門時間のはるか前に「Koboパーク」に向かう。仙台駅からJR仙石線(地下)でたった5分で、球場最寄りの宮城野原駅に到着。球場アクセスは快適である。
数分も歩くと、球場の外観が目に入ってくる。初めての野球場に近づいていくときの「わくわく」感って、何物にも代えがたい。いいオトナが思わず早足になっている。球場は新築ではなく、歴史ある宮城球場(かつて阪急の今井が完全試合を達成)を半年で「ボールパーク改修」したということで。適度に残るレトロなコンクリート・鉄骨感がなんともネオ・クラシックで素敵である。つるんとした多目的ドームと違って、野球の歴史が香っている。
今は「わっしょい!夏祭り」期間中ということで、球場前にビヤホール、屋台が立ち並び、周辺は楽しげなムード一色!充実のグッズショップ(CHUMSとのコラボ商品が秀逸)はもちろん、バッティングセンターや迷路があったり「パーク感」満点である。
極め付きは、左中間に位置する「スマイルグリコパーク」。隣接しているのではなく球場内に遊園地があるという、強引なまでのボール「パーク」構想! もちろん試合中も営業していて(当日券があれば誰でも入れる)、熱戦の向こうでのんびり観覧車やメリーゴーランドが回っている光景は、なんだかフィールドオブドリームで幻想的で、うっとりしてしまう。
遊園地で遊びながら野球を眺める…。野球観戦なんて、そんなノリでいいではないか!と私は思う。これを受け入れている仙台のファンの度量は大きい。というのは、もしタイガースがボロ負けしている甲子園の外野でメリーゴーランドがのんびり回り出したらと想像すると…殺気立った虎ファンが何をするかと思うと恐ろしいではないか。
いちいち感心しているうちに開門時刻となり、すんなり入場(仙台の方々は開門してものんびり外で遊んでて並ばない)。と。おお。やってるやってる。オリックスのおなじみの連中が練習を! この光景こそ、ビジター観戦の醍醐味であることよ。こじんまりしてスタンドがグラウンドに近く、臨場感があって選手が見やすい。初めての球場なのに、野球にすっと入っていける。
場内を歩き回ると、スタンドにはいろんな種類の座席があって、これもボールパーク構想の一環か。個人的にはバックネット裏のボックス席がいいな~と思った。グルメも適当ではなく、有名店が多くて選択の余地広し。ちゃんと挽いたコーヒーも売っていて、大人の要望に応えている。エアコンの効いた誰でも入れるフードコートもあり、とにかくモダンで楽しい雰囲気なのだ。
ちなみに。外野のビジター応援席以外にオリッファンは「数名」しかいないので、内野席でのアウェー感はものすごい。1塁側・3塁側関係なく、全員がイーグルスファンと思って間違いない。なので。イーグルス以外のユニを着てウロウロしていると、超超目立つ。でも仙台の方は上品なので、胸のロゴを見て「あ!」と口を開けて視線を下に落とす…程度の反応であるが(駿太ユニを着た同行カメラマンは若いからか、声をかけられまくっていた)。
さて。肝心の試合である。仙台のファンは熱かった。楽天イーグルスは熱かった。それに尽きる。さすが首位のチームである。21日は金子の前に劣勢だったイーグルスが追いついてサヨナラ勝ちしたのであるが(とほほ)、球場全体が生き物のようにじわじわと相手チームを飲み込んでいく雰囲気を肌で感じて「すげー」と思った。球場の熱気が選手に乗り移る。ご存知の通り「鳴り物」のないイーグルスの応援は、一体感がすごいのだ。
例えばチャンスで「ハクション大魔王」ウィーラーが打席に入れば、応援団の音頭など必要なしに自然発生的に、球場全体が「ウィーーラーーーーー」と咆哮する。これがもう、鳥肌モノの素晴らしさである。本物の応援。その後押しで、ウィーラーが本当に「カッキーン」と打ってしまうのだ。
常々思うが、「鳴り物」でリードする単調な応援は学生野球だけにしてもらいたい。試合展開に関係なくパッパラパーて、騒音以外の何物でもない。鳴り物応援が過激になればなるほど、応援団と一般のファンの距離が生まれてしまう。そういう意味で、イーグルスの応援はオトナだなと思った。
あと、この球場ではアナウンスなど場内演出も過剰ではなく、心地よい。音響も抜群。特に電光掲示板を使った選手データなどの情報の伝え方が素晴らしく、選手名鑑いらずである。今まで見た中で最高だ。んが。私が一番気に入ったのは、実はグリコ観覧車の真ん中にある、小さな丸いLED表示。ここに選手名とグリコの商品名が交互に映るのが、超「なごむ」のだ。ポッキー>今江>カフェ・オレ>銀次…
仙台のファンは熱い…のだが、昨年ルポした広島のファンの「カープじゃろー」な開放的な熱さとはちょっと違っていて、そのあたりの県民性の発見が旅の醍醐味である。基本、聞こえてくるのが標準語だからか? イーグルスファンは盛り上がっても上品で行儀がいい。試合後も席を立つ人々が口々に「楽しかったあ」「楽しかったあ」とニコニコしていたのが素晴らしい。
22日の試合はアマダーが「覚醒」し、3連発(おいおい打たれすぎやで)。間近で見たらなんだかロシアの幕下力士みたいなこの選手を獲ったスカウトの眼力は、すごいと思う。イーグルスはこのまま突っ走るに違いない。ボールパーク構想で仙台のファンの心を鷲(イーグルスだけに)づかみにし、チームも強い。盛り上がった仙台野球シーンを体験できて、素晴らしい旅となった。
フライトの都合で22日は試合途中で名残惜しく席を立ったのだが(T-岡田のホームラン見れて良かったあ)、最後の最後に旅情を感じさせてくれるシーンに恵まれた。それは、オリックス打者のハーフスイングを審判が取らなかったのを見て前席から発せられた、この野次。
「振ったべ!振ったべえ!」
「そうだべ!」
興奮したら出るんや!方言。
初の「Koboパーク」体験、大満足である。収容人員が少ないしチームは優勝しそうだしでチケットがなかなか取れないようだが、未体験の方はぜひ仙台に飛んで欲しい。はっきり言って、簡単に行けちゃうから。それがとても恐ろしい、私である。
<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。
南 郁夫 (野球観察者・ライター) 通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」 |
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著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中! https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/ |
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