南 郁夫の野球観察日記(92-1) 宗熱っ!オリックス天王山で涙の同点ホームラン

2021年10月13日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

打った方も涙、打たれた方も涙。10月12日、2021年パ・リーグまさに最後の天王山の初戦、京セラドームは両チームの選手・ファンの「思い」がほとばしる、エモーショナルな空間となった。たまらん、シーズン最終盤である。

息苦しくて寝そうになる?ほどの緊迫感。8回までロッテの小島投手に完璧に抑え込まれて2点ビハインドのオリックスに、追いつけるムードはきっぱりなかった。おそらく入場可能人数いっぱいに入ったスタンドのオリッ・ファンも、沈黙するばかりである。

今年はそういう状況を幾度も乗り越えてきたとはいえ、やはり四半世紀ぶりのリーグ優勝を目前に、この日の選手たちのプレイは普段より明らかに固いようにも感じていた。

無理もない。ほとんどの選手にとって、未経験な状況なのだ。それに、前の試合(ソフトバンク戦)の負け方が嫌だった。躍進の象徴である19歳・紅林の死球退場のショックも残っていた(幸い骨折ではなく抹消もされなかったが、この日は欠場)。しかし、その重苦しい空気を「一振り」で吹っ飛ばした、熱い男がいた。

宗佑磨は前の試合で手痛いバント失敗もしていたし、この日は2打席連続併殺打としくじっていた。でも、今シーズン、走攻守でブレイクしたこの若者の「熱さ」はそんなことで失われることはなかった。「当たりはいい」と私も思っていたのだ。

8回裏2アウト1塁。「腹を決めて」初球を振り抜いた宗のスイングから放たれた打球は、全オリックス選手と全ファンの思いを乗せて、あっという間にライトスタンドへ!その瞬間の京セラドームの感情の爆発と終わらない余韻は、7年前のなんと同日、CSの同じ8回裏にT-岡田が放った逆転3ランのときとまったく同じ衝撃と熱量だったのである。両方の目撃者が言うのだから間違いない。

胸を打つのは。喜びを爆発させて塁上を回る宗佑磨が、遠目に見ても感情を抑えきれず泣いていたこと。彼を含めたそんな今の若者たちなりの「熱さ」が、今年のオリックスをここまで押し上げたんだなあ、と。そういえば塁上にいたのはバント失敗を取り返すヒットを放った二十歳の太田椋だったし。

後から聞けば、打たれたロッテの小島投手(宗と同じ25歳)もベンチで悔し涙だったとか。うーん、まさに優勝争いである。びっくりするほどの好投だった小島は、もちろん誰も責められない。今やロッテのエースであることは間違いない彼は、今後も手強い敵である。

好投といえば。(ミニマリストに目覚めたと言う)これまた25歳の田嶋である。今年は私の予言通り投手陣の柱に成長した田嶋大樹の実力はやはり本物であった。この大一番で8回投げ切って度重なるピンチを2失点でしのいだハートの強さは、大したもの。個性的だ。シーズン最終盤の登板も信頼できる。

試合は結局、2-2の引き分け。勝ちに等しい引き分けでさらに優勝に近づいたオリックス。いよいよ最終盤でドキドキが止まらないぞ。

ところで、欠場したショート紅林の代役は、やはり安達であった。久しぶりに見る安達のショート守備はやはり華麗で、紅林とは異なる魅力があって楽しかった。

この日は取材前の打撃練習を(スタンドから)取材させていただいた。この2021年の顔ぶれが忘れがたいものになりますように!(もうなってるけどね)

専属カメラマン・Yasutomoによる10月12日試合前練習風景、写真集はこちら。

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」

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