南 郁夫の野球観察日記(136)野球観察クラシックス「打っても走らんでええ」

2023年1月22日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

は~い、どっぷりオフですね。で。誰も話題にしないけど、このままいけば今年の球場はノーマスク?甘い?甘いですか?私。

さて。新年コラムで今年のキーパーソンは「Tー岡田」と大胆に断言したので、懐かしいコラムを復活させたい。こういう「思い出弾」を定期的に打つから、みんないつまでも彼のことが大好きなのよ。ちなみに、文中のAー岡田とはもちろん岡田彰布監督のこと。決して「*ホの」のAではありません。こちらの岡田は今年のセ・リーグのキーパーソン。

*****

「打っても走らんでええ」

2010年9月16日 @グリーンスタジアム神戸(スカイマークスタジアム)

がきんっ!

この球場での今年の最終戦ということで満員に膨れ上がったグリーンスタジアムに響き渡る、異次元の、金属音。「Tー岡田」の定規で弾いたようなライナーが瞬く間にバックスクリーン左スタンドに突き刺さった、その瞬間!

あまりのことに。その、あまりのことに、スタジアムの大絶叫の「針」が、振り切れて、無音になったような錯覚に陥る。なにがなんやら、ここまで劇的なことが起こると、逆に真空状態になるのだ。こんな現象をこの球場で体感したのは、1996年、あのイチローのリーグ優勝サヨナラヒットがレフト線に転がったとき以来。

大ブレイクした、Tー岡田の今シーズン。しかし最後の踏ん張りどころで肉離れを起こし、ベンチに入ってはいるが5試合連続欠場中。もうこの試合どころか今シーズンは出てこないだろうと思っていたTー岡田が代打コールされただけでも大騒ぎだったのに、1週間ぶりの「一振り」が、試合を決める代打満塁ホームランである。

ダイヤモンドをゆっくり、ゆっくり一周するTー岡田。スタンド全員が立ち上がってなんか叫んでるのだが、言語になってない。声にならない声とは、こういうことだ。彼の大ファンである私もこぶしを突き上げて「あうあう」言ってるが、気が動転している上に、と、鳥肌が・・アイ・スタンド・チキンスキン!

ついにTー岡田が、足をひきずりだした。三塁回るころには、ほとんど歩いてる。これはもう、ワールドシリーズでのドジャース、カーク・ギブソン(わからない方は調べてね)級の「伝説」ではないか!ほとんど夢遊病者のようによろよろホームインしたTー岡田を、ベンチの全員が、そしてスタンドのオリッファン全員が心の中で抱きしめた、その刹那。

「感動」と言う言葉を使わないのがモットーの野球観察ライターであるこの私の涙腺が、やばいことに。やばい!

監督のAー岡田は、代打に送り出すTー岡田に「打っても走らんでええ」と明言したそう。ホームラン・オア・ナッシンという大ギャンブルだったのだ。あとで見たニュース映像では、驚いたことに打球の行方を確かめたAー岡田の目にも涙が・・・。後世語り継がれるであろう伝説のシーンをグリーンスタジアムで見れたことに、改めてうるる(とさらら)である。

いや、決してね。いつもいつもこんなドラマを期待してるわけじゃあないんすよ。イッツオンリー野球だから。でも・・・たまあにこういうの見せてくれるからなぁ、野球場の神様は。それにしても水島漫画みたいやけど。

この日なんて、ほんとはライオンズのキャッチャー細川のキン*マにファウルが直撃して昏倒しているところにかぶせた場内アナウンス「え~、ごらんの様な状況ですので~、しばらくお待ちください」に、場内失笑。それだけで、私は十分満足していたのだ。

まさか今年のグリーンスタジアムの最後の最後に、こんなドラマが待っていたとわ。

それにしても今シーズン、これほどおもろいシーズンを見せてくれているAー岡田にはやはり、感謝かな。肉離れして足をひきずる選手を「無理してこい!」と打席に送り出せる指揮官なんて、他におらんもん。

それに応えたTー岡田がただ者ではない、という話だが。

<2023年時点の追伸>

相変わらずしつこくグリーンスタジアムと言ってるが、2010年時点はスカイマークスタジアムね。Aー岡田こと岡田彰布体制の1年目であり、なんだかんだで結局チームは最終的に5位。あらら。

入団5年目のTー岡田はこの年大ブレイクを果たし、ホームラン33本でホームラン王。まさにその33本目のホームランが、この日の代打満塁ホームランだったのである。代打満塁ホームランはチームとしては2001年藤井康雄以来9年ぶりで、その模様は私の著書「野球観察日記」に詳述されているので読んでね・・・というか、私は両方目撃しているやないか!球場に住んどるのか!

2010.9.16のこの試合は、1点ビハインドの8回裏にカラバイヨの同点タイムリーの後(これがなければ代打「逆転」満塁ホームランだった)に、この伝説のホームランが生まれた。打たれたのは忘れもしない、グラマン。最終スコアはオリッ7-3西武。7、8回を投げた平野佳が勝投手となっている。オリッの継投は中山-比嘉-平野-岸田で、その投手のうち2人が13年後の今も同じチームで現役とは驚きである(Tもそうだが)。

参考までにこの試合のオリッ・スタメンは、

8 坂口 7 森山 4 後藤 3 カブレラ DH 北川 5 バルディリス 9 カラバイヨ 2 前田大 6 山崎浩

懐かしっ。

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

 

Twitter でK!SPOをフォローしよう!