南 郁夫の野球観察日記(118) 所沢遠征その2 ライオン親子試合を観察

2022年6月22日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

「山本由伸ノーノー目撃」という大戦果を誇る、今回の野球観察日記・東征(6月17日-18日)。すでにレポートしたノーノーは18日のことだったので、今回は17日の模様をつらつらと語りたい。球場好きのとりとめないおしゃべりだと思って、付き合ってほしい。さあ、みんなで一緒に「遠足」しましょ!

いろいろ電車を乗り換えてえ~(秘書兼専属カメラマンについていくだけだが)やっと着いたあよ、西武球場前。生涯3度目かな?東京からさらに1時間かかるので…ああしんど。

とはいえ、新幹線やらの電車内でも「車窓マニア」の私は退屈することはない。「コメリしかない田んぼだらけの集落に住んだらどんな日々だろう?」とか妄想してたら、飽きることがない。西武電車が球場前に近づくにつれて周囲の風景に濃厚に漂ってくる、「郊外」というよりは「場末感」。こんな風情を味わうのも大好物なのである。

西武球場前駅に着いたのが、6月17日(金)の13時前。駅前はほぼ無人で、今日の球場バイトが説明を受けているばかり。なんでこんなに早く着いたかというと、アホだから。…ではなく、隣接する西武第二球場で行われるファーム試合を観察して「知らない球場に行ってみたい」コレクションに新たな球場を加えようと思ったからなのさ!親子試合開催日だったなんて、ラッキー。

というわけで、駅から降りたらとりあえずこれ、やるっしょ。(恥ず!)

ドーム右方向にある「ライオンズトレーニングセンター」方向に歩くと、仮設ゲートらしきものが。ファーム試合は前売券がなければ入れませんと言われるが、秘書がちゃんと買っていたのさ(1枚1500円)。当日券なし?二軍戦が?と驚きながら「CAR3219FIELD」と表示されたゲートの階段を上がると…見えてくるぞよ西武第二球場改め「カーミニーク球場」が。

階段上がってライト側ポールあたりから入場していくというアプローチで、ネット裏のみにある座席に向かう。それにしても、カーミニークてなあに? と思ってたら「車売るならCAR3219」とフェンス広告があったので、ああ…。カー見に行く、ね。あは、あははのは。2020年に地元の中古車買取・販売店が施設命名権を獲得して、この名前になったとか。

2019年から周辺球団設備とともに改修工事が行われたらしく、スコアボードは立派なLEDのアストロビジョン、バックネット裏に240席分の観客席が新設されたとのこと。それまではまともな座席はなく、ほぼ立ち見スタイルだったそうな。確かに場内は綺麗で、熱心なファンで満席。240席なら売り切れちゃうのか。「えーっと240×1500=…」とかやるのは、関西人のサガ。

この日は横浜戦。あれ?ブルペンでこの日先発のピープルズ(peopleに複数形あんの?)と打ち合わせしているのは…あっ!元オリッ・伊藤光ではないか!こんなところで会えるとは!と一気にテンションUP。色白は相変わらずで、ファームでも日焼けしない一軍体質?秘書によると故障からの復帰調整中だそう(試合ではしっかりリードしてなんと5安打と打ちまくり。一軍に上がる日も近い?)。

さて、この球場。サイズはお隣の本球場に合わせてあるらしく、立派の一言。外野は天然芝と思われ、よく整備されていて美しい。森林の香りもして、良いね。ささやな観客席は新しいせいか座り心地も悪くはない。生まれて初めてファーム試合で「指定席」に座ったけど。視界を遮るものもないので、どの席からも試合が見やすいと言える。

客層はちゃんとしたオトナばかりで、わりとマダム?てかんじの女性がお一人、グループ問わず目立つ。ので場内はきわめて上品で平和で静か。カメラの連写音ばかりが目立つ。これは結構、ファーム観戦としては快適な環境かもしれない。予約席で静かに成長株を観察。通の野球ファンっぽいではないか。

さて。西武の先発が内海哲也なのには驚いた。実在するのか。な、何歳やねん!(40歳で兼任コーチらしい)。この内海がふんわりした決め球の出し入れがうまくいかず、2回6失点。コーチが悪い見本を見せているてこと?横浜の細川成也(24歳 6年目)が「ムン!」と放った力強い3ランは印象的。西武では西川愛也(23歳 5年目)が人気あるらしく、ホームランを放ったときには女性ファンの嬌声が。入団時はポスト秋山的な選手だったのかな?というプレイスタイルだ(秋山、戻ってくる?)。

で。わりとスマートに野球やってる両チームの雰囲気の中、一人だけ常に元気よく声を出して泥だらけで作業員のように動き回ってたのが、一軍でよく見かける西武のサード・山田遥楓。その風貌からもっとベテランかと思ってたが、26歳の8年目だとか。なぜか「国鉄職員」という言葉が頭に浮かぶこの選手の長い1日は、実は始まったばかりだったのである。真相は後半にて。ヒントは「早番」。

さて、最初曇天だった空が晴れわたってきた。この日は気温が30度に迫り、逃げ場のない直射日光でちょっと頭が朦朧としてきたぞ。あれ?視線の先のレフト後方が黄泉の国に見えてきた?と思ったら、マジで近所のお寺のお墓やないか!しかも、ギャハハ!そこから「ただ見」してるやつがおるやないか!え?足ある?ない??

あかん。そろそろ一軍の試合が開門ということもあり、途中退散した方がよさそうである。

ベルーナドームは、すでに老若男女で賑わっていた。どこの球団の球場に行っても客層は本当に広くて、偏りというものがない。プロ野球以外でそういうスポーツは思いつかないので、やはりそこが野球の「なんだか懐かしい」ところだと思う。前から感じていたが、この場所には「失われた昭和の遊園地感」があって、そこが和むのだ。

ドームは、確かに改装されていた。バラエティ豊かなシートも新設されているし、おしゃれなショップも増えている。でも「昭和の遊園地」感は、座席やショップなど表面的なものがいくら新しくなろうと、ひび割れたコンクリートやちょっとした構造物の風情など、そこかしこにちゃんと残っていて(意図的ではないだろうが)、そこが嬉しい。関西では消滅した「電鉄会社の郊外レジャー開発」臭がそこかしこから漂ってきて、1960年生まれの私の心を揺さぶる。ああ、失われた宝塚ファミリーランド、阪神パーク…。

それにしても…なんでここまで昭和の遊園地感を感じるんだろか?と考えてたら、重要なことに気がついた。今、私の耳に聞こえている場内BGMは、明らかにオルガン実演なのである。MLBなどでは今でもおなじみの、あのドリーミーな響き。昔は多くの遊園地や球場で流れていた、あの響き。たぶんその時代から残っているスコアがそれだけなのであろう、独特のアレンジで奏でられる曲はことごとく私の大好物の「70年代イージーリスニング」!

慌ててスマホで調べたら、ここはプロ野球界で唯一それが残っている球場らしい。昔は国内にオルガンメーカーがあったから、多くの球場で宣伝を兼ねて実演があった。機種としては横浜球場のビクトロン(日本ビクター製)が有名で、当初の西武球場もそれを使用していたとか。余談だが、私は日本ビクターがオルガン事業から撤退したときに吸収した松下電器のテクニトーンの操作マニュアルを執筆していたことがあるのだ。オルガンと私の強いつながり…。

係員に聞いたらオルガン実演の場所を教えてくれたので、そこに急行。使用していたのはハモンド製の古そうな機種だったが、よくぞメンテナンスを続けて保存してくれていると思うし、よくぞいまだに奏者を育成してくれているなあと思う。弾いていたのはめっちゃおとなしそうな若い女性で恥ずかしそうに下を向いて弾いているのだが、腕は確か。オルガン、いいなあ。足鍵盤さえ操作できたらほしいんだが。

オルガン実演は、試合前・イニング間などの空き時間、試合中はプレイに応じた短い効果音などで伝統的スタイルを守って使われており、ちゃんと往年の曲(ピンチのときのヴァン・マッコイ「ハッスル♪」とか)を使うので、クセになる。思わずオルガンの話が長くなってしまって、多くの読者を失った確信もある。新しいベルーナドームの座席のこともレポートしようっと。

新設された座席は、どれも予想以上に素晴らしい。まだお客さんが少ないうちに全種座ってみたが、どれもワクワク。外野席にまで背もたれとクッションがあるというのが素晴らしいし、ホームランバーテラスが外野最上段にあるというのも洒落ている。グループ席も楽しそう。高い席になるにつれてシートの質が上がり、ネット裏の殿様席(7500円くらい)は前後左右に広いしクッションも半端ないし「住みたい」と思った。全く対照的な立ち見のカウンター席(3000円くらい)も、それはそれで「あり」なかっこいい観戦スタイルである。

私らは秘書が用意した内野指定席SSちうところで(5000円くらい)ごく標準的な指定席シートだったが、ちゃんとクッション付きで長時間座っても全然疲れなかった。どことは言わないが、神戸や大阪のかったい固いプラスチックシートの球場も真似してほしい。

さて。このシート検分だけで、私の膝はガクガク笑い出した。この球場は傾斜地を掘り起こして整地した関係で、駅の改札を降りたところから「登る一方」の構造なのである。駅から外野側に登り、内野側に行くには延々と登っていく必要がある。スタンド外周の通路は外野から内野方向に向かってかなりの傾斜で、球場をくまなく探検しようとする行為は、ほぼ「登山」に近い。しかもスタンドの傾斜も急で階段の段差も高いとくるもんだから、移動するたびに大汗をかいて膝がゲタゲタ笑うのだ。売り子さんも文句を言いながら出勤していた。

そうだ。ここはドームとは言ってるが「屋根付き球場」であることも忘れてはならない。場内はしっかり外気温と同じ気温で、しかも空気がたまるせいか湿度は高い。でも、それもいい。空調空間にいるよりはナチュラルだ。ちゃんと虫も飛んでるし、あれ?鳥も飛んでいる?と思ったら、屋根の上の方にツバメ?の巣を発見。武蔵野台地と共存。野球は自然と一体である。試合進行につれてちゃんと夕ぐれ空が見えるところなんかも、いいな。

試合も始まるし、場内をかけずり回ったので腹が減った。ということで、お楽しみの球場飯を食べることに。ベルーナドームのフードはこれでもか!ちうくらい豊富な上に、屋台風に並んでいる風情がいい。ちょうどショップは「屋根の外」の部分なので、買いに行くと外に出たみたいで気分も変わっていい。みっともないくらいに迷いに迷ってカツカレーにしたが、満足だとも。

バックネット裏両サイドには「エルズキッチン」というお洒落な飲食ショップ群があり、選手プロデュース・スイーツもある。私は試合中に「源田のチーズ&クッキー」なるものを購入して、源田カードをもらった。予想以上に美味しかった。カードはこれを書いてる時点で手元にあるが、眺めるたびに「たまらん」と思い出せるし嬉しい。

おいおい。座席とオルガンとフードの話でどんだけ?でも、ベルーナドームがどんだけ楽しそうかがわかっていただけたらいいなあと思って語っているのだ。

あ?試合?そうねえ。この日は高橋光成と山岡泰輔という、交流戦休み明けの試合にふさわしいカッコいい好投手対決で。山岡が先に中盤につかまって、まあ結局 B2-4Lでオリックスが破れるのだが(えらいあっさりやな!)、外崎(りんご園)・源田コンビの「たまらん」プレイや6回裏に飛び出した山川穂高のあまりにも豪快なホームランに、敵ながら本当に胸がスッキリしてしまった。ベルーナドームに「どすこい!」が響き渡り、善良な地元の西武ファンが湧き上がっていろんなフラッグを振り回す光景は素直に「美しいなあ」と思うのだ。客層は本当にいい。ビジターファンも気持ちよく観戦できます。

山川の楽天的なプレイスタイルは、この遊園地みたいな球場の雰囲気に実によく合う。西武ライオンズというチーム全体も、なんとなくこの球場では(京セラとかで見るより)たくましく、生き生きと見えるのだ。守備固めで出てきたサードの選手も気持ちよく元気に大きな声を出してるしねえ…て、ん?あいつ!昼間に見たぞ。はい、もうお分かりでしょう「遅番」の山田遥楓である。

隣のファーム球場から移動距離なしの「通し」労働。ここではそんな起用法も可能。にしても拘束時間、何時間やねん。昼(13時)も夜(21時)もシフトに入ってるって、フランチャイズのコンビニ店長さんか!

一方オリックスの「見どころ」は、ラオウ杉本の「らしい」バックスクリーン横へのホームランぐらいだったかな。滞空時間がやたら長く最初はたっかーい凡フライに見えるのに「くいっくいっ」と伸びていくホームラン弾道は、「どすこい」とはまた異なるプロフェッショナルな光景で誇らしかった。マウンドで高橋も唖然としていた。

というわけで、遠征初日はこんなかんじ。そして次の日に「山本由伸のノーノー」を目撃して野球観察日記・東征は予想外の大戦果をあげたわけである。パチパチ。とにかくベルーナドームは楽しいところ♪ すぐにでもまた来たい。今度は殿様席かな?

ベルーナドームの素晴らしいところを列挙すると

・屋外球場の風情があるのに屋根がある=雨天中止がないので計画が立てやすい(遠征向き)

・ブルペンが見える

・古くて新しい、理想の遊園地感覚

・フードが豊富で美味しい

・座席のクッションが素晴らしい

・オルガン実演が聞ける

・日程が合えば、ファームとの親子試合観戦も可能

あらま。やっぱ、また来るしかないか! 日本ハム戦でもいいし…(悪魔の囁き)。てことで。長話、失礼しました。皆さんもぜひ、楽しいベルーナドームに行ってみてくださいねえ。

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

 

Twitter でK!SPOをフォローしよう!