南 郁夫の野球観察日記(56-1) 甲子園球場で「交流」 関西対決を見てきた!
2018年6月11日(文/南 郁夫、写真/Yasutomo)
セ・リーグ大好き、オリックス。交流戦序盤、接戦をモノにして順調に貯金を積み重ねる戦いぶりに、ついつい89年日本シリーズの加藤哲郎のよなセリフ(「シーズンの方がよっぽどしんどかったですからね。相手も強いし…」)が口をつきそうに… はなりません。チームの調子なんて「ちょっとしたこと」でどうなるかわからんから。でも、ようやくいい感じにはなってきた、オリックス。
で。家から30分で行ける交流戦!阪急阪神乗り継ぎホールディングスで6月5日(火)と7日(木)の関西対決に参戦。一番近い球場なのに、2年ぶりの甲子園である。何年か前に改装されて「ららぽーとの延長」のようになってしまった「つるん」とした外装やコンクリート臭がしない内部施設に軽い違和感を覚えるも、スタンドに座ればグラウンドの古色蒼然たる威容は相変わらず。
巨大なスタンドで浜風を頬に感じながら六甲山系を望み、無数の選手の汗を吸い込んだ黒土と芝生の匂いを嗅ぐと、日本野球の歴史とドラマが頭を駆け巡る。脳内には昭和の高校野球や江夏、田淵や池田の転倒がぐるぐると…。「歴史館いらず」の妄想体質。5日はビジター応援席、7日はネット裏から観戦したのだが、それぞれに甲子園ならではの風情を存分に感じる、ひとときであった。
まあしかし、やはり阪神タイガースおよび甲子園球場は、オリックス・ファンから見れば「まぶしいまぶしい」メジャーな存在である。「軽く4万人!」ちうお客さんの数と(選手以上の)熱気、おどろおどろしい文字がのたくった戦闘服を着たファンの(選手以上の)キャラの濃さ、アナウンスされるスポンサー企業のメジャーな顔ぶれに驚き(オリックスの場合は、岡○農園、情○ホルモ…)、何と言っても、得点シーンで沸き起こる地響きのよな「うおおおおおお」ちう歓声(主におっさんの)にたじろいでしまう。
さて、まずは5日の試合。初対面なのに「ええ。ええ。わかってますよ。好きなものはしょうがないですものねえ」と無言で頷きあうよな、レフトスタンド・ビジター応援席。畳一畳分に凝縮された独特の少数民族結束感もそれなりに面白いが、「一体感」が苦手な非体育会系体質の私には、ちとしんどい。「攻撃時は全員起立!」の掟を破って、座ってあくびしている様子がテレビカメラに捕らえられてしまった。(カップヌードル看板右上)
みなさんの応援の甲斐あって、小雨の5日の試合はアルバースの好投、吉田正&マレーロのホームランでオリックスが逆転勝ち。試合終了時、数万人のタイガースファンが沈黙してしまったのだが、以前の「敗戦=相手チームのファンぶっ殺すっ」な短絡的な殺伐としたかんじはなく、最後まで思い思いのスタイルで応援した虎ファンたちが笑顔で帰路につく雰囲気は、時代を感じた。いいことである。虎ファンって、家族や友達や仕事仲間やのグループ観戦が異様に多いね。
7日の試合は、ネット裏。渋~い投手戦(秋山・金子の投げ合い)。相手チームのユニを着たファンは、この場所では絶滅危惧種である。特にこの日は配布された黄帽子を虎ファン全員が幼稚園児のようにかぶっているちう恐ろしい日だったので、かぶってない私(と専属カメラマン)は、よほど珍しかったであろう。それでも「チラッ」と見るくらいが、一般的メンタリティやん。んが、隣の虎ファンのおっさんが「まったく躊躇なく」普通に話しかけてくる雰囲気は、やはり他の球場にはなかなかないものである。
「オリックスの応援でっか」(見たらわかるやろ)
「阪急やったら知ってまっせ、キャッチャー岡村とか」(あんた何歳や)
「阪急こども会、入ってましたで」(節操ないんか)
「神戸球場は好きでっせ、見やすいしね」(どこやねん神戸球場)
「T-岡田てもっとゴジラみたいに顔大きかったんちゃいます?」
(誰かと間違えてへん? 本物のゴジラはバランス的には顔ちっこいし)
ゆるくてフレンドリーな、甲子園ネット裏の雰囲気。試合中、お互いによくわからない相手チームの若手選手の説明をし合ったり(「秋山は梅野よりよう打ちます」)、それぞれの得点シーンで「ごちそうさまでした」と言い合ったり、いきなりまた別のおっさんがマウンド上の(ストレートしか投げない)近藤を指差し、「にいちゃん、あの近藤って何年め? ええ球ほるなあ」と聞いてきたり… 楽しいひとときを過ごすことができた。ファンも交流戦である。「交流せん!」と意地を張らずにビジター応援席から出るのもいい。
それにしても… タイガースは鳴尾臭濃厚な背番号のでかい若手中心、オリックスもルーキーをはじめとする若手中心ながら、きっぱり新旧を切り替えることもできず… というオーダーで、どちらのチームも同じような模索を続けているチーム状況かな、と思う。7日の試合ではベテラン鳥谷が攻守に意地を見せて虎ファンの熱い熱い声援を受け、それはそれでいい光景だった。
オリックス的には、前試合に引き続いて吉田正の打棒爆発とルーキー西村のブレイク予感(今年のルーキーどんだけ豊作?西村は次のヤクルト戦で初ホームラン)、金子の本来の好投などが収穫であったが、1-2の劣勢で迎えた9回裏。マウンドに上がったドリスを初めて生で見て驚いた私の「(ドカベンの)雲龍やん!」という発言はスルーされ、おっさんは「こいつは3球でわかりまっせ」と。ズバズバ最初からストライクを投げ込んだこの日は「ええドリス」だったらしく、あっさり三者凡退。関西対決は結局、1勝1敗(1試合雨天中止、振替試合はいつ?)
あ。そういえば糸井は元気だった。どのチームにいても、彼の存在感は特別である。登場曲もオリックス時代と同じで、虎ファンにも「糸井ならやれるや♪」と絶叫してもらってて我が事のように嬉しかったが、なんだか切ない気持ちでもあった。オリックス時代の糸井フラッグも流用されていて、そんなことならメルカリで…。しっかし、坂口(ヤクルト)といい糸井といい、せっかくいい外野手が…(以下長文自粛)。
とにかく。この調子でいけば両チームともクライマックスに行けそう? ひょっとしたら関西対決、秋にあるかも?である。どきどき。やっぱり、普段と違う球場での観戦は楽しいし、屋根のない球場は、気持ちいい。初夏の空気が肌心地よい、甲子園旅情であった。阪神電車・甲子園駅は改装されて帰りの混雑もずいぶん解消しているらしい(とはいえこんなかんじ)。
<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。
南 郁夫 (野球観察者・ライター) 通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」
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