南 郁夫の野球観察日記(175-1)オリックス2024年神戸開幕、渾身レポート

2024年5月4日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

4月30日は今年も待ちかねた、神戸開幕デー。おんもで公式戦を見るまではプロ野球が開幕したという気分になれない、そんな私にとってこの日はまさに神聖日。ナイトゲームなのに粛々とお昼過ぎに聖地グリーンスタジアム神戸(ほっともっとフィールド神戸、ですね)に到着である。もちろん、神事・オリックス練習風景を取材させていただくために。

■4月30日試合前

ふわあああ、求めていたのはこの風景。薫風そよぐ緑の芝生で遊んでいるようにしか見えない、プロ野球の選手たち。私がしつこくしつこく描き続けているこの光景こそが、のんびりしたこの競技の原風景なのである。

前日北海道で奮闘していた選手たちが(1点も取れなかったが)、翌日昼過ぎには神戸でボールを追いかけている。そら眠くもなる。野球選手の日常はタフである。それだけに練習中のグラウンドに流れる空気は肩の力が抜けていて、なごやか。ボールを扱う何気ない動作が高度なお遊戯のように見えて、いつまでもいつまでも見ていられる。

専属カメラマンは駆けずり回って撮影だが、私は無人のスタンドの好きな場所でひたすら練習を眺めるのみ。この球場独特の高原のような空気、すでに揚げ始められているチキンスティックの香りを胸いっぱい吸い込み、準備を始めた売店の女性たちの雑談やなぜかうろちょろしてるBsGravityのわちゃわちゃ声を背中で聞きながら、ただグラウンドに心を解放する。贅沢なひとときに感謝。

前日、死球退場した頓宮が元気なのに安心し、投手たちのキャッチボールの球筋に感心し、おびただしいグラブが鳴らす「ぱすん」「ぱすん」という音に身を委ねていると、自然と笑みが湧いてくる。どの選手ももちろん遊んでいるわけはなく、随所に真剣な瞬間が垣間見える。ベタな表現だが、みんな「生活がかかった」プロだから。そんななか、本当にのんびり遊んでいるようにしか見えない選手が一人いた。

守備の名手・ゴンザレスである。

他の選手が「基本に忠実に」と自分に言い聞かせているように守備練習を行う中、ゴンザレスは片手捕球で曲芸のようなグラブトスやバックハンドトスを披露するばかり。マーゴすげえ。楽しい楽しい。お遊戯でふざけている園児にしか見えない。彼にとって野球は「遊びの延長」に違いない。日本人ならコーチに叱られる練習態度だが、それは文化の違い。でも試合で彼が守備でヘマをしたの見たことないもんねえ。

練習中の各選手の様子は、写真集にて。試合前にすっかり充足してしまった。

 

■4月30日 神戸開幕1戦目

練習中は晴れ間も見えていたのに、試合開始前から小雨がパラパラ。それでもスタンドは満員という熱気の中、神戸開幕を祝うかのように選ばれしスターティング・ピッチャーは、宮城大弥と佐々木朗希!考え得る最高の組み合わせとなった試合は、期待通り濃密な投手戦となった。

宮城がズバズバ、佐々木がビシバシ。二人の投球がミットに吸い込まれる音が心地よく夜空に吸い込まれていく。美しい投げ合いは延々7回まで続き、宮城が1点だけ取られて結果負け投手になったとはいえ、まったく互角の好投手の投げ合いは延々見ていられる、最良の野球光景。

宮城が獰猛な獅子なら、佐々木は冷徹な黒豹。生き物のように操るボールの軌道が神戸の夜を支配する。2人の天才投手の秘めたる荒々しさがときおり「うっ」という投球時の唸り声に現れ、たびたび私は「ぞくっ」とする戦慄を覚えるのだ。

弱冠22歳の両投手が今後どんな野球人生を送るにせよ、この神戸の夜の投げ合いの記憶はしっかり脳裏に刻まれるだろう。勝った負けたではない。我々は神戸開幕戦で、素晴らしく高品質の「野球の瞬間」を見せてもらったのである。

 

■5月1日 神戸開幕2戦目

この夜は前日以上に冷たい雨が降ったり止んだり。野外球場ならではの過酷な観戦環境の中、それ以上に過酷なドラマの結末を神戸のファンは目撃することになってしまう。

2点リードの最終回のマウンドに平野佳寿が登った瞬間、スタンドから聞こえた「劇場」「劇場」という声。エラーで先頭打者を出してしまったときに聞こえた「演出」「演出」という笑い声。しかしそこから約30分間も続いた、オリックスファンにとっては残酷なドラマの顛末。ファンの集合意識はあらぬ方向に逆流することがあるという事実を、私たちは見せつけられたのかもしれない。信じる力が足りなかったのだ。

いや違うか。こちらの方々の信じる力が勝ったというべきか。

野球はそもそも予測不能なドラマなのだ、という原則。天候の影響を受けやすい野外球場は、さらに伏線を複雑にしてみせる。どう転ぼうと受け容れるしかないし、そこがまた抗い難い魅力なのだ。この試合は「あだっちゃんが1イニング3エラーして逆転負けしたあり得ない試合」として、いつまでも語り継げるではないか。冷たい雨と底冷えの記憶と共に。それだけのこと。でも、私は前日の記憶でセカンドの守備固めならゴンザレスがいたやん、と思うのだが。

この過酷な夜の希望は、文字通り「希望軒」の温かいラーメンであった。神戸での人気出店ゆえ長時間並ぶ必要があるが、冷え切った身体は花火よりこれで救われた。

しかし私は並んでる間に、ハイジ坊主のホームランを見逃したのである。そう。それも野球観戦。現場にいるのに肝心の瞬間を見逃しがち。頓宮のは見れたから、よしとする。

先発の田嶋はたびたびのピンチをよく粘った。もう少し長いイニングを投げたいところではあるが。

結果的にオリックス連敗となった今年の神戸開幕カード。しかしたくさんの忘れ難い光景を我々は今年もこの美しい球場で見ることができた。十分である。両日とも悪天候の中たくさんのファンが最後まで熱心に応援していて、それはまるでブルーウェーブ全盛時代(ほんの3年ほどの)みたいな盛り上がりだったのである。

唯一の心残りは、シーズンオフの例の「クラファン」効果を球場のどこからも感じることができなかったこと。わずかに、なんだか乱暴に補修されたカップホルダーがいくつかあったのは確認できたが…。まさかそれだけ?んなわけないか。改修はこれからなんですよね。寸志程度しか寄付してない私がどうのこうの言うことでは、ないけれど。

編集部調べによりますと…
クラウドファンディング型の神戸市のふるさと納税、6000万円目標のところ1億7400万円(!!)の寄付が集まり、神戸市建設局は「選手や観客の皆さまに還元できるよう、ブルペンやダグアウト、観客席のイスなど”目に見える形の改修”を行いたい、具体的な改修内容はただいま検討中」とのこと。工事はオフシーズンになりそうで、来年のお楽しみである。

では、次ページは豪華なおまけ。専属カメラマンによるオリックス練習風景写真集をどうぞー。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
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