南 郁夫の野球観察日記(146-1)今年も来ました!オリックス神戸開幕2023

2023年5月25日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

 

毎年言ってるので「またか」「アホか」と思われるだろうが、私にとって神戸開幕日がプロ野球の開幕日である。書籍版「野球観察日記」で暑苦しく語り尽くしているように、グリーンスタジアム神戸(「ほっともっと神戸」ともいうらしいですねえ)で野球を見ないことには、私の野球心は満たされない。待ちかねたぞっ!今年の神戸開幕シリーズ 5月23日、24日の楽天イーグルス戦に、もちろん参戦。

さあ、体育館でやってた「野球のデモ演」じゃなく、ようやく本物の野球環境を楽しめるぞ!と詰め掛けたファンたちは、晴天の野球場になだれ込んで美しいフィールドを見て「気持ちいいーっ」と叫ぶのだ。んがしかし!夜になっていくにつれ自分たちが「毎年やらかしているミス」にも気づくことになる。

5月のナイターは「予想の数倍、寒い」。
特に風の強い日は。

この球場が本拠地の頃はそんなの常識だったけど。忘れちゃうのよ、年に数試合だと。真夏以外は昼間の肌感覚の服装のままこの球場のナイターに来ては、いけません。次第にあちこちで「寒い」「寒い」の声が上がる中、半袖半ズボンの勇者たちは途中離脱し、応援タオルは単なる「肩掛け」と化し、売店の苦いだけのコーヒーは序盤で売り切れる。今夜は「お湯」でもビールの値段で売れるだろう。

それでもまあ、あの命の危険すら感じた「日本シリーズ最終戦」に比べれば、耐えられないほどではない。見上げれば上品な三日月のそばに金星が寄り添って、なんとも風流。日本中の野外球場にいてる人たちが(この日は神宮とマツダ)同じ夜空を見てるのだと思うと、ほっこりする。肘を抱えて身にしみる夜風を感じながら、目の前のプレイを楽しむ。野球を見るって、そういうことなのだ。楽しかった2試合を駆け足でご紹介。

 

5月23日 ついに見れた、山下舜平大

マウンドの立ち姿、投げっぷり、まことに立派。おおらかで優雅な投球フォーム。こらもう、一目でスケールが違いますやん。ストレートは(あえて?)高めにいきがちなのだが、鉛のように重いのか、当たっても前に飛ばない。要所のスライダー、フォークもシンプルに効果的で、楽天打者は打てる気配すらなし。7回2安打無失点、4勝目を挙げて防御率はついに0.98である。

めちゃ怖い顔をしてボカスカ打たれる相手の田中マー君(ごめんね)に比べて、なんか照れたような「もさっ」とした顔で投げる舜平大くん。前から「誰かに質感似てるなあ」と思ってたのだが、今夜判明。醸し出す不器用そうな雰囲気が、野茂英雄に似てるのだ(コントロールは相当、舜平大くんの方が上だけど)。大物のムードをすでに持ってるってこと。

オリッ打線の方では、頓宮裕真が打ちまくってヒーローに。まったく体勢を崩されることなく、どんなボールも「ビシッ」と捉えてラヒットゾーン!チャンスでも!こ、こんな頓宮、初めて見た。ついに覚醒。ジャストミートの瞬間の神々しく荒ぶる姿は、北欧かどっかの「伝説の木こり」のようではないか。ラオウが帰って来れば、右の日本人スラッガーが二人も…。夢のような状況である。

「推し」の野口智哉も一番起用に応えて、結果を出した。この選手のすべてのプレイでの「思い切り」が、間違いなくこれからチームを引っ張ると私は信じている。

神戸開幕日にオリッの大勝。まことにめでたい結果となったが、ちょっとあまりに元気のない楽天が気になるところ。まあでも、野球なんてわからんからねえ。明日はどっちの花火が上がるかなあ?

5月23日の試合結果

<この日の野球場の人々観察>
2列前にいた若いカップルは「前髪命」でずっと前髪をいじってる「にいちゃん」と、野球ではなくその彼しか見ていない、女の子。にいちゃんはアホなので、もちろんTシャツ1枚。当然次第に寒がり、女の子は「二人合わせて唯一の上着」の薄手パーカーを脱いで彼に羽織らせるてあげるちう、令和にあるまじき恋愛スタイル。女の子はパーカーの下はヘソが見えるよなTシャツで「お前死ぬど」と思ったが、それでも笑顔で彼を見つめるばかり。「寒い」「腹減った」しか言わない彼に女の子が差し出したのが、どこぞのスーパーで買ったと思しき「冷やしうどん」だったのが笑えたが、女の子は何も食べず。それでも最後までいた二人はなんの迷いもなくゴミを椅子の上にほったらかしで帰ったのだが… その途端に後ろの席の野球部の指導者と思しきおっさんが同行の少年野球チームの子どもに向かって「あんなんになったらあかんで!」と叫ぶ神戸の夜。

私の妄想:あのにいちゃんは元球児だったが、グレて途中で辞めて現在はプー生活。野球は好きなので彼女にチケットを買ってもらって見に来たが、自分にぞっこんな彼女がいるくらいでは凡庸な承認欲求と野球に対する複雑な感情を満たすこともできず、でもアホなので寒空の下で冷やしうどんを食べてゴミを放置というくらいの自己主張しかできない。

 

5月24日 劇的!逆転サヨナラ

この試合は、オリッファンなら何年も語り継ぐ結末になったので、詳細は省く。しかし「アラレちゃんのテーマ」に乗って「だっちゃ!」と紅林弘太郎が打席に入った瞬間、私は「ビビビ」と来たのだ。案の定、この日は楽天応援団観察のため私が座っていたレフトスタンド最上段に「逆転サヨナラホームラン」が着弾。大好きなシーソーゲームの結末が、神戸開幕2連戦の結末が、こんなすごいことになるなんて!

驚いたのは、まだ紅林がホームインする前にすでに楽天応援団の撤収が始まっていたこと!この「切り替え」の異常な速さがファンを続ける秘訣? 勉強になります。まあそれにしても、この日は早川隆久(結構好き)の粘投や自分がサヨナラのきっかけを作るエラーをするまで小一時間ヒーローだった伊藤裕季也(結構好き)のダメ押しと思われたタイムリーなどで楽天ペースだっただけに、ほんと気の毒。

この日は至近距離で楽天応援団の秀逸なチャンステーマを楽しんだりしてたので(録音した)、勝たせてもあげたかった。例の3本ホーンセクションはやはり素晴らしい。ペットのお姉さんは得点シーンでファンキーに喜んでいて、マジのファン。皆さんどういう経緯で関西の楽天ファンになったのか知らないが、100人くらいの応援団はなかなか親密で、楽しそうだった。
私? 私はどのような組織にも入らないが。

そう。この日は久しぶりに外野スタンドに座ったのだが、楽しかったなあ。書籍版「野球観察日記」では語りつくせなかったのだが、この球場では外野席も、とてもとても居心地が良い。特にすいてるレフトスタンドは手足も伸ばせて良い。これほどフェンスが低くて開放的で視界の良い外野席って、なかなかないのではなかろうか? 死角だらけの京セラドームとは比べるべくもない。スタンドの傾斜も絶妙で、どこに座っても試合の「隅々」まで楽しめるのだ。

特に外野手の間を抜く打球がスリリング。疾走する外野手のスパイクの音、緊迫感、打球を処理した後の外野手の鼓動まで感じれて、プロの技術に間近で酔いしれることができる。目の前の外野手と同じ空気を吸ってる感が、いいよねえ。数多くの外野手の後ろ姿をここで見てきたが、やはり守備が上手そうな後ろ姿ってのもある。この日でいえば、辰巳涼介かな。

とにかくそのレフトスタンドに、中川圭太の追撃ホームランと紅林弘太郎の逆転サヨナラホームランが飛び込んだのだ。グイグイとこちらに向かってくる打球ほどスリリングなものはない。私の居場所にドラマあり。この日はレフトスタンド祭りだったのである。で。なぜ最後の紅林の打席で「ビビビ」と来たかというと、この日は、久しぶりに試合前練習を取材させていただき、打撃練習で監督の熱い指導を受けながら紅林がサヨナラホームランと同じ着弾場所あたりにポンポン放り込んでいたからなのさ!

最高の神戸開幕となった2日間、オリックスにはやはり神戸が似合う!
そういうことで、よろしかったでしょうか。どすこーい。

5月24日の試合結果

<この日の野球場の人々観察>
ご存知のように、昨今のビジター応援席では「相手チームの応援服や応援グッズを持ち込んではいけない」ことになっている。セ・リーグは知らんけど、パ・リーグでそんなことで揉めることはなかろうと思うのだが(1球団だけ怪しいが)、神戸でそれを採用しているのはやりすぎだと思う。レフトスタンド、広いもん。そこを埋め尽くすほどビジターファンが入るのって、その怪しい1球団くらいだもん。明らかに応援団がいるところ以外はいいじゃん、と思うのだが、私の前の方に座った男性がその日先発のTAJIMAユニを着ていたのを注意されて、脱がされちゃったのである。普段ならいいけど、寒い5月のナイターで「貴重な1枚」を脱がされた男性は、Tシャツ1枚で寒い夜を耐えるハメに。「裏返しで着る」とかダメなのか?で。もし中のTシャツもTAJIMAだったらそれも脱がされるのか? それを脱いだら背中のタトゥーがTAJIMAだったら肌を剥がされるのか? 座ってるのがTAJIMA本人だったら???
とにかく、皆さんもそこんとこ注意しましょう。私なら阪急ブレーブス・ユニを着て屁理屈をこねる。

さて、オリックス球団広報さん、ありがとうございます。試合前練習を取材させていただきました。
専属カメラマンによる試合前練習の写真集は次ページで。
オリ姫の皆さん、吹田の主婦もたいちゃんも圭太も、もちろんいるよ!(客引き)

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
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