南 郁夫の野球観察日記(131)祝!オリックス日本一 2022日本シリーズ回顧

2022年11月3日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

オリックス・バファローズ オフィシャルサイト/SMBC日本シリーズ2022優勝特設サイト より

昨年の25年ぶりリーグ優勝に続き、オリックス・バファローズが2022年は26年ぶりの日本一を達成。パチパチパチ。昨年と同じヤクルトとの日本シリーズで最初の3戦までの劣勢を見事にひっくり返しての優勝。昨年の極寒神戸最終戦のリベンジを神宮で果たして「敵地」での胴上げエンディングである。怖いくらいの結末に、私は妙な「あっけなさ」を感じてしまった。「もつれにもつれて、神戸に帰ってこい!」ちう邪心があったからである。す、すまない。

勝因はいろんなところで語られているので「すべておっしゃる通り!」(勝ったんだから)として、個人的に一番印象的だったのは、日本一決定の瞬間にマウンドにいたのがまさかの「ワゲスパック」だったことっ。冴え渡るナカジマジックによりシーズン終盤からクローザーに抜擢されたこの男の存在が、シーズン中から私の心を捉えていたのだ。

ワゲスパック(以下、ワゲ)。いつもベンチの片隅に長身を畳み込み、冷徹な目をして何かを押し殺したような表情で黙って戦況を見つめている彼は、その日本人にはあまりにも馴染みのない名前の語感と相まって、常に私に「東側のヒットマン」を連想させていた。古びたビルの上にうずくまり狙撃銃の照準器を覗き込むワゲ・・・。私のアホな妄想癖をくすぐる、気になる存在だったのである(期待に反してアメリカ生まれらしいが)。

オリックス・バファローズ 公式Instagramより

マウンドに上がれば。少々ランナーを出そうが、例の難しい計算をしているような表情を全く変えずに敵を真っ向から「処理」していくタフなスタイル!ともすれば感情の高ぶりを全身から発散してしまう若手投手たちの中で(最年少・宮城を除く)、たしかに平野の調子が読めないこのシリーズで最後を任せられるのは、ワゲしかいなかった。監督もだが、MLB実績もほぼないこの投手を獲ったフロントの眼力も大したものだったわけだ(他の外国人は全員失敗しとるけどな)。

シリーズの流れを変えて典型的オリッ・ペース(最少得点で逃げ切る)に持ち込んだ「第4戦」の抑えもワゲだったし、結局5試合5イニング無得点である。なんか賞、あげて!そして第7戦。ヤクルトに1点差に迫られた上に味方がチャンスを潰していや~なムードの9回裏を任された彼は、なんの迷いもない表情で簡単に2アウトを取る。さすがワゲ、こんな緊迫の状況でも冷徹なヒットマンや!と感心していたが、最後の打者・塩見を空振り三振に取った瞬間、実に意外な姿を見せたのである。

オリックス・バファローズ オフィシャルサイト/SMBC日本シリーズ2022優勝特設サイト より

見たこともない顔で大口をあげて何か叫び、すごい高さまでグラブを投げ上げたのだ!あんな風に笑っているワゲを・・・初めて見た!若月と抱き合ってもみくちゃになった彼は幸福の絶頂の表情を見せたのである。あのワゲが!めっちゃ喜んでる!ま、当たり前の話だが。初めて見る彼のそんな表情に優勝の嬉しさ倍増。ちなみにグラブ投げは「子供の頃からの夢だった」そうで、私の妄想とはほど遠い、普通の熱い野球選手だったというオチ。すでに「忘れ得ぬ外国人選手」の仲間入りを果たしたワゲ、来年もいてくれますように。

 

とにかく全員で勝ち取った日本一だが、長いオリッ・ファンなら、安達了一、比嘉幹貴の両ベテランのシリーズでの大活躍に胸打たれたに違いない。どうでもいいけど二人合わせても年俸1億未満・・・。不遇の時代を知るベテランの「こんな日が来るとは」というつぶやきは、全ファン共有の思いでもある。持てる技術を出し切ってのまさに職人技の働き!この二人がついに日本シリーズの舞台で輝いただけでも、値打ちがあるってものである。拙著「野球観察日記」にも登場していただいたファン思いの安達(2016年)の「ファンの皆さんに優勝を見てもらいたいです」という言葉が最高の舞台で結実した。感無量である。(調子を落としていたTー岡田は残念だった)

さて。日本一の華々しい話題に混じって、さっそく戦力外通告などの厳しいニュースも入ってくる。それがプロ野球という厳しい世界。日本一を逃したヤクルトの高津監督が涙を流しているのを見て、勝負の世界には終わりがないんだなあ、と痛感。去年、日本一になってますやんか、と思うのは気楽なファン心理。当事者はその瞬間に必死であり、だからこそ毎年プロ野球は面白いんだろう。オリッの来年もまた白紙なのである。(まさたか・・・)

とにかく今年も最後まで野球を見せてくれてありがとう。オリックス・バファローズにはこう伝えたい。残念ながら今年の日本シリーズは現地観察がかなわなかったが、2年連続でオリッの選手たちが全国の野球ファンの目を釘付けにしたことが、誇らしい。

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

 

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