南 郁夫の野球観察日記(122-1)お盆にファーム参り

2022年8月16日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

ぼんぼんぼぼんぼん♪と「お盆」である。例の「騒ぎ」は続いてるらしいが、甲子園で行われている高校野球はさすがに今年は観客入れて、いつもの風情が戻っている模様。夏は野球!やもんなっ。んが。さすがにこの歳で炎天下で高校野球を見るよな「甲子園原人」にはなれないし、かと言って満員の密閉ドームで張り切ったバイトに監視されながらの新しい観戦形式も「やなこった」なのである。でも… お盆休みは野球をナマで夜の野外で監視の緩い環境でのんびり観たいなあ。そんなの無理すか?いえ。実はあったんです、そんな野球が。

オリックス二軍は8月12~14日、グリーンスタジアム神戸に中日ドラゴンズを迎えてのファーム公式戦を敢行。しかもナイターで!素晴らしい。素晴らしすぎる。ありがとう、スポンサーのなんちゃら工務店さん!「こ、これしかないやんけ」と、14日の試合に駆けつけたレポートである。とはいえ、こんなのを喜ぶ人はもちろん「若干名」。総合運動公園の駐車場はウソみたいに空いてるし、試合開始直前の球場前ものんびりムード。理想の野球観戦環境ではないか。

ネット裏とA指定席、フィールドシートのみ開放したスタンドは適度な人口密度でのんびりガラガラ。実に過ごしやすい。「お盆の夜にファーム観戦」という贅沢?でわがままな選択を許されし者たちがそんなにいるわけはないのだ。発表された観客数は1810人とか(かなりの数が招待客の少年野球チーム)。いちおう全席指定だが、好きな空いてる場所に移動すりゃあいいという(ほんまはあかん?すみません)、ゆるくて気楽なスタイルで。

いちおう両チームのスタメンはこんなかんじね。

オリックス:9渡部 8佐野 7来田 4太田 DHラベロ 6野口 5大里 3石岡 2中川拓 P中村勝

中日:8ブライト健太 9伊藤 3福元 7A.マルティネス DH福留 5堂上 6ワカマツ 2桂 4星野 P福谷

一軍・二軍バリアフリーのオリッのメンバーは馴染みのある面々ズラリで「お得感」満点だし、中日の方は新鋭の中に天然記念物が混じるという、いかにもファームな構成でなんだか楽しめそうな予感。なにより、オリッのユニフォームが「普通」でよかった。ファームもあの「ババ色」夏の陣ユニかと思っていたので。あれ見てるとなんか… 心が沈むのだ(個人の「極端な」感想です)。

マイクの調子が悪く「グアーグアー」と地獄の咆哮みたいに聞こえた、自分史上「最爆笑」の国歌斉唱に続いて(歌っていた人は悪くないぞ!)、静か~にあっさり試合開始。演出なしに「すっ」と試合に入るファームのかんじが好きなんだなあ、などと思う間もなく、オリッの先発・中村勝の初球「棒球」をいきなり中日の先頭打者・ブライト健太が「ぐわんっ」と強振!レフトスタンド上段に飛び込む爽快なホームランを放ったところから、楽しい楽しい「乱戦」はスタートしたのである。

ブライト健太#42。葛飾野~上武大。この日3安打したこのドラ1ルーキーの力強いスイングは「ただ者ではない」と感じさせるに十分。やや我慢の足りない空振りの仕方がハムの万波そっくりで、まあ「ああいう系」である。欠点に目をつぶってのびのびプレイさせれば、凄い選手になるのかも(そのへん中日というチームでよかったのか?)。ところでブライトは日本人(父親がアフリカ系)だが、ショートのワカマツ(2安打と打撃好調)はアメリカ人だそうな。んでもって、あとで出てきたマルクっちう投手は日本人(父親がベルギー人)てことで、中日の「カタカナ」選手は油断がならないったらありゃしない。

そのマルクとやら!この投手のフォームのクセがすごすぎて「度肝」を抜かされた。最初「持病が出たんか?」と思ったほどの放送コードぎりぎりのフォームは必見で、違反認定される前に見た方がよい。暗がりで「んっ・ばあっ」と人を驚かせてるようなというか… でもオリッ打者はなんども対戦してるからだろう、平然とタイミング合わせて打ってたのが笑えた。もうバレてるんだから、毎回じゃなくて要所でいきなりあのフォームにした方がええんちゃう?と思うが、3三振を奪って2回無失点だったのでフォーム効果はあるのだろう。いやあ、いろんな選手がいて楽しい。

珍しいので中日選手の話ばかりになっているが、ベテラン福留や堂上も懸命にプレイして両者2安打だったのが、プロ野球の厚みを見せつけてなんだか胸を打つのだ。特に超々ベテラン福留のこれまでの栄光の野球人生を考えると、この場所で手を抜かずにプレイしているのを見せてくれるだけで「値打ち」があるってもんである。ファンもしっかり目に焼き付けるように福留を見ていた。

ドラゴンズ試合後の反省会

オリッの方では太田が超絶カッコいいホームランを打つなど3安打の活躍。一軍の代打に欲しい。他の選手もみんな思いっきりバットを振ってて、なかなか見ていて気持ちよかった。大下が一軍にいて不在なのに、終始大きな声が出ていて活気を感じるし。最終回、2点差を追いついたときのベンチ総出の盛り上がりはすごかった。一軍経験のある若手が多いので、どの選手も「上がりたい」という気持ちがリアルに前面に出ているように思う。

両軍の投手陣の出来がいささか悪くて、結果的に7-7の引き分け乱戦となったこの試合。3時間40分もかかったのに、おそらく明日もお休みであろうほとんどのコアな観客は最後まで帰ることなく、のんびりファーム試合を眺めていた。試合が終わった瞬間のファンたちの雰囲気は、野球を愛でる者たちの穏やかな満足感に包まれていたのである。

時折スタンドを涼しい風が吹き抜ける快適な環境の中、一人でいろんな応援看板を次々と掲げる人、延々昔話をしている人、ひたすらカメラをグラウンドに向ける人、選手名鑑片手に思索に耽る人… それぞれが思い思いの野球時間を過ごすファーム試合の雰囲気は、やはり居心地が良い。誰もが他者に構わない。誰も音頭をとらない。どんな見方も許容してくれる。そんなファーム試合の雰囲気をこんな最高のスタジアムで味わえるなんて、野球観察冥利に尽きる夜となった。

あら、なんだか竜の写真ばかりになっとるやないか。

というわけで、次ページでは一軍では「お見限り」のオリッ選手たちの写真集「僕たち元気でやってます」をお楽しみください。

専属カメラマンはこの日なんと昼間は甲子園原人として高校野球を3試合観てから夜のファーム試合に駆けつけました。誠に見上げた、野球アホぶりです。

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
https://kobe-kspo.com/kspo/sp145/

 

 

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