南 郁夫の野球観察日記(190)時代は博志!

2024年12月14日  (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

オリックス・鈴木博志が気になってしょうがない。

現役ドラフト加入1年目の今年、苦しいブルペン陣を支えて32試合に登板して9ホールド、防御率2.97と活躍した鈴木。先日の契約更改では年俸も倍増、現役ドラフト成功例として名が挙がるほどの存在感を示した鈴木だが、私の場合、活躍以前の「存在としての鈴木博志」が気になる、ちう話なのである。

初めて球場で見たときから、気になった。マウンドに向かう中継ぎ投手はたいがい「決然」としているものなのに、散歩のついでにマウンドに来た画伯ってかんじで現れたのが、鈴木だったのだ。ひょろっと長い手足に、緊迫感がない。ヒゲの端っこで半笑い。他に類を見ない、野球選手らしからぬとぼけた雰囲気に、一目で魅了されたのである。

開幕前に買った選手名鑑の時点で、すでに気にならざるを得なかった。

なんとも温和な、安心の笑顔。コメントには「ウクレレにイラスト、松山千春の物真似など多彩な特技を持つ。」
普通の野球選手に「多彩な特技」はない。しかもシーズン後に公式グッズにもなったイラストの腕前が、半端ではなかった。木田優夫みたいなヘタウマじゃなくマジのレベルなので逆に「グッズにする意味あんのか?」と思ってしまうほど。野球選手なのに。私は「野球一筋」より、変わり者が好きなのである。

こう言っては悪いが、最初はファンの期待も薄かった。失礼ながらいわゆるイケメンでも剛腕でもなく、「なんとなく」の球速とコンビネーションで「なんとなく」打者を抑えていくスタイル。もちろんそう見えているだけで、技術の裏付けがあっての投げ方なのだろうが、その「力感のなさ」が、私のツボだ。悲壮感のないしみじみしたテンポが実にいい。たとえ打たれても。一気にファンになり、今シーズンは出てくるたんびに「ひろし」「ひろし」と密かにつぶやいていたのだ。

もともとはオーバースローのパワーピッチャーだったそうだし、中日ドラゴンズではいろいろな苦労もしたらしい。でもどこかで何かを達観して力が抜けた、そんな洒脱さが彼から伝わってくる。「野球も含めて人生を楽しんでいる」、そんな雰囲気がある。新しいピッチャー像を彼は提示してくれるのだ。

そして「ひろし」は来季の登録名を「博志」にするとか。

「鈴木と呼ばれたことがないから」という鈴木「あるある」理由で。さすがにカタカナは「あの人」を連想させるのでやめたそうだが(オリックス球団公式Xでの発表では「#よろしくとです。」となっとるのに!)。
来季は彼を堂々と「ひろし!」とエクスクラメーション付きで呼びたい。そう。私が彼を「ひろし」と呼ぶときは、常にちびまる子のおじいちゃんが息子(まる子のお父さん)を呼ぶときの口調なのである。

来季、チームにはこれまた現役ドラフトで、同じような匂いのする中堅投手「ケースケ」も入ってくるので、「ヒゲのキンブレル軍団」結成も楽しみである。(キンブレル:2010年代MLBを代表するヒゲのクローザー。博志が憧れて中日時代に同じ背番号46を着用)
生き方も含めて、彼らのような(スーパースターじゃないけど)球界を生き延びてきた中堅選手の「在り方」こそ、オリックス若手投手陣の最適なお手本になるであろう。

時代は、博志である。


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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
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