ナミコのおでかけ日和(7)兵庫県立美術館、阪神・淡路大震災30年 企画展「1995 ⇄ 2025 30年目のわたしたち」

2024年12月28日(文・写真/ナミコ

あの日から、未来へ向かう30年、私たちは何を残せるのか
まもなく阪神・淡路大震災から30年。
1995年1月17日。私たちにとって忘れることのできないあの日から、まもなく30年が経とうとしています。追悼式典には、天皇皇后両陛下のご出席も発表されています。

そんな節目となる年に、兵庫県立美術館では阪神・淡路大震災30年 企画展「1995 ⇄ 2025 30年目のわたしたち」が、12月21日から開催されています。メディアからの注目も大きく、内覧会には多数のメディアが取材に訪れていました。今回はこちらの展覧会をご紹介します。

30年前のあの日、王子公園に隣接していた兵庫県立近代美術館(1970~2001)も、建物や収蔵品、展示中の作品にも大きな被害を受けました。その内容を引き継ぎ、2002年に震災復興の文化的シンボルとして開館した兵庫県立美術館。
当時と同じ、山側からつながる下り坂を歩いていると、HAT神戸が海沿いの新しい街としてオープンした頃を思い出します。

 

「1995 ⇄ 2025 30年目のわたしたち」は6組7名の作家による企画展

 震災から30年を迎え、未来、明日に目を向けるという意味合いもあり、「あの日、ここにいたか、この世にいたかは問わない(図録p9)」という大前提の上に企画されたこちらの展覧会。
「多世代」「ジェンダー」を意識されたとおり、過去の節目に開催されていた被災作家による作品展とは一線を画すものになっています。
出展作家は、國府理(故人)、束芋、田村友一郎、森山未來、梅田哲也、やなぎみわ、米田知子(敬称略)。


左から 田村友一郎 森山未來 梅田哲也 やなぎみわ 米田知子 束芋

 

展示は長い廊下からスタート

展示の「トップバッター」は田村友一郎さん。「高波」というタイトルの展示には1995年、神戸と一緒にがんばった「青波」にまつわるアイコンもさりげなくちりばめられています。ぜひじっくり隅々まで鑑賞してみてください。


 田村友一郎 展示風景

 

続いては震災当時、ロンドンにいたという明石市出身の米田知子さんの展示室。
2つに分けられた展示の1つ目は、震災直後と10年後の被災地各地を撮影した作品。


米田知子 展示風景

2005年、芦屋市立美術博物館で展示された作品には、人はほとんど写っていません。しかし「当事者」だった私には、空き地の写真だけでも当時の様子が鮮明に思い出されます。
2つ目の展示室には、震災当日に神戸で生まれた男女4人の「今」に向き合うポートレートが。当時「希望の光」と言われ、ことあるごとに取り上げられた彼らが30年後の今、未来に向かってどう生きているのかを自分に重ね、未来とは何か? を考えさせられます。

 

アニメーションを用いた映像作品は束芋さんの展示室。
当時神戸市北区で被災した束芋さん。神戸市民でありながら、家族も自宅も無事で当日から電話もつながり、「被災者」としては疎外感を感じていたそう。そのため過去に震災と深く関わる作品は発表していなかった中、今回初めて神戸の実家をテーマに「山側」から見た震災を表現しています。時を経て、当時を知る人の変わっていく内面、自分とも比較しながらじっくり鑑賞しました。

 

やなぎみわさんの展示室ではたわわに実った桃の実が印象的。『古事記』を題材とした写真と、ライフワークとして取り組んできた野外劇の映像がシンクロしています。

やなぎみわ 展示風景

 

2014年に不慮の事故で他界した國府理さんの作品「水中エンジン」。
水中で冷やし続けながらエンジンを動作させるという矛盾は、展示する際も常にメンテナンスが必要だったそう。東日本大震災によって発生した原発事故から着想を得た作品ということもあり、当時の危うさや脆さが生々しく再現されています。


國府理 「水中エンジン」(2012年) 展示風景 

 

森山未來さん・梅田哲也さんの共作は同時開催の「チャンネル15 森山未來、梅田哲也《艀(はしけ)》」に連動した作品。黒電話やいたるところに置かれたラジオ。被災地で当時大活躍した通信機器から、希望とも絶望とも取れる音声が流れています。じっくり座って耳を傾けてみると、あの頃の言葉が聞こえてきそう。

展示室の隅には当日の新聞も展示されています。当日の朝刊には、5時46分に発生した地震の記事は当然ありません。平穏な記事が続くこの朝刊が、どれだけの人に無事読まれたのだろうか、と複雑な気持ちになりました。

30年の時を経て、学芸員の中でも1995年を当時の兵庫県立近代美術館職員として経験した人は今や2人しかいないそうです。
「震災の周縁」から見た30年目の展覧会。当時を知る人も今のわたしたちから、未来を感じてみてください。

 

今回ご紹介したのは…
阪神・淡路大震災30年 企画展「1995 ⇄ 2025 30年目のわたしたち」
(会期は2025年3月9日まで)
兵庫県立美術館 神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1(HAT神戸内)
イベント、講演会など最新情報は公式サイトからご確認ください

 

 


ナミコ

セは阪神、パは阪急を応援しながら阪神間で生まれ育った昭和生まれのママライター。
幼少期の憧れの人は福本豊。阪急
ブレーブスを知る最後の世代として、西宮ガーデンズに行くたびギャラリーとメモリアルスポットを巡礼しては熱く語るためママ友たちにウザがられている。趣味は野球観戦と鉄道旅行。

 

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