南 郁夫の野球観察日記(198)スタア誕生!オリックス・麦谷祐介の強い決意

2025年4月30日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

4月29日、GWのイベントデーで超満員の京セラドーム。しかしオリックスは再三の好機を逸し、エースの熱投に応えられないという「既視感あるある」の重苦しい展開。企画ユニを着ると(たいがい)ろくなことがないこのチームにとって、ここで負けるとお馴染みの悪いパターンにハマるところ。開幕ダッシュの勢いがわかりやすく減衰してきたチームにとって、大事な局面である。

そんなチーム状況を救ったのは、なんとルーキー。同点の最終回、三塁打の野口をホームに帰したのは、麦谷祐介の「迷いのない」一振りであった。ロッテの新鋭・横山のストレートに追い込まれながら、決め球を鋭いサヨナラヒットにして見せた麦谷は、若者らしい喜びを爆発させてチームの暗雲を吹き飛ばして見せたのである。

スタア誕生の、瞬間。満員のファンの前で、待望のニューヒーローが生まれたのだ。幸い、専属カメラマンが現場にいたので(彼のサヨナラ遭遇率はすごい)見てきたようにレポートしている、机上の私である。

サヨナラのチャンスで、なかなかルーキーがヒットなど打てるものではない。いくら技術があっても、相手が全力で抑えてくる局面で経験値の浅い新人が結果を出すのは、至難の業である。たいていは悔しくて苦い経験をくり返し、いつか花開くかいつまでも花開かないか… という道をたどる。

しかし。そういう壁を「やすやすと」突き破る者がいる。滅多にいないが、たまにいる。特別な「何か」を持った選手である。麦谷くんはいきなり開幕一軍を勝ち取って何度かスタメンに名を連ね、4月中にサヨナラヒットを打ってヒーローに駆け上がった。スタアとは、そういう者を指す。
さらに、翌日4月30日の試合では、3安打猛打賞! ヒーローになった勢いを次の日に過剰に持ち越せるところは並みのルーキーではない。

麦谷くんの何がいいって、全てのプレイに感じられる「強い決意」だ。ルーキーなら気後れもするし緊張もする。見てる我々にもそれが伝わる。はずなのに、最初から彼の「眼差し」には、なんの迷いもない。「やったるで!」から「やったぜい!」までに時間差がない。シンプルである。スイングや走塁の思い切りの良さが、見ていて実に爽快なのだ。

この日の喜び方や、ヒロインでの受け応えも素直で明るく、このチームには異質の旋風を巻き起こした。照れ隠しや屈折がない。そう。オリッにはこういう選手が必要だったのだよ。ちょっと失速してる「かつて勝ち慣れていた」チームを、麦谷くんのフレッシュな「強い決意」が活性化してくれるに違いない。

さて。そんなルーキーを見てて、まっすぐ育った野球エリートなんだろなあと勝手に思っていたのだが… 選手名鑑を初めて見たときから、彼の経歴に高校名が「2つ」書かれているのが、気になってはいた。

過去の記事を調べてみると、実は麦谷には重い過去があった。有望選手として強豪高の野球部に入った彼はいきなり部内の暴力事件の被害者となり(当該高校は対外試合禁止処分)、やまぬ暴力に「もう無理」と父親に訴えて違う高校に転校していたのだ。幸い、転校先の野球部ではチームメイトと問題なくプレイでき、進学した富士大で「1年春」からレギュラーとして活躍。オリックスにドラフト1位で指名されて「1年目春」から活躍するほどの選手となったのだ。

高校1年生(16歳)で希望を胸に入った野球部で暴力被害を受けた彼のショックは、いかばかりだったろうか。決然と転校させた父親の愛と行動力には頭がさがるし、それでも野球を続けた麦谷少年の健気さに、親の目線で心が震える。オリッに指名された後、過去の事件について彼は「今は、どうでもいいんだ」と近親者に語ったという。決して軽い言葉では、ない。

麦谷祐介の「強い決意」には理由があった。そんな彼が、これからどんなドラマを巻き起こすのか、楽しみでしょうがない。スタア街道は、始まったばかりだ。
今年のオリックスには、新しい風が力強く吹いている。

*私見
野球の未来のために、野球人口を減らさないために。プロアマ問わず、少年野球・学生野球からもあらゆるハラスメントを排除しなければならないと思います。「ゆるい」くらいでちょうどいい。そういう意味で、麦谷くんはいいプロ野球チームに入ったと思います。笑。

 

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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
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