スポーツイラストレーターT.ANDOHの「OUTSIDER’s ReCALL」(133)西田陸物語~関学ドリームを夢見た、苦労人のアメフト旅~
2025年3月19日(イラスト・文/T.ANDOH、写真/Azusa SUZUKI)
こんにちは!スポーツイラストレーターのT.ANDOHです。
春の卒業シーズンになりました。
史上初の甲子園ボウル七連覇を目指して戦った関西学院大学ファイターズ4回生にとっても、その学生生活にピリオドをうつ季節となってきました。
関学くらいになると、アメフト日本一のチームを志して、トップクラスの学生たちが集まってくるわけですが、そんなサラブレッドが集まる一方で、アメフト未経験からの挑戦をする学生にとっても十分チャンスがあるのもアメフトの面白いところ。
今日は、そんな紆余曲折をたどって関学ファイターズに入り、4年間を戦い抜いた4回生RBの西田 陸(にしだ りく)選手を取り上げます。
“アメフト苦労人”の西田選手が語った4年間をたどってみたいと思います。
西田選手を注目し出したのは、先シーズンの春でした。
さらに1シーズン前に、伏兵RBとして公式戦でも印象的なタッチダウンを決めた大槻直人選手を彷彿とする”ずんぐり体型”がなぜか気になったんです。
整列すれば、エースRB伊丹翔栄選手の隣に並び、写真にも入ってくる(笑)。
それぞれの個性が際立つオフェンス陣の中、ずんぐり体型の献身的なプレーに興味が湧き声をかけたところ、話してみればこれまた突けばつつくほど“味のある”個性豊かでユーモアあふれる選手でした。
兵庫県の播州龍野で生まれ育った西田選手。
小学生からバスケットボールをはじめ、高校までバスケに取り組みました。
高校当時は身長168cm体重70kg。
バスケ選手としても小柄な体型だったのですが、器用な身体能力とガッツあるプレーでフォワードやセンターもつとめるオールラウンダーとして地域の選抜にも選ばれる選手だったそうです。
それでも、大学は関学に入り、アメフトをやりたいという思いが芽生えます。
中学2年生の頃にテレビで見たNFLでアメフトを知り、家族に話すと「甲子園ボウル」に連れてってもらった。
これだけ熱いスポーツが甲子園であって、しかも地元の関学がこんなにすごい試合をやっているということに興奮。
がぜんアメフトをやってみたくなったものの、アメフトをやりたくても、龍野にはその環境がありませんでした。
結局、地元の龍野高校に入りバスケを続けていましたが、関学アメフトの夢を諦めきれずに一般入試で関学を受験。
しかしストレートでは入学できず一浪をして入学を果たしました。
関学に入りたくて浪人する人はたくさんいますが、アメフトをやりたくて一浪し、一般入試で未経験からアメフトを始める。
のんびりした風貌からは結びつかない執念を持った選手です!
もっとも、そういう執念を持つ選手だからこそ、関学で選手を続けられました。
未経験からアメフトを始める選手も多からずいます。
それでもほんとうに3~4人。
入ってくる新人といえば、高校から名を馳せたアメフト経験者はもちろん、他のスポーツからの転向でアメフトに活路を見出す選手たち。
それでも推薦で入学してくるだけの実績を持った選手ばかりです。
たとえばDLをつとめる今度3回生の八木駿太朗選手は、花巻東高校野球部出身!
いまアメリカの大学で活躍している佐々木麟太郎選手とともに甲子園にも出場した野球界のエリート。
こんな連中ばかりがいるなかで、播州代表西田陸は「何をするかも分からない」状態からアメフトを始めたのです。
しかも小柄で当時はアメフト選手にしては華奢な体型。
それでもフィジカルに関わるポジションがやりたくてフロントラインにも憧れたものの断念。
そんな西田選手が入学当時、アグレッシブにぶつかっていくプレースタイルで活躍しキャプテンも務めた先輩RBの鶴留輝斗選手がいました。
そこで当たりに負けず駆け抜ける鶴留選手にならい、RB(ランニングバック)での挑戦を始めたのでした。
「入ってみれば苦労だらけでした」
憧れの関学ファイターズに入ってはみたものの先述の通りの華奢な体型。
スピードもなければ特出したアメフトの技は一つもない。
アメフトは、11人の攻守メンバーとポジションはたくさんあるんですけど、選手もたくさんいるわけです。
他の部活でも、ベンチに入れない選手が何もやらせてもらえないのと同じで、関学でも1年間背番号をもらえない選手たちは、スタッフに転向するか辞めていくか…。
そんなシビアなチーム間競争が待っていました。
西田選手が取り組んだのは兎にも角にも肉体改造。
フィジカルを売りにしたい一心で体重を増やし、1回生の終わりには70kg→85kg。
その後も10kg単位で体を大きくし、4回生の時点で103kgまで大きくしました。
体重を増やすだけではもちろんダメなので、休日も練習場に通い詰めてはトレーニングに励み、スピード強化などを一心で取り組んだそうです。
RB陣は天性の突破力を持つ伊丹翔栄選手であったり、先輩RBにも前島仁というMVP選手などがいました。
一方で同級生にはショートヤードが得意な澤井尋選手といった、それぞれポジションの中でも特徴を持つ選手たちがそれぞれの役目を持つことができるのもアメフトの特徴。
さらにオフェンス陣といえば、ボールを前線に運んでナンボなポジションですが、その前線に立ちはだかる相手ディフェンス陣をブロックする力もまた求められる。
だからこそオフェンスラインをはじめとした”守備のオフェンス”陣もいるわけですが、オフェンスのフルバック、レシーバーだって、相手の動きを読み、味方を守ることが求められる。
フィジカルにこだわった西田選手は、オフェンスの中でも特にフルバックとして自分の立ち位置をようやく見つけます。
「ゲームの先を見据えることを求められるので、たくさんの学びがありました」
オフェンスの中でもボールはなかなか持つ機会はないものの、献身的かつ試合を俯瞰して捉えられる高尚な能力を求められるフルバックのポジションで、西田選手は4年間を戦い抜きました。
昨シーズン、関西学院大学ファイターズは大学選手権の準決勝で敗れ、甲子園ボウル行きは逃しました。
下級生時代にも甲子園に立つ機会には恵まれなかった西田選手。
結局、中学校時代からの憧れだった「甲子園ボウル」でプレーすることはできないままアメフト部を卒業したことにはなりますが、アメフトに出会い、アメフトにしがみついた学生時代からは多くのことを学んだと言います。
なにより「最後までやり切ることの強さが身につきました」
テーマを見つけては、試合で活かせるために必死で”準備”をして、プレーで成果を挙げて初めて「答え合わせ」ができてくる。
その答え合わせが、どんな場面で成り立つかも分からない。そもそもが間違っているかもしれない。
不安と恐怖を抱きながら、それでも「自分はできる!間違ってない!」と信じてやるしかない。
思えば関学に入るために一浪もした西田選手。
関学アメフト部で活躍できる可能性は極めて少なかった中で、自分を信じて全てをアメフトに注ぎ込み続けて、4年たって最後まで選手としてユニフォームを着続けた。
西田選手の最高の「答え合わせ」は、最終戦を迎えた準決勝を終えた後だったのかもしれません。
甲子園に立つことが「答え」にはならなかったが、西田選手は4年間を全力で走り抜けることができました。
僕たちも、西田選手が「どんな選手なのか?」の好奇心だけで1年間注目してきましたが、選手が自分で「主題」を見つけ、しっかりと準備をするために日々を取り組み、少ないチャンスを掴み取る。
厳しさと面白さ。
それを自分で学び、挑戦することで成長をすることが、学生スポーツならではの教育でもあること。
西田選手を通じて、あらためてその面白さを実感できました。
「僕みたいな地味な選手にも光を当ててくれることって、嬉しいですし、ほかの選手たちのためにも大事なことだと思います」
西田選手も自分に注目をしたことに感謝をしつつ、派手なプレーの中には多くの選手とチームのプレーがあって成り立っていることを、たくさんの人に知ってほしいと言います。
そうです。
アメフトには多くのポジションがある分、自分を活かすチャンスはたくさんあるし、いろんな選手の活躍があって試合が成り立つスポーツです。
その面白さや、たくさんの選手の良いプレーをたくさん見るチャンスがある。
特に日本一を争う関学ファイターズというチームだからこそ、その層の厚さ、奥の深さも体現できて、学生アメフトの面白さを楽しませてもらっているなぁと感じました。
僕らK!SPOは大手メディアのようにはいきませんが、関学ファイターズと学生アメフトを取材できる以上、こうしたいろんな選手の良いところを見つけて、少しでも底上げにつながればと思います。
中学で出会い、憧れの関学で4年間を戦った西田選手のことを取り上げて、これも関学はじめ難関のスポーツチームや学校を目指すたくさんの若者たちの励みにもなってほしいし、次に続く選手たちの新たな挑戦のシーズンを追いかけられることを楽しみにしたい。
選手としては一旦区切りをし、就職活動に邁進するという西田選手。
西田選手は卒業を先延ばし、あらためて就職活動に今度は全力を注ぐということで、新たな挑戦を控えています。
僕は、若いうちの周り道は何もマイナスでもなく、恐れることはないと思います。
回り道したからこそ見えた世界、ついた力を西田選手はたくさん持っている。
その経験を新たなステージで活用し、人生の「答え合わせ」を求める新たな前途を、僕たちはこれからも応援したいと思います。
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スポーツイラストレーターT.ANDOH
おもにスポーツを題材にしたイラストやデザインの創作で、スポーツ界の活性に寄与した活動を展開中。 |
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