スポーツイラストレーターT.ANDOHの「OUTSIDER’s ReCALL」(120)甲子園ボウルへあとひとつ、運命の法政大戦(2)

2024年12月7日(イラスト・文/T.ANDOH、写真/Azusa Suzuki

こんにちは!スポーツイラストレーターのT.ANDOHです。
前回に続き、関西学院大学ファイターズ、甲子園ボウルへあとひとつと迫った全日本大学選手権、関東リーグ1位の法政大学との準決勝の様子をお届けします。
ゲームは、17対17のイーブンのまま延長戦へ持ち込まれました。

延長戦はタイブレーク方式となります。
25ヤード地点からの攻撃を交代で展開し、得点を競います。
タッチダウン、フィールドゴール、2ポイント…
得点ルールはそのまま、交互に挑戦してお互いが点を取れれば、勝ち越すまで続きます。

コイントスをやり直し、先攻は法政大学。
法政大は3回生WR高津佐隼世選手へのパスでファーストダウン。
ランを進めて残り7ヤードまで接近したのちは3rdダウンのパスを失敗してフィールドゴールへ。
法政大はフィールドゴールをしっかりと決めて3得点です。
関学はもうタッチダウンで勝利、フィールドゴールで再延長が必須となりました。

関学オフェンスは4回生RB伊丹翔栄選手に託すラン攻撃となりました。
最初のオフェンスで得点には繋げられずフィールドゴールの体制となった時に、なんと法政側でファウルを起こしてファーストダウン獲得!!
ファウルの判定に翻弄された関学に対して、ここにきて運が回ってきたか!?
と期待しながら再度の攻撃を見守りましたが…、伊丹選手の正面攻撃はタッチダウンにつながらず、運命のフィールドゴールを4回生キッカー楯直大選手に託すことになりました。

キッカーは、一発で試合の勝敗を左右するキックを放つ専門家。
本場アメリカでも「世界一やりたくない職種」と呼ばれるほど責任重大なポジションです。
外せば負け。
決まれば再度攻撃の場面、
最大の注目が集まる中で放たれたキックは、わずかにゴールポストの左にそれた判定となりました…

関西学院大学 17 × 20 法政大学

この瞬間、法政大学の甲子園ボウル出場が決定。
関西学院大学は史上初甲子園ボウル7連覇の夢がついえました。

今シーズン、乗りきれない試合があっても勝ちきってきた関学ファイターズ。
そして立命館大戦の敗戦とはひと味もふた味も違う。
負けたら終わりの準決勝は、ほんとうに悔しい試合となりました。
「1年間、たくさんのご声援をありがとうございました!」
会場に集まった2500名以上の関学ファンに、キャプテンの4回生LB永井励選手がしゃがれた声で挨拶をしたことで、僕の中でも「今シーズンがほんとうに終わったんだ」と実感をしました。

「典型的な負け試合。自滅です」
「連覇が途切れたということよりも、目の前の試合がしっかりできなかったことを反省します」
大村監督はいつも通りの表情で、淡々と試合を振り返りました。

法政大を乗せてしまった試合展開。
慣れない東京でのアウェイゲーム。
いろいろとプレッシャーがかかったなかではあったけど、王者関学ファイターズらしいアメフトができていなかったことが、何よりの敗因となる試合でした。

「この景色を、後輩たちには忘れてもらいたくない」
フィールドの先で記念撮影をする法政大をじっと見つめる関学メンバー。
その後のインタビューで永井キャプテンが語ってくれました。

そして「敗戦は自分たちの責任です」と涙ながらに語ってくれました。
今年の4回生は「7連覇」という期待を一身に背負ってシーズンを過ごしました。
強力なタレント選手が引退をしたうえ、怪我、メンバー離脱といった憂き目にもあいながらも「4回生がもっとしっかりしないと」と常に自分に言い聞かせてチームをまとめようと奮闘してきたキャプテンです。
「正直、練習に行くのも怖くなる時もありました」
「甲子園に行く」という執念と、最上級生としてチームを牽引することの難しさ、怖さをわきまえ、キャプテンは自分とも戦ってきました。
キャプテンという重圧と、最上級生という不安を抱えていながら、リーグ戦が佳境になってチームの成長を感じたことを、関西大学戦を振り返って語ってくれました。
「気持ちが孤独になる時間がすごく長くて、自分たちが(気持ちが)弱いと感じることもあったけど、それでも関大戦に向けて全員が変わることができて、下級生たちも「勝ちたい」という思いで一生懸命ついてきてくれて、初めて自分でもみんなで「一体感」を持ってやれたと思える期間となりました」
“強く見せている”時もあったと思います。
そんな自分をついてきてくれた仲間たち、後輩たちと、みんなでチームを成長させてきた。
僕も、今シーズンの関学は、シーズンを通じて成長のために走ってきたチームだったと思います。

今年の関学ファイターズは、圧倒的な強さはなかったかもしれません。
しかし、シーズンを通して徐々にチーム力がついていくところを実感できました。
それが下級生の成長だったり、上級生が抱える責任感を背負っての献身プレーであったりというのは、プレーの随所を通じて伝わってきました。
「絶対王者」にも弱さがあって、みんなでチームを作り上げていく。
学生スポーツらしくて、学生たちの苦悩と成長がある。人間くさくて、僕はそれは素晴らしいと思いました。

下級生が自信をつけてくれて、また一からチームを作り上げていく。そんなチーム構築を担うであろう3回生のエースQB星野秀太選手は、試合後にハドルの中心に立ち、檄を飛ばしました。
春のアメリカ遠征で怪我をして以来出場を控え、秋の公式戦でも復帰2試合目で再び怪我をして離脱した星野選手。プレーで牽引できなかった星野選手ですが、春の交流戦はベンチで積極的に声をかけてチームを鼓舞してきました。
「次の、「甲子園に行けなかった」から始まる僕たちの代のスタートは、一からのスタートとして相当厳しいものになると思います」
「今年は下級生もたくさん出場して、今日のこの日の悔しさも一緒に経験したので、本当にこの悔しさを忘れさせないようにするのが、次の4回の仕事だと思っています」
星野秀太選手が、ちゃんと永井キャプテンの思いを分かっていて、もう一度立ち上がるための決意を語ってくれました。
この涙は引退していく4回生と、次に続く後輩たちに再建を誓う決意の涙となりました。
ほんとうに、この感情を、この思い出を忘れずに生かしてほしい。

そして、この試合をもって引退していく4回生たちです。
ディフェンスの要として幾多のピンチを守ってきた副キャプテンのDB中野遼司選手(25番)

もう一人の副キャプテンとしてオフェンスラインを支えてきたOL巽章太郎選手(66番)と、チームの懐刀だったLB日名圭太選手(47番)。

キッカーの楯直大選手(48番)。
最後のフィールドゴールを外してしまったが、後輩の3回生大西悠太選手を支え、チームの要所をひと蹴りでになってきたキッカーです。
DBの藤原拓志郎選手(26番)とQB柴原颯斗選手が労いました。

もっともっと紹介できて、選手の皆さんの思い出となってくれればと思うのですが、最後にRB伊丹翔栄選手と3回生、星野秀太選手の抱擁で締めくくりたいと思います。
正直僕も悔しいし残念だったけど、強さだけではない「敗戦」という光景から僕も学ぶことがありました。
そして、技術だけじゃないチームづくりのための思い、コミュニケーション…後輩後輩に受け継いでいく姿が見られるのも学生スポーツの面白さだと思います。
また来シーズンはどんなプレーが見られるんだろう。プレーから伝わる選手たちの思い、技術、そして過程と成長…。

新しい歴史がもう始まろうとしています。
現場で体現できたこと、見て聞いたことをまたこのK!SPOでも紹介することで、少しでも多くの方に知ってもらって、注目してもらえればと思います。
地元神戸を中心に関西8大学で繰り広げられる関西学生アメリカンフットボールリーグ。
ぜひ機会があったら見ていただきたいです。

そして!
大学選手権準決勝のもう片方は、関学を最終戦に破った立命館大学が早稲田大学を制して甲子園ボウル進出を決めました。
法政大学と立命館大学が対戦する甲子園ボウル。
新しい風が吹き込む大会となります。
関学ファイターズは出られなかったけど、新たなカードでアメフト全体がまた盛り上がるきっかけになるか…!?
そんな兆しと希望を感じることができる甲子園ボウルとなることを期待したいです。

 K!SPOとしては、地元が誇る学生アメフト頂点を決める決定戦であり、1シーズン取材させてもらった集大成として、この甲子園ボウルの様子も皆さんにお伝えしたいと思っています!
「第79回毎日甲子園ボウル」は12月15日(日)に開催されます。
奇しくも関学を制した「東西の雄」がぶつかる甲子園ボウル。
関学の代わりに両チームには精いっぱいのゲームを期待しています。
チケットは絶賛販売中!
NHKでも中継が予定されていますので、ぜひK!SPO読者の皆さんにも注目をしてほしいです。
そして、関学コラムにもお付き合いいただいた皆さんに、アメフトの面白さを感じていただきたい。

ので!
今日も言います!!

※イラスト・写真の転載・無断使用はご遠慮ください。使用をご希望の場合はK!SPO編集部までご連絡ください。


スポーツイラストレーターT.ANDOH

おもにスポーツを題材にしたイラストやデザインの創作で、スポーツ界の活性に寄与した活動を展開中。
プロ野球やプロバスケBリーグのチーム、選手にイラスト提供。
プロ野球選手には、伏見寅威選手(北海道日本ハムファイターズ)、中川圭太選手(オリックス・バファローズ)にロゴデザイン、イラスト提供中。
名古屋在住にも関わらず20年来のオリックスファンであり、その由来とイラストレーターの起源は神戸にある…!?

 

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