南 郁夫の野球観察日記(162-1)日本シリーズ2023 オリックス第7戦で力尽きる おーん

2023年11月6日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

その瞬間、京セラの渦巻き屋根を「ちゅどーん」と吹き飛ばすほどの大歓声が爆発し(いっそ吹き飛ばしてもらいたい)、ついに。ついに、この関西の歴史に残る大河ドラマは、阪神タイガース38年ぶりの日本一で幕を閉じた。もちろん悔しい。悔しいが正直「祭りのあと」の解放感もあり、生まれて初めて日本シリーズ第7戦を体験させてもらった幸運への感謝のほうが先に立つ。

日本シリーズ第7戦である。絵に描いたような最高の舞台で相手はほぼ9割の関西人が勝利を願う、阪神タイガース。前年覇者のはずのオリッ側になんとも言えない固さが見られたのに対し、阪神は伸び伸びと得意の集中打をくり出し、あっ気なく日本一を奪い取っていってしまったのだ。とほほ。ノイジーの3ラン… 実は私その瞬間トイレで小用中でして、とてつもない歓声に「あ」と放水が止まった。宮城くんごめん。なんにせよ、決定打が出ないオリッは勝ち目なかった。

平手打ちの応酬で始まったこのシリーズは、結局最後の6戦、7戦も平手打ちの応酬に。最後の平手打ちが阪神だったちうだけ。そう思うと、やはり甲子園での戦いがカギだったと思うけど、そこで立ちはだかった甲子園球場というラスボスの存在感。阪神の不動のラインアップは終始したたかで勝負強く、今年はやはり虎年だったということだ。社会的に四方丸く収まった感があるのも、相手が阪神ならではか。

これだけのシリーズを見せてくれた両軍全員を讃えたいし、とにかく長いシーズンお疲れ様と言いたい。両軍のファンもまた。それにしても今回改めてじっくり観察させてもらった阪神ファンの、あの熱量が一年中持続するのなら… 政府は科学者を総動員してアレをエネルギーに変換する装置を作るべきである。そのエネルギーで万博やればいい。やりたいなら。

さて。このシリーズを「関西ダービー」とマスコミは煽ったけれども、球場で見てる限り、お互いのファン同士のライバル意識など皆無であった。どこぞの国の蹴球とは違う。なんせ両チームとも大阪を背負ってるし京セラは阪神の準本拠地みたいなもんやし、もとよりあまりにもファンの数と質感が違う。もし本当に仲が悪ければ、甲子園球場で真ん中の席に座ったオリッファンが頼んだビールを阪神ファンがリレーで運んであげるなんて微笑ましい光景は、ないだろう。

ビールリレーで驚いたのは、当たり前だが代金も逆リレーで売り子のお姉さんのところに届けるとこ。リレーに参加した人がそれを落としたら誰が責任取るのか?と「100円玉8枚」渡された私は「え!」と緊迫するとともに、ビール750円やからお釣りの50円もまた転送するなんて3-2-3のダブルプレーやん、と笑けてしまう。さらに笑えるのは支払いが「PayPay」のときで、この場合はなんと個人のスマホがスタンドを右往左往するのである。セキュリティもクソもないし、先進的なのか原始的なのか訳わかんない。途中で他人に早技でAmazonでなんか買われたらどうするのか?オリッファンのスマホなんてぶん投げちまえとならないのか?なんて、そんな心配もない日本は平和で素敵だなと。

などなど、いろんな思い出を作ってくれた日本シリーズ2023も、ようやっと終了である。3年連続でポストシーズンを楽しませてくれたオリックス・バファローズはやはり素晴らしいチームだと実感するとともに、今シリーズで涙を流した選手たちにはさらなる飛躍を期待したい。その悔しさが更なる進化の礎と思えば、この敗退にも千金の値打ちがあるのだ。

一年間野球を見続けた上に日本シリーズを4試合も見れた観察者も、しばしの休息に入りたい気持ちである。こんなことを言うと「身もふたもない」が、今の気持ちはこの一言。

「どうでもええ平日の試合を、空いている二階席からのんびり眺めたい」

ポストシーズンは疲れる。
やはり私は少数民族なのか。

さて。次ページは甲子園全戦に続き、京セラ2試合も現地にいた専属カメラマンのオリッ写真をお楽しみください。

 

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
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