南 郁夫の野球観察日記(132)さらば伏見寅威!君の声を忘れない

2022年11月22日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)

日本一を決めた日本シリーズ最終戦の最終回に右中間ツーベースを放って足をくじいた?のが、オリックスでの見納めだったなんて! あの時点では、誰も夢にも思わんかったろう。伏見寅威はFA資格を獲得するほどのベテランになっていたのだ。ハム移籍が決定となったいま、思いのほか喪失感を感じている自分がいる。

まさに故郷に錦だし、(変なケチがついたとはいえ)私の理想を具現化したような新球場での出場機会も増えるなら、伏見にとってナイスな決断であることは間違いない。水色ユニでThe Foxしてる彼が目に浮かぶ。ますます私の中のハム熱が・・・。日本一チームの正捕手の一人として、先方に望まれての移籍なのだから本当によかった。1億円プレーヤーになれそうだし!

でも・・・年々精度が上がっていた(特に左投手の)リード力、勝負強い打撃力、なにより若手を引っ張れる人間力。オリッの「良心」を体現する伏見がいなくなることにより、失うものはけっこう大きいはず。投手力偏向チームの「微妙な微妙な」バランスがガラッと崩れるのでは? といらぬ心配もしてしまうところだ。ま、しょうがないけど。

そして・・・単純に寂しいのである。伏見の声を球場で聞けないのが。ファームでも一軍でも、試合に出てても出てなくても、常に伏見のいるグラウンドでは彼の甲高い声が鳴り響いていた。伏見の声「だけ」が! 今も昔もおとなしいチームにおいて、低迷期からずうっとオリッに活気を与え続けていたのは、あの声だったのである。必ず聞こえる伏見の声という安心感を失うのは、大きい。大下君?ちと違うねんなあ、ていうかベンチにいない(ことが多い)。

忘れられないのは、2020年に京セラで取材させていただいた「無観客試合」。恐ろしいほどの静寂の中で鳴り響いていた山本由伸の投球がミットを弾く音とともに、ベンチから途絶えることなく聞こえてくる伏見寅威の声。その両方が今も同等に耳に残っているのだ。試合に出ていないのに、彼の活気のある声だけが無観客というあまりにもシュールな状況と現実の野球をつなぎとめていた。「渋いよ渋いよ、駿太!」という名フレーズは忘れがたい。

でかい声と明るいキャラは、北の大地にこそ似合う気もする。来年は新天地で元気いっぱいにプレイする伏見を、間違いなく応援するだろう。それこそ「伏見憎し」とオリッファンに思わせるような活躍を願うばかりだ。キャラ的に誰もそんなことは思わないだろうが。

来季開幕時、彼の大阪凱旋に立ち会ったファンの方々はスタンディングオベーションで迎えてほしい。それほどの貢献を、彼はオリックスにしてくれたのだから。

グッドラック!伏見寅威!

 


<過去コラム一挙掲載!>
オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。

 

南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」ブログ「三者凡退日記」
著書「野球観察日記 スタジアムの二階席から」好評発売中!
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