南 郁夫の野球観察日記(88)
もう一度言います。オリックス、首位です!

2021年7月1日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)



何を見ても聞いても現実感がない。これといった理由がないのにどこか不安である。誰かに追いかけられてるような気がする… あなたは最近、こんな症状に悩まされていないだろうか?
カウンセラーならこう質問するだろう。

「あなたの周りで何か、特に普段と変わったことはありませんか?」

あ、あります!順位表のいちばん上が「オリックス」なんです。そんな文字の配置は脳にプログラムされていないので、見るたびに頭がくらくらするんです。私はパラレルワールドに来てしまったのでしょうか? 25年前にタイムトラベルしてしまったのでしょうか?



オリックス・ファンの皆さん!気を確かに持っていただきたい。

2021年6月終了時点で、オリッはパ・リーグ「首位」で貯金「8」である。首位?貯金?はらひれほれ?と呆けている場合ではない。我々ファンはこの現実をしっかり受け容れなければならない。「むしろ苦しい」「気分がちょっと」「違和感が」「どうせ」とか言っているのは誰だ? 自分か。そのような負の感情はチームに伝染するのでやめた方がいい。心に予防線を張る癖から抜け出そう。ファン歴が長い人は、特に気をつけなければいけません。自分か。

前回お届けした甲子園レポートあたりからチームの好調さはさらにさらに加速し、ついには「交流戦優勝」やら「11連勝」やら聞き慣れないフレーズを目の前に突きつけられ、あれよあれよで首位なのだ。いろんな人に「オリックス首位ですね」と半笑いで言われ、複雑な感情を抱きつつも我々はこの未曾有の事態に毅然として「首位ですよ」と臨まないといけない。

「オリックスが首位のうちに観戦したい」というわけで、6月30日(水)のロッテ戦に突撃した。試合開始前の時点で、楽天と同率首位。ギリギリセーフである。なんとなく言葉の響きが(首位から)落ちることを前提に聞こえたとしたら、深く謝罪するところだ。予防線を張るな、ちうてるのに!

さぞかし京セラドームも盛り上がって?と思いきや、平日のせいかご時世のせいか、いつもどおりの静か〜な雰囲気と快適な人口密度(とマスク警察)。ただ外野席には応援団らしき形態が復活していて、太鼓だけは許されている。甲子園みたいに「録音された応援歌」を流してそれに合わせて太鼓をバンバン叩いているのだが… これって必要か?(個人の感想です)

「録音された応援歌」はパソコンで編集されたっぽくて、バックで鳴るトランペットはおそらく低ビットの内蔵音源で作成。生楽器より音程が安定してるぶん初期の野球ゲームのBGMっぽさ満点で、なんともトホホ(個人の感想です)そこまでして必要か? これ。
むしろビジターのロッテファンの工夫を凝らした「拍手のみ」での応援を、非常に好ましく感じた次第(個人の感想です)

さて。首位のオリックスの戦いぶりはどうだったかというと… もうそれはそれは、田嶋大樹の圧巻のピッチングに尽きたのである。定規で引いたような「超クロスファイア」がビシバシ若月のミットを鳴らし、ピンチらしいピンチもなく7回無失点の、堂々たる投げっぷり。


ピッチングの素晴らしさ以上に印象的だったのは、ここ一番の投球のたびに「しっ」と叫ぶ彼の気迫。その声はスタンドまで響きわたり、クールで繊細そうなこれまでの印象をくつがえした。それに奮い立ったか、女房役の若月が「久しぶりに芯に当たってびっくりした〜」というまさかの決勝3ラン。強いチームの相乗効果が実現し、この日も5-0の圧勝で単独首位に。強さは本物である。

胸を打ったのは、ヒーローインタビューにおける田嶋。戦う男から例の「無表情」に戻った彼に「しゃべれんのか?」と心配してたら、「うまく伝わるかわからないけど…」と前置きした後、一生懸命に伝えたその言葉のすべてが素晴らしかったのである。

(おそらく不調のときに)ファンからかけてもらった声援や言葉がどんなに自分の力になっているかを、ピッチングの爽快さとは真逆の「たどたどしさ」で「つっかえつっかえて」、しかしどこまでも正直な言葉で伝えきったのだ。

ヒーローインタビューの人気者といえば「ありあとやっしたぁー!」と叫ぶような、お調子者。それとは真逆の、あまりの田嶋の言葉のたどたどしさに笑顔で見守っていたスタンドも、次第に「しーん」。やがて「じーん」。彼の心はまっすぐファンの胸に届き、その内面の成長を強く印象付けたのである。

シーズン前に私が予想 したように、田嶋は立派な先発のナンバースリー。ついにそのポテンシャルと精神面が一致したのだな、と思うと嬉しくてしょうがない。この日の戦う姿勢を見れば、その将来は限りなく明るい。

さて、この試合では話題の上位打線「福宗吉杉」はいまひとつだったのだが、愛すべきベテラン、T−岡田と安達が攻守でチームを引っ張り、意外な伏兵・若月が試合を決めた。日替わりヒーローが生まれ、追いついたりサヨナラの試合も目立つ。これはもう、強いチームの「あるある」であるある。





少々疲れの見えてきたブルペンには「張」という新しい逸材が現れ、能見さんがしっかり渋い役割を受け持っている。ベンチではジョーンズおじさんが用務員のように選手を見守っている(給料はぜんぜん用務員じゃないけど)。



貯金をなんとか減らさずに「夏休み」まで持っていけば、休み明けに山岡くんも復帰してきて、やはりこれはひょっとこするとひょっとこ?などと先走ってもしんどいだけなので、監督の言うように「ひとつひとつ」である。我々ファンも。

この日の試合を見て、大きな変化はあった。何より、各選手の顔が自信に満ちていた。気迫が前面に出ていた。シーズン序盤とはずいぶん雰囲気が違うのだ。世間に注目されることによって、プロ野球選手は大きくなっていくのだろう。その時は、きた。

「いまだ観戦試合、全勝や!(6試合やけど)」とほくほく顔で帰ろうとしたら、ドーム内のモニターで「今日のハイライト」が始まって、思わず立ち止まる。そのとき、同行の専属カメラマン(前回オリッ優勝時は小学校1年生)が、一言。

「ハイライトでは逆転負けしたりして」

うん。私も同じことを思っていた。染み付いた負の記憶は、負け犬根性は恐ろしい。なんと目の前の勝利にすら現実感がなく、確信が持てないのである。あかんあかん、自分のほっぺたを引っぱたいて事実と向き合おう。ファンを代表して、ポジティブ・シンキングをここに誓います。



今年のオリックスなら優勝できます!
2021年は皆さんにとって忘れがたい年になるでしょう!




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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」




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