南 郁夫の野球観察日記(21)
糸井ならやれるや♪

2016年11月24日(文/南 郁夫、写真/トモ)



とうとう糸井とお別れのときがきた。もうライトスタンドからあの「でかいケツ」が見れないのかと思うと、寂しい限りである。
2013年、まさかのトレードでオリックスに来てくれて以来、ほぼ全試合に出場。このチームには珍しいトレード成功例として「超人」の名にふさわしいプレイを見せてくれた糸井に、是非とも残ってもらいたい気持ちは強かったが…
それぞれの人生である。ここはもう4年間も「ええもん見せてもろたわー」と感謝して、気持ちよく送り出したいところ。


彼ほどの完成度を持った外野手は、なかなか現れることはない。走攻守そろっていて、スケールが大きい。打球の速さが半端ない。バッターボックスでの威圧感が凄くて、チャンスに強い。状況に応じたバッティングができる。凡退しても「糸井が打てないんならしょうがない」と思わせる説得力がある。つまり、オリックス打線で唯一?一抹の不安も感じさせないピースが、糸井だったのである。彼が登場するときの名物「旗振り」応援でわかるように、ファンの期待度と人気もすこぶる高い。

その糸井が!抜けるねんてっ!ええー!




あ… 気持ちよく送り出すんだった。でも、彼がFA宣言したとき「出ていくやろな」と思ったのも事実だ。というのは、せっかくチームは2015年に彼を「主将」に指名したのに(キャプテン(C)マークの旗まで作られた)、2016年には「主将を置かない」という方針で、たった一年でキャプテンマークを剥奪しているのだ。主将だったシーズンは確かに膝の故障もあって数字が出なかったが、それは関係ないだろう。故障を抱えても言い訳一つせずに出場しようとする彼の活躍には心を打たれるものがあったのに、である。

糸井はけっこう、これに傷ついたのではなかろうか。そしてこうも思ったのではなかろうか。「ヨッピ、やっぱ気楽な立場でやりたい」と。主将だった年、彼なりに頑張ってみたのだとは思うのだ。年齢も年齢だし、チームの中心選手的な振る舞いをしようと。しかし、マスコミが取り上げるのは主将になった糸井と記者とのこんなやりとりである。

「(ユニフォームに縫い付けられた)キャプテンマークに重みを感じますか?」

「いえ。けっこう軽い素材なんで…」

うーん。おもろすぎる。普通のセンスじゃ、言えん。

マスコミではこんな能天気な「宇宙人」的側面ばかりが強調される。しかし私は、彼ってわりと「繊細」だと思っている。スタンドから見ていると、外野手として守備位置や試合状況にかなり細かく神経を配っているのがよくわかるのだ。陽岱鋼みたいに合間にファンに手を振ったりしないし、坂口みたいにスタンドにガンを飛ばさない。今年、広島でちょっとした処理ミスを犯した糸井が、ベンチに帰って来てすごい勢いでグラブを投げつけたのを目撃したことがある。

試合前の練習では、チームの輪から外れて、静かにスウィングのチェックを行う糸井がいる。間近で見るとその筋肉は凄まじく、アンダーアーマーを着た宇宙戦士のよう。誰とも、喋らない。誰とも、つるまない。そこには世間が期待する「おちゃらけ」な糸井などいない。バッティングケージに入ると「殺気」すら感じさせる迫力で、他選手とは別次元の弾道ライナーをライトスタンドに着弾させていく。そして、金髪を光らせて「ふいっ」とベンチ裏に消えていくのだ。その様子がまさに「宇宙人」なのだが、世間で言われているのとは意味が違う。

「何を考えてるかわからない」と言われ続けてきた、糸井。名高いその迷言ぶりのせいか、最近は意図的にヒーローインタビューに登場することがなく、ファンへのわかりやすいアピールはなかった。彼にはなかなか単純な感情移入を許さない面があり、チームとしてはそこが手に余った面もあるのだろう。しかし反面、それが糸井の痛快な魅力であることも、事実。糸井は日本人選手とも外国人選手とも違う。宇宙野球戦士なのだから。

何を考えているのかわからないのではない。野球のことしか考えていないのだ。糸井は。
普段の言動が、地球の人間とは「ちょっと」違うだけなのだ。

というわけで、環境の変化は、糸井には吉と出る気がする。来年からは阪神タイガースの糸井となるわけだが、ここはひとつ、これまでの「オリックス→阪神(引っ越しいらず)移籍=期待はずれ」の定石を打ち破ってバリバリ打ちまくり、パ・リーグのポテンシャルの高さを示してもらいたい。糸井に地球年齢は関係ないし、実はクレバーなのでマスコミの挑発には乗らないだろう。糸井ならやれるや♪である。

「ヨッピハッピシェイクやね」(糸井史上最大の迷言)

交流戦での糸井との再会を楽しみにしよう。
で。ちょっとだけ気になるのが、金本監督が「センターで起用する」と言っているところ。やっと「右中間」という言葉を覚えたのに(有名な「右中間ってどっちですか?」発言)、「左中間」も覚えないといけないのは大変だろう。コーチの指示に「右往左往」する糸井が目に浮かぶのだが…

最後に。これはどうしてくれるの?て話だよ、糸井。







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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」





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