南 郁夫の野球観察日記(12)
チームを支える人たち オリックス打撃投手・山田さん

2016年8月15日(取材・文/南 郁夫)

「チームを支える人たち」前回ご好評をいただいた「マネージャー」編に引き続き、今回は「打撃投手」の素顔と実態に迫りたい。



早めに球場に行くと延々行われている、バッティング練習。かーん、かーんと気持ち良く飛んでいく打球に「ほげー」と目が行きがちであるが、ネットに隠れてひたすらボールを投げ込んでいる「黒子」のような人っていったい、どんな経歴でどんな気持ちなんだろう?
昔から興味があった打撃投手の実態に迫るべく、オリックス球団にお願いして紹介いただいたのが、伝説のベテラン打撃投手と言われる山田真実さん。
そしてインタビュー場所は、なんと!公式戦試合前の京セラドーム・1塁側ベンチだあっ。練習のため次々とベンチ裏から登場するオリックス主力選手の「ざす!」「ざす!」という挨拶を受けて「あわあわ」する中、関係者気取りでお話を伺ってきました。


<支える人 その2>
オリックス・バファローズ打撃投手
山田 真実(やまだまさみ)さん
 1967年生 和歌山高野山高〜85年ドラ2で近鉄・バファローズに入団。
 95年現役引退後、同球団の打撃投手〜球団統合を経てオリックス打撃投手。


−−ドラフト2位。高い評価での近鉄入団ですねえ。

「この年(85年)は、清原・桑田など高校生の当たり年でしてね。そんな中での2位指名は、ありがたかったですね」


−−現役時代はどういうタイプのピッチャーだったんですか?

「高校時代は球速で押すタイプでしたが、地肩で投げてて荒削りすぎたんですね。このままではプロではやっていけないということで、フォームを修正しました。フォームがいい投手は怪我をしませんからね。ずいぶんスピードは落ちましたが、コントロールや緩急重視のピッチングをするタイプでしたね」


−−当時の近鉄といえば荒々しい印象でしたが、実際そうでしたか?

「そうですね。野手の方が特にね。。金村さんとかね(笑)」


−−公式戦一軍初登板が89年の対オリックス・ブレーブスです。

「9回1アウトからと記憶してますけどね。一軍では敗戦処理が多かったんです」


−−現役時代のいちばん印象的な思い出といいますと?

「日本シリーズに出てるんですよ。巨人との、あの3連勝→4連敗のときの(笑)。第4戦、香田さんに完封された試合で投げまして(*)。よーいどんで(最初のバッターが)原さんですわ。で、フォアボール。そのシリーズ絶不調だった原さんにヒット打たれて乗せたらあかん、というので力が入ったんですかねえ… 初球はストライクだったんですが。それが一番の思い出であり、いまだに(フォアボールが)後悔でもあるんです。東京ドームで5万人に見られてる感じは、なんか気持ち悪かったですよ(笑)」

*1989年10月25日@東京ドーム。あの「流れが変わった」伝説の第4戦。山田さんは、0-5の7回2死1塁・バッター原の状況でシリーズ初登板。四球を出すも、続く中尾を三振に取る。8回も続投し、香田を三振、代打・緒方を二ゴロ、川相に単打を打たれるも岡崎を一ゴロに仕留めて、きっちり無失点。歴史にしっかり名前を刻まれておられるのだ。


−−そして95年に球団から打撃投手のオファーを受けられます。そのときのご心境は?

「数字(成績)が出てなかったからねえ。もうクビを覚悟していた状況です。28歳で家族もいるし、次の仕事・人生を考えていた時だったんで。ありがたいなあ、これでまた野球に携わらせていただけるなあという嬉しい気持ちと、いつまでできるのかなあ?という不安がありましたねえ」


ーそこから結局、打撃投手として21年でいらっしゃいます。山田さんほどのベテラン打撃投手って、他にはおられないんじゃないですか?

「同期がね、ロッテに2人いるんです。私と同じ年に近鉄にドラフト3位で入った福島(*1)、ロッテに1位で入った石田(*2)です。3人とも一度もユニフォーム脱いでないんですよ。お互いに切磋琢磨してるというかね、お互いの存在が励みになりますね」

*1 福島明弘 大宮東高〜近鉄 右投手 93年引退〜ロッテ打撃投手
*2 石田雅彦 川越工業高〜ロッテ 左投手 94年引退〜ロッテ打撃投手




−−打撃投手になられて、想像と実際はいかがでしたか?

「見てくれはね。簡単な仕事なんです。キャッチボールの延長ぐらいに思われてますしねえ(笑)。しかし、投げる相手はプロで厳しい競争をやってるわけで、練習も必死ですよ。そんな緊張感の中で常に狭いストライクゾーンに投げなあかん、という精神的プレッシャーがすごいんです。見てくれと実際の温度差がものすごい仕事やな、と思いました。そんな中でイップス(運動障害:野球の場合は主にコントロール障害)になる人も多いんですよ。ほんと、繊細な仕事ですね。打撃投手たちは打撃投手たちで、自分の位置を取られないようお互い競争してますしね」


−−山田さんの場合は最初からスムーズに対応できましたか?

「打撃投手になった最初の年から、大石さんや鈴木貴さんなどレギュラークラスに投げさせてもらえたのでねえ。周囲の判断からいうと、はまったのかなあと。だんだん慣れてはいきましたけど、最初の緊張感は大事にしていかなダメやなと思います。打撃投手になって3年目くらいに、中村ノリ選手やタフィ・ローズ選手なんかが出てきてね、彼らみたいなすごいバッターに投げれて、いい仕事させてもらったなあと思っています」


−−素人考えですが。手加減して投げるのは難しいと思うんですが、どれくらいの力で投げてるものなんですか?

「そうっと投げるわけではありませんよ。今投げれるMAXスピードの大体80パーセントで投げるわけです。1日に100-120球を継続して投げるわけですから、ペースを考えてね。キャンプ含めて年間10ヶ月投げれないといけませんから」


−−現役時代と投球フォームは違うんですか?

「それはもう、全然違いますね。だんだん、打撃投手のフォームになっていきました。バッターに調整してもらわなあかんわけですから、バッターからボールが見えやすく、変化しづらいフォームということでね。練習ボールというのはワンカード(3日間)同じなので、だんだんボールが歪んだり傷もつくわけですね。だから自然とボールが変化してしまう。それをできるだけ変化させないような、そういうフォームに自然となっていったんですね。どうしたら綺麗なまっすぐを投げれるか。いつも考えています」


−−まっすぐだけを投げるんですか? バッターからいろいろな注文があるものですか?

「基本は、まっすぐです。その日の試合の対戦相手によっては、たまにカーブを要求される場合もあります。選手によっては、緩急の差をつけてください、というのもあります。バッターは緩急に一番、惑わされますからね。コースの要求はないです。基本は外に投げます」


−−気持ち良く打ってもらうため、バッターのタイミングに合わせて投げるんですか?

「いえいえ。自分のペースで投げて、それにバッターが合わすという形です。試合でも、そうでしょ? 投手のタイミングに合わす練習は、打撃投手が相手でもしたほうがいいですからね。バッターは、バッティングの調子を上げるためというよりは継続のために打っているわけです。調子というのは、上がり下がりが必ずあるわけで、それより継続の中に成長を見出していくというほうがいいんじゃないかと、僕は思いますね」


−−投げている中で、バッターの成長をありありと感じられたりすることはありますか?

「今年いいなあ、とか、気持ちが変わったなあ、とか。ありますねえ。その選手が何をやろうとしてるのか、何年か後にどういう選手になろうとしているのかが、伝わってきますねえ」


−−自分のフォームのことなどを聞いてくるバッターはいますか?

「いますね。コーチは後ろから見てるわけで、前から見てるのは僕らだけですからね。選手も競争が激しい中、もがいていますからね。どの球団にも、自分に満足している選手なんて、一人もいないと思いますよ」


−−今、オリックスの打者では誰がグッときてるように感じられますか?

「自分が投げてる選手になりますけど…安達選手なんかねえ、大変な病気(潰瘍性大腸炎という難病)で体調面の管理が最重要課題な中でも、技術の向上を目指してる姿勢というかね、来年も再来年もレギュラーをはっていくんだ!という気持ちが、伝わってきますよねえ。あと、(新人の)大城選手は当初のキャンプから比べたら格段に良くなりましたし。T-岡田選手なんかも、振り込んで向上しようとする姿が見えますしね」


−−なんか「親心」って感じが、伝わってきます。

「チームの成績はもちろん大事なんですが、自分が投げてる選手の成績がやはり気にかかります。彼らが活躍して勝ったら、それが一番うれしいことです」


−−今までのご経験の中で、すごいバッターの思い出とかありますか?

「誰に投げても、違いはないですね。プロ野球の選手は技術的にはみんないいもの持ってるわけですから。その上でそれぞれのポジション(役割)があるわけでね。スーパースターだけでチームが成り立っているわけではないですから。まあでも、一流選手にはやはり、オーラはありますね。中村ノリ選手なんかはねえ、技術もパワーも向かってくる感じも抜けてましたね。日米野球で投げさせてもらったイチロー選手のミート率の高さや、バリー・ボンズ選手のパワーにも驚かされました」

*山田さんは、野球日本代表のチームスタッフとして侍ジャパンの打撃投手も務めている。


−−山田さんが考える、いい打撃投手の要素とはなんでしょう?

「怪我しないで休まないで、選手が安心して練習できる。選手が「あてにしてくれる」打撃投手じゃないですか。「無事これ名馬」じゃないですけど、体が痛くても休まずに投げれるっていうところじゃないですかね。僕はそう思ってます。僕は親に丈夫な体もらったんでありがたいです。常に次の日に元気で練習来れるように、体調を管理しています」


−−練習中に選手にボールをぶつけたことがないと聞いたんですが?

「むかし。山本和選手にスローボール投げてくれ、て言われてね。山なりのボールを「ぽーん」て投げたら「ぽてっ」と膝に当たったことはありますよ(笑)。指とかね。当たりどころ次第ではボールは凶器に変わりますので、その選手が野球ができんようなったら大変ですからね。当てたらあかん、という意識でやってますね」
(つまり、当てたことはないのだ。21年間)


−−逆に、打球が自分に当たったことは?

「ありますあります(笑)。足とかねえ。今はないですけど、5年目くらいまではね。慣れないうちは、どうしても投げた後にネットから体を出して、バッターを見てしまうんですよ(笑)」


−−後輩の打撃投手へアドバイスなどはされますか?

「コントロールの感覚は本人にしかわかりませんから。具体的なアドバイスは、ないです。今年から打撃投手になった小林くん(*)とはキャッチボールしたりしてね、感覚を失わない練習を自分のためにもやってますけどね。一度精神的にダメになるとガタガタといくんですよ。コントロールというのは、完全に精神面です。相談されたら、とにかく「あたふたするな」と。我々は「投げ姿」という言い方をするんですが、バッターが安心して練習できるように、堂々とした「投げ姿」を打者に見せろ、と言いますね」

*小林憲幸 1985生 城西国際大〜四国IL〜2007ロッテ育成〜2010四国・九州IL〜2016オリックス打撃投手


−−打撃投手は日本だけの文化と言われますが、その意義というものをどのあたりに感じられますか?

「体が小さい日本人がWBCで世界一になれたりするのは、練習方法が優れているからだと思います。大きい選手に勝つための、フォーム重視・データ重視の野球ですね。例えば、小さな打者が遠くにボールを飛ばすにはどんなフォームがいいのか。その練習のための打撃投手というのは、日本プロ野球が作ったいい文化だと思いますよ」

「練習で生きたボールを打つことが、いかに効果があるかですね。マシンは一定のペースで同じボールしか投げませんけど、人間が投げるボールは緩急がつくし、変化もする。人間のやることに対応する技術をつけるには、人間が投げるのが一番です。こうしてね。早く出てきて練習する(と言いながらグラウンド上を見やると、そこには早出特打の若手相手に投げる北川コーチの姿が!)。ああやって気持ちの込もったボールを投げてもらって打ってるから、成長していくと思うんですよ」


−−そろそろゆっくりしたい、とかはありませんか(笑)?

「もう無理やなあ、選手に迷惑かけてるなあ、と思ったらやめますけどね。まだそんなことはないんで。とにかくもっともっと野球を続けたいと思っています」


−−これからも投げ続けてください。ありがとうございました。




山田さんはその後、颯爽とグラウンドに出て、T-岡田、安達らのグループにバッティング練習の投球を開始。インタビュー時の穏やかな笑顔からは想像もできない「ピッチャーの顔」になった山田さんは、小気味良いテンポでグイグイと角度のあるボールを投げ込んでいく。それはもう「力投」と表現したくなるほどの迫力で、球速も想像以上に出ていることに驚いた。その堂々とした「投げ姿」は試合で投げる投手そのものであり、山田さんが投じる生きたボールを確実に打ち返す積み重ねが、選手たちの試合でのパフォーマンスに直結しているのだ。

びしゅっ!かーん!。試合前の緊張感が、ビリビリ伝わってくる。バッティング練習は遠目に見るとのんびりしているが、間近で見ると真剣勝負そのものだった。山田さんはバッターに気持ち良く打ってもらうことに、すべての技術と神経を集中させている。無駄な球は一球も、ない。さすがプロ野球。練習で打つ方の技術もすごいが、投げ込む打撃投手の技術もすごいとしか言いようがない。

投球の目的が変われど、打撃投手は投手そのものだ。生半可な技術ではできない。毎日120球もの球数を投げ続けるスタミナも、尋常ではない。山田さんは、プロ野球の世界で「投手」であり続けている。なんと30年以上も。すごいことである。

グラウンド上の山田さんからは、いい意味で近鉄バファローズ臭がぷんぷん漂う。昭和のプロ野球の息吹をたっぷり吸った山田さんのどっしりした存在感は、どちらかといえば小綺麗な若い選手たちに大いなる安心感を与えているように感じた。「見てくれ」は豪快だが、日本シリーズの舞台から二軍生活、そしてチームを支える立場で「さまざまなこと」を見てこられた山田さんの瞳は、慈愛に満ちている。その厚みのある人格がチーム内でリスペクトされていることが、よく伝わってきた。「仕事」が終わりベンチ裏に引き上げる山田さんの満足そうな笑顔が、渋い。

さて。インタビュー当日もその翌日もオリックスが連勝したのだが、奇しくもヒーローは両日とも山田さんが投げた選手たち。お立ち台での彼らの笑顔の向こうに、山田さんの喜ぶ姿が見えたような気がした。チームは、いろんな人に支えられているなあ。

山田真実さん。練習前の慌ただしい時間に、こちらの好奇心丸出しの質問に丁寧に答えてくださってありがとうございました。迫力?のあるご容貌からは想像もできない静かで繊細なお話しぶりから、ご自身の職業への誇りがひしひしと伝わってきました。その右腕で、いつまでもいつまでもオリックス・バファローズを支えてください。







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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」





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