南 郁夫の野球観察日記(14)
オリックス・バファローズ
今シーズン総まとめ 光は射したのか?

2016年9月18日(文/南 郁夫、写真/トモ)



あっという間に秋が来て、野球シーズンもあと数試合を残すのみっ。今年は元メジャーリーガーのお二人からチームをサポートする方々まで、いろんな野球人にお会いできたし、いろんな球場の裏側に潜入したし、夢のような広島遠征もしたし、ファールボールは取ったし、本当にいい野球シーズンだった。過去形か。あとはフェニックスリーグくらいですねえ。
なんて言ってるとオリックス以外のチームのファンに叱られるのである。

「試合状況いかんでは相手チームのファンになれる」という器用な観戦スタイルを持つ私だが、今年のオリックス戦の観戦勝率(自分が球場に行った試合の勝率)は5割を楽に超えており(サヨナラ勝ちも2回)、私としてはなんの問題もないシーズンだった。が、世間的には最下位ということらしい。ふーん…
でもそのおかげで(?)勇敢にもシーズン途中で来季を見据えた方向に切り替えた福良采配が、いろんな収穫をもたらしてくれたシーズンであったことは間違いない。

以下、日本一早い、今シーズンのオリックス・バファローズ「まとめ」である。


■T-岡田、ついに不動の四番に

私の観察日記(5)での「T-岡田#55を四番に据え続けていただきたい」という「お願い」が効いたのか(ないない)、福良監督はシーズン中盤から、ついに歴代監督がどうしても踏み切れなかった禁断の「T-岡田の四番固定」を貫いた。すごいことである。で。T-岡田も腹を据えたのか、最近では四番になりきって打席に入っているように、見える。そう。ファンとしては、なりきってくれればいいのだ。打てなくても。(中田翔は打てなくても怖いもん)が。後半の彼は課題の左投手からもファールで粘って決勝タイムリーをものにしたり、徐々に結果も出せてきた。

先日のブレーブス復刻試合前に始球式を行った山田久志さんが、T-岡田に「お前さあ、セカンドゴロなんか打つくらいだったら三振しろ」と耳打ちしたとか。で。その直後の初回に3ラン。そういうことなのである。超人・糸井にせめてホームランと打点では差をつけてほしい。そして、今年後半の四番としての経験を来季につなげてほしい。でも…
来年の開幕戦の四番が、聞いたこともないあるいは聞いたことのある外国人選手だなんてことは…ありそうなの? 福良さんっ。


■吉田くんの衝撃。若手の台頭



圧巻のスイングでレギュラーの座を勝ち取ったルーキー・吉田正尚くん#34。怪我での長期離脱で心配したが、ここにきて超ド級のホームランを量産する衝撃の復活劇で、監督もファンもニンマリである。やはり彼は「当たり」だったのだ。今のままでいけば、来季の三番打者は確定である。チーム構成上、これは非常に大きい。

実際に球場で見ていると、彼の打球音は「ボールの悲鳴」だ。それほどの凄まじいスイングである。大丈夫か?腰は? と思ってしまう。インタビューで農家の青年のような受け答えを聞かなければ、彼がルーキーだなんてとても思えない貫禄。ちなみにみんな(背格好から)「門田みたい」と形容しているが、背番号#34はナショナルズのハーパーにあやかったものなので、「ハーパーみたい」と言ってあげて欲しい。

その吉田くんとキャッチャー若月#37、2年目のセカンド西野#39は別格として。今年はサブグラウンドで汗を流した大城#10、奥浪#61や園部#00といった若者が二軍から上がって可能性を示してくれた年でもある。彼らの活躍は楽しかった。生え抜きの若者たちが二軍で鍛えられ、一軍を経験し、また落ちたりしながらもいずれレギュラーのピースに「ピシッ」とはまっていってくれたら、こんな嬉しい展開はない。福良監督と田口二軍監督との連携が2年目となる来年に期待である。


■平野の凄み。しかし投手陣のギクシャク

私が最も好きな投手は、クローザーの平野#16である。最終回に彼の「気持ちの入った投球」が見れることは、野球観戦の大いなる喜びだ。今年の平野は特に凄かった。えぐい、と言えるボールが何球もあった。イニングまたぎもこなし、何度も修羅場を切り抜けた。平野で勝った試合が何度あったことか。この平野がいて、そしてセットアップに剛腕・吉田一将#14や塚原#59、海田#47がいて、なんでオリックスは最下位なの? そうか。先発陣か。

金子#19、西#21、ディクソン#32の、三本柱。彼らの成績が…まあ悪いとまでは言えないが、誰も抜きん出て「エースの座」を張れなかったのが痛かった。一人でも防御率2点台の先発投手がいてくれたら随分と違ったはずだ。そして何より、それ以外の先発陣があてにならず、それがそのままチームの勝率の低さに結びついてしまった。そんな彼らも来季は頑張るとは思うけど、補強するとしたら、そこらを是非。

幸い、元オリックス〜エンゼルス・マリナーズの長谷川さんがオリックスとアドバイザー契約したそうだ。流暢な英語と現場で培った眼力を発揮してオリックスにふさわしい投手を探してきてくれることを信じたい。
それにしても。福良・田口・長谷川ラインって、なんだかブルーウェーブ臭がプンプンでないかい? 最後のピースは、あ。あの人? え?えええ?


■難病と闘いながら成長した安達

本人が一番悔しいだろう。野球選手として最も重要な時期で安達を襲った病。しかし、固い意志でそれと闘いながらの今年の安達のプレイは、その全てがプロフェッショナルだった。「安達の守備が見れただけでもよかった」と観客を納得させるその圧倒的な守備力、そしてチャンスに強い独特のバッティング技術。出場試合は減ったかもしれないが、今年の彼はひとつひとつのプレイの密度がとても濃かった。そんな中での7月の月間MVPは本当に立派。深刻な病気に立ち向かう勇敢な姿勢が、安達のプレイの次元を変えたのだ。その姿勢が、オリックスを上のレベルに押し上げてくれると私は信じている。


■そして番外編 祝!カープ・リーグ優勝



カープの優勝は、テレビで見ていてもやはり「ぐっ」とくるものがあった。あの試合での黒田の投球を見ていると、マジで「この試合で壊れてもいい」と思っている気迫が伝わってきて、ドキドキした。「エースを張る」ちうのがどういうことか、久しぶりに教えてもらった。そして、ついに悲願叶った彼の男泣きが全カープファンの涙腺を揺さぶる光景を見ていると、2006年FA取得時にファンが作った横断幕のあの言葉がオーバーラップして、胸が詰まるのである。

「我々は共に闘ってきた 今までもこれからも…未来へ輝くその日まで 君が涙を流すなら 君の涙になってやる Carpのエース 黒田博樹」

FAで去ろうとしている自分への温かく熱い言葉を胸に刻み込んだ黒田は、メジャーのマウンドで投げる夢を果たした後、ヤンキースの高額オファーを蹴って「黙って」カープに戻り、その最後の夢を本当にファンと共に果たしたのである。近年、こんないい話は聞いたことがない。

カープファンの懐が広いところは、新井のような形の「単なる出戻り」ですら、温かく迎えるところ。マツダスタジアムで聞いた新井への声援には、かつてのブルーウェーブの晩年の「藤井さん」へのそれを思い出させる「愛」を感じた。その「新井さん」がびっくりするような活躍を見せて、打撃の方で他選手を引っ張った今年のカープ。ちゃあんと、歴史が融合している。全てが「カープ愛」で説明できるところが、カープのすごいところなのである。

6月に現地で「神が舞い降りる瞬間」を目撃して以来、ずうっとカープのことが気になってしょうがなかったのだが。心配するまでもない、ぶっちぎりの優勝であった。ファンの気持ちを考えれば、胴上げがマツダスタジアムではなかったのが本当に心残りだが、まあ野球はそんなものだ。カープのリーグ優勝は、ただ単に今年のカープの成績が素晴らしかったということではない。そこにつながっていく歴史が素晴らしかった、ということだ。

「生え抜きの選手をファンと共に育てていく」

カープのチーム編成が今後の他チームのモデルケースになっていくなら、今年の優勝は計り知れないほどの価値がある。チームが弱かろうが、若い選手の成長を妄想しながら球場で野球をのんびり眺めて楽しむ。目先じゃなくて、何年後かの本当の意味での優勝を夢見る。プロ野球ってそんな感じでいいのではなかろうか?「優勝が至上命令の大補強」とか、もう戦争や経済みたいな言葉は、野球では聞きたくない。

というわけで、すっかりまとめに入ってはいるが、そこに野球がある限り、なんでも観察するのが野球観察者だ。まだまだ今年もどこかで野球は続く。それこそ、どこをひっくり返して探しても野球がない季節まで、キープオン・観察。なんだそれ。







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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」





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