1980年代はじめの、ある夜。大学生だった私は、大阪梅田のゲームセンターでのバイトを終え、今も変わらぬマルーン色の阪急電車・神戸線で家に帰ろうとしていた。梅田から約10分。仕事の疲れでうとうとしていた私は、電車が西宮北口駅に到着するべく「がくんっ」と減速した揺れで、ふと顔を上げる。と。沿線の建物の谷間から一瞬、鮮やかな照明灯の怪しい灯りがちらっと見える。
「あ、阪急…試合やってるんか」
遊びとバイトで忙しい大学生である。小学生の頃から地元の阪急ブレーブスをぼんやり応援してはいるが、久しく球場には行けていない。今夜は遊びの約束もなく、ヒマである。電車は駅に到着し、プシューっと扉は開いている。目的の駅はまだ先だが、なぜかその日は照明灯の光に誘われて、衝動的にホームに飛び降りる。
現駅舎では消滅した湿っぽい地下道をくぐって、球場方面へ急ぐ。改札口近くに設置された構内スコアボードを見ると、まだ2回が終わったあたりである。急いで駅を出て、小説「勇者たちへの伝言」の舞台にもなった駅前の喫茶店やカレー屋さん(*)の並んだ歩道を足早に行くと、すぐに西宮球場である。
*「カレー・サンボア」は学生しか入れない店であった。…
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