南 郁夫の野球観察日記(75)
がんばろう神戸2020

2020年1月10日 (文/南 郁夫)



昨年あたりから神戸・三宮駅周辺は大規模な再整備に入ったようで、通れたはずの通路が仕切板でふさがれたりして、騒然とした様相である。工事現場からそびえ立つクレーンと「ゴゴゴゴ」という工事の音は、あるものを私たちに連想させる。そう、25年前のありふれた光景を。

1995年1月17日の早朝、一瞬にして愛する神戸の光景を根こそぎ変えてしまった阪神・淡路大震災から、はや四半世紀。あの日私は、未体験の恐怖から正気に戻った自分の眼前に広がる光景を前に、とてもじゃないが神戸の再建は無理だと断じていた。

それが、どうだろう。神戸の人たちはがんばった。多くの犠牲を悼みながらも瓦礫の中から静かに立ち上がり、苦しくて先の見えない避難生活を耐え忍び、それぞれの再建に全力を尽くしたのだ。気の遠くなるような忍耐力を振り絞って。街中が、工事現場となったのである。



そして驚いたことに、地元球団オリックス・ブルーウェーブは球場の一部損壊もなんのその、「がんばろう神戸」を袖に縫い付けてペナントレースに参加したのだ。その奇跡的な快進撃は、いまさら説明するまでもない。スポーツで「勇気をもらった」「元気をもらった」という今では手垢のついたフレーズは、あの年のブルーウェーブのためにあったのだと言える。


あれから、もう25年なのか。

神戸の街は、あのとき瓦礫の山だったなんて信じられないくらいで、震災の形跡はない。若い人は震災そのものを知らないし、経験者の記憶も少しずつ消えつつある。それは当たり前のことだが、オリックスの優勝という記憶も消滅してしまったのは、なんとしましょうか!である。それ以来、四半世紀で一度も優勝していないとは。

チームは震災年とその勢いに乗った1996年を最後に優勝から遠ざかり、まさかの合併で名前が変わり、そして悲しむべきことに本拠地を大阪に移してしまった。震災年のオリックス・ブルーウェーブと現在のバファローズを同じチームと思え、と言われても神戸の人間としては「むず・・・」というほかはない。

2020年現在、「がんばろう神戸」の一体感は(野球に関しては)ほぼ失われてしまった。



手元に、今年のオリックス・バファローズのスケジュール表がある。準本拠地である神戸開催は例年より減り、なんと8試合のみ。連日イチローコールで湧き上がったグリーンスタジアム神戸を知る身としては、寂しい。が、8試合でもやってくれることを感謝するしかないかなとは、思う。

チームは、絶賛若返り中である。震災年に生まれてもいなかった若者がベンチの大半を占めている。彼らは「がんばろう神戸」と言われても「?」だとは思うが、「球場」も記憶を持っていることを忘れてはならない。あの芝生のフィールドは、震災年の神戸のファンと選手たちのスピリットを忘れてはいない。

神戸で試合をやるということは、そういうことなのである。



「あの頃」を知るオリックス・ファンはぜひ、グリーンスタジアム神戸(現・ほっともっとフィールド神戸)に足を運んで、そのときばかりは選手をブルーウェーブ戦士に見立て「がんばろう、神戸では!」と唱えてほしい。球団もせっかく復刻ユニを作ったのだから、神戸開催ではブルーウェーブ・ユニ着用としてほしい。

え?私ですか?

もちろん日本一安い?(当社比)シーズンチケット、「神戸専用シーズンシート」を購入済みですがな。この球場でオリックス見守る歴、31年(1989年からオリックスが使用)なのである。

夢よ、再び。今年もしっかり現場主義(8試合だけど)の、野球観察者をよろしくお願いいたします。






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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」




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