南 郁夫の野球観察日記(5)
オリックス・バファローズ「T-岡田が四番ですが、なにか?」

2016年6月10日(文/南 郁夫、写真/トモ)



他チームの四番打者って、どうして「打ちまくってる」イメージがあるんだろう? おかわり君“ぶひーん” 中田翔“どりゃー” みたいな。
単にオリックス(以下:オリッ)投手陣がもれなく打たれてるからか? ダイジェスト映像ではいいシーンばかり映るからか?
それにくらべてうちの四番は…えっ? 5月までのオリッ四番(ナカジ…も、モレル)の打率って2割に満たなかったの? じゃ、駿太が四番でもよかったやんっ、ていうか勝てるわけないやんっ。

という状況下で、6月3日のヤクルト戦から福良監督はついに“意を決して”(笑)T-岡田を四番に据える。すると!なんとその3連戦で7安打8打点3ホームランの大活躍っ。
「Tが四番ならオリッは勝つ!」(連日、平野の感動的な火消しもあったが)の方程式どおり、チームはヤクルトを3タテ(あぁ甘美な響き)し、まだまだ自力優勝をあきらめていないことを示したのである。

ついでに言えば、自力だろうが他力だろうが、優勝できるならどっちでもいいし、そもそもクライマックスにすべりこめばいいので(暴言)、まだ6月ちうのに「自力優勝の可能性消滅」などというネガティブ報道は、なんの意味もない。やめていただきたい。

で。T-岡田。

私は。T-岡田君の大ファンなのです。あの、日本人にあるまじきホームラン弾道が、大好きなのである。いまや絶滅に瀕する希少動物種となりつつある「和製大砲」。いま作った「和製大砲保護協会」会長として私は、T-岡田ほどの才能は「ほめてほめてほめてっ」「我慢して我慢して我慢してっ」四番に据え続けていただきたい、とずっと思っている。
でも。歴代どの監督にも、そうはしていただけない。

T-岡田も、はや28歳。スタメン定着は2010年なので、実働5年として昨年までの通産打率は.262、105ホームラン、394打点。
てことは年間20ホームラン。生え抜きの四番として認めても、充分イナッフではなかろうか? 甘いのか?私は。
でもそれ以下の成績のFA選手や外国人選手に四番を打たせるよりは…と、ファンなら思ってしまうよ。「三連戦で一発くらい“すごいの”見せてくれたらいいからー」くらいのおおらかな気持ちでは、ダメなのか?

歴代監督たちは、ダメだった。

タイトルホルダーなのに(2010年ホームラン王)、毎年キャンプで聞こえてくるのは「労働基準法違反」の猛練習。そのあげくの、故障。
シーズン始まったら始まったで、いまだにどの監督下でも恒例の「謎の二軍降格」ってなあ、若手じゃあるまいし。(ウィキペディアでの彼のページの文中写真が「@鳴尾浜」なのが、泣かせる)
唯一彼を四番に育てようとしたA岡田監督は、「お仕置きの四番」とドヤ発言し、優しい彼を困惑させていた。

優しい。

確かに彼の言動は、そのゴジラな容貌とは裏腹に、優しそうに見える。ボールを「しばきあげるっ」などという(だ、誰っ?)ぎらぎらした表現は、彼から発せられたことがない。外野を守っているときの彼は、原っぱで草を食らう無害な牛のようだ。
で。グラウンドでのデフォルトの表情は「微笑」。それが、昭和野球人監督コーチたちの「指導者魂」に火をつけてしまう。でも、その微笑の奥底に秘めたる力は、とてつもない。そこが、魅力なのだ。



数々のシーンを、私は現場で見ている。

2010年9月、肉離れが完治していない状態での代打起用にこたえた、西武戦でグラマンから放った決勝満塁ホームラン(とA岡田監督の涙)。
2014年6月、甲子園を静まり返らせた、福原からの起死回生の逆転3ラン。
そしてなんといっても、同じ年の10月、クライマックス1stステージ第2戦の8回裏。京セラドームを狂喜の坩堝に陥れた、日本ハム・谷元からぶちかました、逆転3ラン!

T-岡田のバットが一閃した途端、世界は変わる。聞いたこともない「ぎんっ」という炸裂音の瞬間、もやもやしていた球場の空気が「一変」するのだ。他のどの打者のホームランと質感が異なる、まるで映像がモノクロからカラーに変わるような、衝撃。ここ一番で、それが出る。T-岡田は、特別なのだ。その瞬間の球場全体の驚嘆と熱狂のうなり声が、耳から離れない。

でも。いくら活躍しても次の日にはなんとなく「すまなさそうに」プレイしている、T-岡田。他チームのファンから「怖さはないっ」(当社調査による)ときっぱり言われちゃうT-岡田。ちょっと打てないだけで、打順もフォームもいじられちゃう、T-岡田…だったのだがっ。

2016年。シーズン早々、恒例の「降格」で二軍監督の田口さんにメンタルを鍛えてもらったT岡田は、再昇格以来、言動がすっかりポジティブになっていた。「完璧」と言い切るホームランを、連発。フォームにこだわりすぎて調子を崩しがちだった部分を、克服しつつあるように見える。何より「勝ちたい」という気持ちを前に出している。

成績も規定打数に足りないながら、ホームラン12本、打率も三割超えと順調で(6月8日現在)、5月末にはチームの天敵である西武・牧田から「片膝着いて」ホームランを放つという、今までにない「泥臭い」面も見せてくれた。

T-岡田は、変わりつつあるのだ。

ちっとばかり左投手に弱かろうが、従来の肉食四番のイメージに比べてなんとなく物足りなく感じようが、ファンはT-岡田が四番だと納得できる。
えー。オリッの監督さんにおかれましては、「ほめてほめてほめてっ」「我慢して我慢して我慢してっ」彼を四番に据え続けていただきたい。きっと、そういうほうが、伸びる子なのです。

「どこかに四番はおらんかえー」とよそから見つけてくるのではなく、T-岡田を四番に固定できた時。オリックスの未来の光が見えてくると、私は信じている。そして彼が(微笑しながら)それにこたえてくれる、とも。

そう。T-岡田を、みんなで「ほめて」育てましょう!







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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」





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