南 郁夫の野球観察日記(102)
野球観察クラシックス「かにとねこの、あいのこ」

2022年2月8日 (文/南 郁夫、写真/Yasutomo)


今でこそオリックスには山本由伸という絶対的エースがいますが、山本の前にエースといえたのは、金子千尋でしたよね。日ハムに行って下の名前(漢字)を変えてましたが、今年からまた戻すんだとか。ややこしーな。
それにしても、移籍してから彼が極端に低迷しているのは、申し訳ないような気になります。あれほどの投手が何故?とか言いながら、活躍してたらそれはそれで文句言いそうな、ファン心理。

2010年あたりからの金子は、調子がいいときは本当に手のつけられない投球をしていました。山本が「剛」とすれば、金子は「柔」のエース。タイプは違いますが、2人とも球場で見ていて本当に楽しい投手。今回はその金子の黎明期、ローテーションに定着した2008年の神戸開幕戦を見に行ったときのコラム。この年、パ・リーグは3月20日に開幕しとりますね。早っ。


「かにとねこの、あいのこ」 
2008年3月28日@グリーンスタジアム神戸(スカイマークスタジアム)

内野の「前進守備」を見るのが、好きだ。

相手に1点もやれないゲーム展開の終盤。1アウト・ランナー三塁。マウンドの金子が「π(パイ)」のように見える独特のセットポジションに入るやいなや、それまで食べ残しのピザのような陣形でおおらかに守っていた内野手(カブレラ、後藤、大引、ラロッカ)が突然、円心に位置するキャッチャー日高めがけて忍者歩きで「つつつ」と前進する!

そして、「ぴたっ」と内野の芝生の上で引き締まった正方形を作ってみせたところで、投球がホームベースに到達。打者がバットを動かさなければ、また元の位置に「引き潮」のように戻っていく…。これを打者が打つまで延々繰り返す「前進守備」の厳格な儀式。

その幾何学的変化の性急さ、「本塁封殺」という攻撃的意思を持った内野手の切迫感のある表情が、こののんびりしたスポーツに突然「非常時」感を与え、あくびをかみ殺していた観客に「今夜はなんか、ええ試合やないか」という満足感を与えてくれるのだ。

この守備陣形の変化を俯瞰で楽しめるのはGS神戸(スカイマークスタジアム)の2階、「ヘブンズシート」しかないんだよね〜。そう。本日が私にとっての開幕日。GS神戸で今季初の公式戦が行われたのでありました。



この日は岩隈と金子という豪華投げあいで、とてもオリッと楽天の試合とは思えぬ?好ゲーム!でして。金子は立ち上がりこそキレが悪くて山崎に先制打を打たれるも(2日前に先生が「お腹が痛い」ちう理由で欠場したのにはのけぞった。小学生か!)、その後は打者が片膝ついて振っても当たらない「縦カーブ」がキレまくりの、小気味よさ。

しかし金子以上に素晴らしかったのが、対する岩隈!この日はもう、これまでの不振がウソのような、とかいう次元ではなく、全投手合わせても1年に何度も見れないようなレベルの快投!「ため息」が出るようなスムーズな投球で、バットにかすらせもせずキャッチャーミットを響かせる「スパーン!」「スパーン!」という音の連続が、ひたすら心地よい。マウンドという舞台で190センチの長身が華麗に舞う姿は優雅で、女性的ですらある。楽天の内野(草野、高須、渡辺)が揃いも揃って小柄だからだと思うが、岩隈が「コビトを引き連れた白雪姫」に見えてくる。

結局、岩隈が鮮やかな完封勝利を収めた試合だったけど、金子も岩隈もテンポいいし四球出さないし、常々「球場で投手戦だけは見たくない」て言ってる私だが、今日のはなんだか爽快で、よかった。

それにしても(今年も)貧打のオリッがなあ…。カブレラは試合前のいい加減な守備練習態度にのみ「らしさ」が出ていたが、本来の快音を早く聞かせてほしいものだ。西武時代にこの球場の同じ場所(三塁側2階席の外野寄り)で見た、スカッドミサイルのような距離計測不能の「場外大ファール」が忘れられないんですけど。

さて。春休みということで球場にはガキんちょグループが多かったけど、よく聞いてたら、子ども同士の会話っておもろいね。

「金子って かにとねこ のあいのこやで!」
「え!そうなん?」

なんてやってるうちは可愛かったけど、だんだん「何も起こらない」展開に飽きてきて、最後は

「なあ。野球て、見てておもしろいん?」
「…わからん」

うん。おじさんもたまに、わからんぞ。




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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」





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