南 郁夫の野球観察日記(101)
シーズンオフ企画・野球観察クラシックス「WBCより神戸サブ!」

2022年1月30日 (文/南 郁夫)


いまだに誰にも同意されたことがありませんが、私はWBCに興味がありません。そもそも野球という牧歌的なスポーツは国際大会に向かないと思うし、選手が醸し出すプロにあるまじき必死こいた雰囲気やそれを煽るメディアの幼稚な盛り上げが、気に入りません。あ、また友達が減っていく音がします。…もともといません。

以下のコラムはイチローの決勝ヒットで語り継がれているそうな2009年のWBC(3月に開催:オリッからの出場者ゼロ)の大騒動を横目に、いそいそと神戸サブ球場に出かけたときの日記です。みなさん耳にイカができるほど聞かされたと思いますが、グリーンスタジアム神戸が私の最愛の球場なわけです。が、同じくらい神戸サブ球場も愛しておりました。

グリーンスタジアムから単調な歩道をてくてく歩くこと約10分(最後の地味な坂道がけっこう辛い)のところに、野球の小楽園があります。実はグリーンスタジアムよりスタンドからの眺望が良いこの球場は、何しろ気楽で開放的な雰囲気が最高でした。すでにチームが大阪に本格移転していたこの年、一軍の開幕はもちろんドーム。まだ舞洲はなく、辛うじてファームは神戸で試合やってたんですねえ。

平野佳寿がひょろっとしてて、抑えに回る前の話です。
「浪速のゴジラ」岡田はまだTではありませんでした。


「WBCより神戸サブ!」


2009年3月27日@神戸サプ休場

国を挙げてのWBCの「感動と熱狂」を薄目でやりすごし、私にとっての野球が、ようやく開幕する。2009年のシーズン開幕前に初めて野球を楽しむべき場所は、愛すべき「神戸サブ」球場に決まりだ。教育リーグの練習試合であるが、そんなのはどうでも良い。

もうサーパスですらなくなった「オリッ二軍」たちのお相手は、今年から四国・九州アイランドリーグとなった独立リーグからお越しの「香川オリーブガイナーズ」の皆さんだー。

ちなみに「ガイナー」とは香川の方言で「強い」てことだそう。チーム名が形容詞だぞー、まいったか。オリックスもバファローズやめて「強いでズ」に改名だ。で、香川の監督はあの元カープで元祖・打撃の天才の西田真二だぞ。プロ初安打は江川卓からだぞ。

んで。WBC中継には興味ないのに、二軍の練習試合に向かうというのに総合運動公園駅から「早足になっちゃってる」のは、どうなんだ?私。問題あり?いえいえ。ちと試合開始に遅れちゃったっていうのもあるけど、企業の倉庫などが整然と並んだ先にある「サブ球場」に近づくにつれて聞こえてくる、野球選手の掛け声や打球音が私を早足にさせるのよ。

あーやっぱり、わくわくするやないかー。久々にこういうの聞くとね。

で。球場に入るなりマウンド上に平野佳寿が目に飛び込んできて、小躍り。ヤバい人か!調整登板なんだね、一軍の平野が。独特の角度で昆虫のように曲がる長い手足を操って、昨シーズンをケガで棒に振ってた平野がグラウンドに帰ってきたのだ。



おー。「急ブレーキのかかる」よな変化球は相変わらず!平野レベルのボールがコーナーに決まればそら独立リーグレベルではそんなもん、手も足も…手も足も… カキーン!!

あり?

らしいといえばらしいが、わりと頻繁にクリーンヒットを浴びながら、要所だけ「びしっ」と決めてた、平野。調子いいときの「圧倒的な」雰囲気はまだないが、早いカウントから内野ゴロを打たす
テンポは、健在ね。なによりも結局9回を投げきったので(2失点)もう体のほうは、心配なさそうだ。いよいよ楽しみな、今年の一軍ローテ!

いつも平野の節足動物系の体型って何かを連想させるなぁと思ってたんやけど、この日マウンド上の平野を見てて「はた」と思い当たったのが「羽根をむしった蝶」(もちろん、むしったことなんてないけど)な。羽根があれば青空にひらひら飛んでいきそうな気がする、平野。ポテンシャルはダルや岩隈レベルと感じておりますよ。今年が勝負だよな、今年。

さすが平野クラス相手じゃ香川の打者が可哀想だった面はあり、試合は7−2でオリッ二軍が勝ったは勝ったのだが、オリッ二軍の打線のほうは迫力っちうもんが、ない。

「浪速のゴジラ未遂」岡田がなんとなく好打者風にまとまってきてるのが気になるし、古木、木元、由田あたりおんなじよーうな左打者ばっかりで、悪くはないんやけど…迫力がない。「不良外人パブ」の様相を見せる一軍状況(スタメンにカブレラ、ローズ、ラロッカ、フェルナンデス)を考えると、よほど爆発的な実力を見せつけないと上へ行くんはどう考えても厳しい…そんなムードが蔓延しているサーパスですらない、オリッ二軍。

なにが気に入らないって、序盤にこつこつ単打集めて7点取ったはいいが、香川の中継ぎのけっこうイケてる左投手を(松居くん#19)オリッ打者がそろいもそろって「ぷっすん」とも打てなかったこと。言葉は悪いけど格下リーグとやってんだから、難なく打ち崩してほすい。

「ほろり」としたのは、最後に四国アイランドリーグ(愛媛)から昨年育成選手としてオリッに入団した梶本#99が10回に登板し(注:練習なので勝負に関係なく試合は10回まで)かつてのリーグ仲間に投げたこと!無難に抑えて。よかったよかった。これは独立リーグの選手たちの「励み」になるわな。

こうして野球の裾野が垣根なく広がってきてる昨今の状況は、なかなかに素晴らしいではないか。いろんなリーグがあるから野球を続けられる環境があり、そこから逸材をNPBに吸い上げて、そんでまたその頂点をMLBが吸い上げて…それはぜんぜんいいことだ。みんなが最後の最後まで「自分なりの」夢を追えればいい。

試合終了後、香川の選手がずらり並んでオリッのベンチに向かって「古屋監督!ありがとうございましたあ」と恥ずかしそうに叫んで、それにこたえて古屋監督が、

「また、やろや!」

て叫んだ、そんな光景を私は愛する。見に来てよかったな。

何度も言うが、私の立ち位置は揺るがない。目の前の身近な野球を「ながめる」だけだ。できれば、キャッチャーミットから上がる白煙が見えるほどに、近くでね。

神戸サブの開放感は相変わらずだった。そこには、さりげない野球の光景があった。会社の休み時間なのか、作業服で野球を眺めて過ごす人が多くて、そういうのが平和だなあ。人工芝(張り替えられていた)なので、芝生のにおいはしないけど。

夕暮れのムッとする湿度を含んだ風が天然芝のかおりを運んできてくれる「野球の幸福」は、初夏のグリーンスタジアム神戸までおいておこう。

やっと「絶叫のない」野球が、始まるね。

*現在、香川オリーブガイナーズのコーチはコンちゃん・近藤一樹。まだ投手兼任なのかは不明だが。球場も素敵そうだし、見に行って見ようかなー。






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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」





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