南 郁夫の野球観察日記(97)
オリックス、感動の2021年シーズンを振り返る
ボイス・ナビゲーターの神戸さんにインタビュー

2021年12月23日 (文/南 郁夫、写真/編集部)


オリックス・バファローズにとってもファンにとっても忘れられない年となった、2021年。
そんな2021年を振り返るお相手はこの人しかおらんやないか!ということで、今年最後のコラムはボイス・ナビゲーターの神戸さんへの再インタビュー。
前回インタビュー時(2018年)ルーキーだった神戸さんは、4年目のシーズンにして日本シリーズにまで登り詰めたのだ。しかも最終戦の舞台は、ホームタウン神戸。彼にとっても劇的な今シーズンを、魅惑の低音ボイスで振り返っていただきましょうぞ!


ー今年は例年になくCSや日本シリーズまであって、本当にお疲れ様でした。

「いえいえ。たくさんお仕事させていただいて、ありがたかったです。僕としては、日々の業務をしていたらチームが勝ち続けてくれただけですけどね(笑)」


ー神戸さんから見て、どのあたりで「いけるかな?」と思いました?

「シーズン序盤は、選手交代の回数やバリエーションが多くてアナウンスも大変でした。サード・福田、ファースト・宗なんてケースもありましたもんね。それが、交流戦以降は布陣が固まって、選手交代のパターンがある程度予想できるようになりました。そういうのってチームが強くなったことかな?と感じましたね」


ー具体的にはいつごろ?

「6月の交流戦後半から引き分けを挟んで11連勝があり、その後連敗して「あれ?」と思ったらそこからまた引き分けを挟んでパ・リーグ相手に5連勝したところが、まずひとつ。もうひとつは9月末に首位のロッテに千葉で3連勝して相手のマジック点灯を阻止したところで「これはいけるかな?」と思いましたね」


ービジターの試合も全部観ているんですね?

「仕事がなければ観ていますよ。そのときはファンとして」


ー前回インタビューさせていただいた神戸さんのデビュー年から4シーズンを経過しましたが、ボイス・ナビゲーターとして変化してきた点はありますか?

「選手の後押しになれるように、その試合がお客様の思い出のワンシーンになるように、というポリシーはずっと変わりません。が、そこに到達する手段、道筋は経験から変えていっているところはありますね」


ーどのような点でしょうか?

「まずは発声ですね。得意の低音をなるべく使いたいと思っていたのですが、やはり聞く側からすると高い声を聞いた方がテンションが伝わるところはあるよなあと。試合展開を考えてですが、低い部分と、まあ僕の場合、高いといってもミドルミックスくらいですけど、使い分けるように意識するようになりました。あとは、宗や来田など名字が2音の場合は名字と名前のコールの間に「一呼吸」おいた方がいいな、とか。奥が深いですね」


ーリーグ優勝やCS突破の瞬間などは、ちょっとアナウンスが上ずっているように聞こえたのはそれで?

「それは…素直に嬉しいのと両方かもしれません(笑)。ファンとしても関係者としても優勝はしたい、優勝の後押しになれたらいいなとずっと思っていましたので」



ー歓喜の瞬間はどんなかんじでしたか?

「リーグ優勝のときは、なにか現実離れしていて…思っていたのとは違いました(笑)。どうしていいかわからない、という。喜んでいる選手たちを見て初めて嬉しさが込み上げましたけど。CS突破のときは、小田選手のヒットの瞬間にそれまで経験したことのないような球場の爆発的な盛り上がりを感じたんですが、そのときまだサヨナラのランナー(山足選手)はホームインしてませんでしたよね(笑)。気持ちを抑えて「日本シリーズ進出決定!」とアナウンスするタイミングを冷静に測ってました」


ーリーグ優勝してご自分の周辺に変化はありましたか?

「優勝してというよりは、日本シリーズが神戸に帰ってくると決まったときに、普段連絡を取っていないような知人から「帰ってくるね」とか「ありがとう」とか声をかけていただきました。選手でもないのに感謝してもらって、嬉しかったですね」


ーやはり、神戸での日本シリーズは特別でした?

「自分がファンとしてオリックスを見続けた球場ですし、もちろん気持ちが高ぶり、特別な感情がありました。おそらく将来もうあり得ないでしょうし、奇跡の積み重ねで実現したわけですから、それに対する感謝の気持ちでいっぱいでしたね」


ーその神戸で全てが終わった瞬間の気持ちは?

「もちろん第7戦もやりたかったですが、負けて悔しいというよりは「神戸でやってくれてありがとう」という気持ちの方が強かったです。人生の財産になりました」



ー神戸で日本シリーズのアナウンスをしたのはDJ木村さんと神戸さんだけです。

「憧れのDJ木村さんと一緒なのは嬉しいです。実は昨年のイベント(THANKS KOBE 〜がんばろうKOBE 25th)で木村さんがアナウンスしたときに横でお手伝いをしまして、そのお礼にと今年の9月の京セラの試合を見にきてくださって、いろいろアドバイスをもらったんです」


ーどのようなアドバイスを?

「僕は選手名を音やアクセントで考えて発声していたんですが、木村さんはその選手のプレイスタイルを考えながら声を出すといいよと。例えばTー岡田選手であれば、ホームランの放物線をイメージした発声にする、安達選手であれば守備を意識した発声にするとかですね」


ーボイス・ナビゲーターとしての一日はどんな感じですか?

「試合開始の4時間前に球場入りして、まずは話す内容の打ち合わせです。それを自分なりに咀嚼して考えてチェックしてもらって、開場したらすぐに仕事が始まる流れです」


ー年々、自由度は増えてきましたか?

「今は、話す内容などは自分で決めています。もちろん球団に確認は取りますけど、任される部分は増えてきました。「自由にやっていいよ」と言っていただいてますので、ありがたいですね」


ー技術的な話になりますけど、試合はモニターで見ているんですか?

「いえ。(直接)バッターと主審を見ています。打ったときはボールとランナー。基本、ボールを追っていますね。そして(選手交代の可能性を確かめるため)ベンチも見ます」


ーもちろんオリックスを応援するという気持ちは封印して?

「ファンの気持ちでは見れません。試合進行を正確に把握するのが第一です。僕で時間をとってしまって試合が止まることだけは避けたいですからね。運営第一で。試合中はファンであることは忘れて、試合が終わってから一人で今日の試合のことを噛み締めます」


ーパ・リーグ全員となると選手が多くて覚えるのは大変ではないですか?

「ビジター選手の名前などは壁に貼って正確に読めるように準備しています。オリックスの選手でも初めて(一軍に)上がってきた選手の発声の仕方は意識します。何度かアナウンスしているうちにベストな発声に改善していきますね」


ー肩入れする選手はいますか?

「肩入れする選手はないようにしています。試合状況に関係なく盛り上げたりするとアナウンスのバランスが崩れるかなと思うので」


ービジターチームのアナウンスはどういう意識で?

「オリックスの選手は登場曲のメロディやテンポに合わせて発声するので、ある意味では自由ではないんです。ビジター選手の方が自分を表現しやすいかも。持ち味を出せる瞬間でもあるかなと思います」


ー状況によってあえてアレンジを加える場合もありますか?

「例えば今年の日本シリーズ第2戦では、9番ライト坂口でしたよね。(オリックスにいた選手でもあり)気持ちを込めてアナウンスしましたよ。2019年にロッテの安田選手が初スタメンだったときには、急な昇格でベンチにいることを知る人も少なかったので、スタメン発表で「6番DH…」であえて一呼吸置いてコールしました」


ーだいぶ顔も売れてきて、ファンの方に声をかけられることも増えてきたのでは?

「まあたまに(笑)。でもオリックスファンの方はマナーがいいので、ちゃんと距離をとって声をかけていただいたり手を振っていただいたりで、ありがたいです」


ー来年はチャンピオンチームのボイス・ナビゲーターなわけですが、何か変わりますかね?

「もちろん気分は変わります。一番強いチームのアナウンスができるわけですから、名誉なことです。でも前年は最下位だったわけで、その両面を忘れない気持ちで仕事をしていきたいですよね」


ーじゃあ来年はそこらあたりと、先ほどお話しいただいた各選手のプレイスタイルをイメージしたコールに注目していればいいですね?

「はい(笑) それと、状況が許せばよそのチームの球場アナウンスの研究に行きたいです。得るものがあるでしょうから」


ー本日はありがとうございました。今後も期待しています。


年々、熟成している神戸さんのアナウンスに、来シーズンも注目である。
考えてみれば代役はいないのだ、神戸さんには。コロナ禍の規制があり、発熱でもすればアウト!な状況で全イニング出場を果たし続ける神戸さんの価値は上がるばかりである。
しかし、マジでアウト!なときはどうするんだろうか…?




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南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」





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