南 郁夫の野球観察日記(61)
チームを支える人たち オリックス通訳・荒木さん

2018年9月15日(取材・文/南 郁夫、写真/トモ)


久しぶりの、支える人シリーズ。今回は「支える人たち」の中では比較的ファンの目に触れるケースの多い、あのお仕事。例えば外国人投手のもとにコーチが駆け寄るとき、あるいはお立ち台に外国人選手が上がるときなどに必ず寄り添っている人といえば… そう。通訳の方である。オリックスでは昔からヒゲがトレードマークの藤田さんが有名であるが、藤田さんは野手担当。
 今回インタビューしたのは、外国人投手がお立ち台に上るときに必ず一緒にいるあの人! 一軍投手担当の通訳、荒木さんである。9月1日(火)ほっともっとフィールド神戸での西武戦の試合前に、お話を伺った。


<支える人 その5>
オリックス・バファローズ 球団本部 国際渉外部 通訳
荒木 陽平さん


−−プロ野球チームの通訳という仕事に至るまでの経緯を、教えていただけますか?

「高校(広島県・広陵高校)まで野球をやっていましたが、立花龍司さん(*)の活躍で脚光を浴びていた「トレーニングコーチ」になりたいなと思いまして。野球に関わる仕事に就きたいと、卒業後、1999年にアメリカの大学に留学して、資格を取りました。帰国して東京で3年ほどアマチュアのトレーニングコーチをしていたのですが、プロ野球界に入りたいと思って12球団に履歴書を送ったところ、楽天イーグルスから「通訳」を探しているというお話をいただき、採用されたんです」

*立花龍司さん
 近鉄・ロッテで日本初のコンディショニングコーチとして活躍後、1997-2000年にメジャーリーグのコーチとしてニューヨーク・メッツで指導した実績を持つ、日本における合理的トレーニング理論の先駆者。近鉄時代、最新のトレーニングに反発する指導者もいる中、後にメジャーリーグで大成功を収める野茂英雄と築いた信頼関係は有名である。


−−当時の楽天の外国人選手といいますと?

「2008年から2011年まで楽天にいたのですが、フェルナンデス、ラズナー、セギノール、リンデン、ルイーズといった選手たちですね。個性的な選手も多く、いろいろな経験をさせていただきました」


−−そして2012年にオリックスに移られたわけですが、投手担当の通訳なんですね?

「1年目はファームでの通訳をしましたが、2年目からは1軍の投手担当です。藤田チーフ通訳がおられますので、野手はお任せしています」








−−具体的に通訳というのは、どのあたりまで選手をフォローするものなんですか?

「仕事は24時間だと思っています。彼らが日本にいる間は、いつ電話がかかってきても対応できるように気を張っていますね。例えば、彼らの子どもが病気になったときなど救急の病院を探したり… そういうケースはそれほど頻繁ではありませんけど」


−−当初の目標であったトレーニングコーチとは異なるお仕事ですが、そのあたりは?

「野球界に入るステップだと思い、通訳から始めたんですが、やってみて面白いなあと思って。かれこれ10年ほど通訳をやっています。楽しいですよ(笑)。もともと裏方でいたいと思うタイプなので、選手を支える仕事はやりがいがあります」


−−いちばんやりがいを感じるのは、どういうときですか?

「選手が怪我せず健康でいてくれるだけで、嬉しいです。もちろん活躍すれば、もっとうれしいですけどね」



−−ときにはアドバイスなども?

「アドバイスはしないです。聞き役に徹していますね。外国人選手は仕事の愚痴を家庭に持って帰りませんから、僕が聞いて味方になってあげないといけないと思っています。もちろん、わがままには「それは、わがままだ」と伝えることもあります」


−−お立ち台に上ることも結構あります。あの場所での通訳で気をつけていることはありますか?

「お客さんが間延びしないように、テンポよくを心がけています」



−−成功する外国人選手の特徴のようなものはありますか?

「まず日本食が好きなこと(笑)。そして、人がリスペクトしあう日本文化が好きなことです。日本での生活が楽しめなくて、自分のことだけを主張するような選手は長続きしませんね。オリックスの外国人選手はナイスガイばかりで、本当に日本での生活を楽しんでいますよ。彼らには感心することばかりですね」


−−スタンドから見ていても、今どきの外国人選手はずいぶん昔と変わってきているように思います。

「時代の変化…かもしれませんね。アメリカでも日本の「ゆとり教育」じゃないですが、怒らない、人を攻撃しない、人の心を傷つけない教育が主流になりつつあります。その辺の影響が今の選手たちにあるんじゃないかと思いますね。今はもう「オラオラ系」はいませんね(笑)」


−−英語力は最初からお持ちでしたか? 野球英語には独特なものがあると思いますが

「高校の頃は全然(笑)でしたね。留学中に、それこそかつてないほど勉強しました。勉強しないと卒業できませんから。野球英語には最初は苦労しましたが、選手たちとの会話で習得していきましたね」


−−スペイン語圏の選手もいますが?

「彼らはマイナーリーグで英語教育をそれなりに受けているので、まあなんとかなるんですが、使う言葉が異なる場合がありますね」


−−通訳というお仕事をされる上で、一番大切にされていることを教えてください。

「相手をリスペクトするということです。自分から敬意を示さないと、相手から敬意はもらえません。誠意を持って接することを、心がけています。その上で距離感を大切にするということですね。距離が近くなり過ぎずに、お互い心地よい関係でいることです」


−−最後に、これからのご自分の展望を教えていただけますか?

「多くの選手が活躍してくれるように、今までのことを継続していきたいと思います。継続っていちばん大切なことですから。軸をぶらさず、真摯に外国人選手たちに接していきたいです」


−−シーズンが終わると、秋は別れの季節でもありますね。

「これからの季節はねえ、寂しいんですよ。涙の別れなんかもありますよ。でも3ヶ月もしたら戻ってくることが決まったりして!あの涙はなんだったんだ? みたいなこともあります(笑)」


−−お体に気をつけて、これからも頑張ってください! ありがとうございました。



荒木さんは、穏やかで笑顔の素敵な「ナイスガイ」であった。初対面なのに、荒木さんと話しているとなんとも居心地が良いのである。限られたインタビュー時間は、あっという間に過ぎてしまった。さすが、コミュニケーションのプロ。この「心地よさ」で、多くの外国人選手と良好な関係を築いているのだろう。彼らが活躍できるのは、生活面も含めて荒木さんが静かに心地よくフォローしているからなのである。

とはいえ、荒木さんの心地よさは決して「技術」ではないと感じた。相手を思いやる気持ちは、自然に荒木さんの心にあるものなのだ。様々なご苦労もあるはずだが、荒木さんの雰囲気は自然体で肩に力が入っておられない。ここに行き着くまで平坦な道ではなかったはずだが、荒木さんを支えているのはその「人格」なのである。だからこそ、いろんなご縁があって、当初の目標ではないところでご本人が「天職かな?」とまでおっしゃる通訳の仕事に導かれたのであろう。

ディクソン投手をはじめとして、最近のオリックスの外国人選手は繊細で知的なイメージがある。なんでかな?と思っていたら、彼らも「ゆとり世代」だからかも… という荒木さんの指摘に「なるほどね!」である。時代は変わっているのだ。いい方へ。全ての人がお互いをリスペクトする気持ちを持てば、ハッピーな世の中になるはずである。もちろん、野球に限らず。

荒木さん、お忙しい中ありがとうございました。これからもオリックス外国人投手陣を支えてください。








<過去コラム一挙掲載!>

オリックス、元メジャーリーガー、女子野球…ベースボール遊民・南郁夫の野球コラム集。





南 郁夫 (野球観察者・ライター)
通りがかりの草野球から他人がやってるパワプロ画面まで。野球なら何でもじっと見てしまう、ベースボール遊民。あくまで現場観戦主義。心の住所は「がらがらのグリーンスタジアム神戸の二階席」





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